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28. 二人の出発

読んでいただき、ありがとうございます。

 両親は帝国に邸をもらい、父は帝国の研究者と共に魔術の研究をしている。お互いに新しい発見があり、研究が進んでいるようだ。


 私は城の調剤室を間借りして、いつもの毛生え薬と傷薬などを作っている。その間、殿下は皇帝陛下の戦後処理などの手伝いをしているようだ。

 キザラ国の賠償金は相当な額になり、小国サフェロと共に交渉に当たっている。サフェロ国とは友好国として条約を結びキザラ国に共に対抗できるようになる。


「サフェロはミリーの身柄を要求したそうだけど、皇帝陛下が、病気の弟を人質に取られていた事と魔女の力を抑制する事を鑑みて、皇国で配下に置くと了承を得たそうだよ」

「そうですか。良かったです。セシルも起き上がれるようになったそうです。ミリーがとても喜んでいました」


 殿下は私の手を取り抱き寄せる。


「アグネス、そろそろ帝国を出ようと思うんだ。二人で誰も知らない土地に行って暮らさないか?」

「シオン様は本当にそれでよろしいのですか?ずっとオルベルト国の王になるべく頑張ってこられたではありませんか?後悔されるのではないですか?」

「僕が王であろうとしたのはアグネスがいたからだよ。アグネスが頑張ってるのをずっと見てきたから、僕も王としてオルベルト国に仕えなければいけないと思ってきた。でも君がいないんじゃ全て意味がない」


 一度聞いてみたかった事を聞くチャンスかもしれない。


「ど、どうしてそんなに私を思ってくださるのですか?私は特別秀でたところもありませんし、シオン様ならもっと素敵な方がたくさんおられるでしょう」

「君の代わりはいない。僕はどうしようもなく君に惹かれているんだよ。僕の他には誰もその目に映したくないほどにね。僕の心臓を取り出して君に捧げることも厭わない」


 理由はわからなかったけれど愛されている事は痛いほど伝わった。怖いほどに。


「心臓は要りません。シオン様が後悔されないのなら私はどこまでも付いていきます」

「うん、どこまでも一緒だよ」


 ぎゅうっと抱きしめられる。


「それでどこへ行くのですか?」

「南のベルン国へ行こうと思っている。僕達を知る者もいないし治安もいいしね。実は偽名でベルンの金鉱山へ投資をしているんだ。それが思わぬ利益を産んでいる。アグネスを一生食べさせてあげられるくらいの蓄えはあるよ」


 王太子が他国に偽名で投資?

 もう意味がわからない。


「そうですか...。では、いつ出発しますか?」

「そうだな、準備もあるから一週間後にしようか」

「わかりました」



 それからも殿下はなにかと皇帝陛下の手伝いをしているようで忙しそうだ。

 私は毎日、調剤室を訪れて薬を作り、時々ミリーが来ると作り方を教えている。

 セシルは日に日に回復して外を歩けるようにまでなった。


 皇太后もすっかり元気になり、ミリーと毎日魔法談義に花を咲かせているようだ。


「アルタニア様、殿下と帝国を出ることなりました。長らくお世話になりありがとうございました」

「どうしても出ていくの?寂しいわね。オルベルトへ帰るの?」

「いいえ、オルベルトへは帰りません。南のベルンへ行くつもりです」

「ベルンへ?そうなの。転移魔法でミリーと遊びに行こうかしら」

「ふふ、はい是非いらして下さい。魔法郵便を書きますね」

「ええ、待っているわね」

「ミリーをよろしくお願いします」

「ええ、二度とミリーの力が悪用されないように私が守るわ」


 ノックがあり侍女が入ってくる。


「あの、魔女だと名乗る女性が、短い金髪の魔女に会わせてほしいと言っているのですが、いかがいたしましょう?」

「魔女?」

「はい、北の鉱山の魔女だと言えばわかると」

「会うわ、お通ししてください」


 しばらくすると黒髪に赤い目の魔女が部屋に通されてくる。


「探したわよ。階段から行こうとしたけど、この城は魔法が使えないのね。仕方ないから魔女だと言って通してもらったわ」

「私を探していらしたのですか?」

「そうよ。私、呪いを解いたの。全て思い出したわ」

「そうですか...それで私に会いに?」


「ええ、まず、呪いの事を教えてくれてありがとう。私があなたに呪いをかけたのに。それから...私の大切な思い出を思い出させてくれてありがとう。私...旦那と子供を...亡くしてるの」

「え......」

「鉱山の事故でね。魔女の力を持っていてもどうにもならないこともある。十年経っても辛いけど...でも私だけは二人のことを忘れてはいけないのよ」

「...思い出して、良かったのですか?」

「ええ、もちろん。忘れたらそれは私じゃなくなる。良い思い出も悪い思い出も私の一部よ。ちゃんとあなたに謝ってお礼を言いたかったから来たの。呪いをかけてごめんなさい。それから、ありがとう。それだけ」


 魔女は出て行こうとする。


「あの!私はアグネスです。あなたは?」

「私?私はカミラ」

「私もカミラさんに謝らないといけません。カミラさんの住んでいた家を追い出してしまった。申し訳ありませんでした」

「そうね、じゃあ、おあいこって事ね」


 魔女は初めて笑みを見せる。


「私はこの国の皇太后アルタニアです。あなたは今一人でいるのかしら?」


 皇太后が立ち上がりカミラに話しかける。カミラは皇太后と聞いて驚いている。


「あ、はい、そうですけど」

「私は魔女の力を研究する研究所を作るつもりなの。今の魔女の待遇を改善していきたいと思っています。あなたも協力してくれませんか?」

「え?私が?」

「ええ、一人でも多くの魔女の協力が必要よ。あなたさえ良ければ城に来て研究を手伝ってもらえないかしら。他にも魔女がいて、その子の指導もお願いしたいわ」

「そんな、いきなり言われても」

「ゆっくり考えてみて。私はいつでもあなたを歓迎しますから」


 カミラは戸惑いながら、考えてみると言い残し帰って行った。


「アルタニア様、魔女の研究所を作るおつもりなのですか?」

「そうなの。魔女について余りにも分からない事が多すぎるわ。まぁ、アレキサンダーが魔女の文献を全て燃やしてしまったせいなのだけれども。だから、これから魔女や魔法、魔力について調べてみたいと思ったのよ。本当はアグネスにも手伝ってほしかったけれど仕方ないわね」

「それはとても素晴らしい事だと思います。私は国を離れますが、お手伝いできる事があればお知らせください」

「ええ、お願いね」



 一週間が経ち、殿下と私は両親に別れを告げて帝国を離れる。転移魔法では正確な位置に行けないので、地道をゆっくり行くことにする。


 南の国ベルンへは湾を挟んでいるため陸を遠回りして行くか、海を通って最短距離でベルン国へ行くかだが、天気も良さそうなので海を渡ることにする。馬車で港に着くと、たくさんの船が帆を広げているのが見える。ベルン国への船はすぐに出るようだ。船に乗るともう初夏の日差しが眩しい。


「シオン様、ベルンは暑いのでしょうか?」

「アグネス、もうこれからは平民になるのだから、様はつけずに呼び捨てにしていいよ」

「え!それはできません」

「様をつけていたら逆におかしく思われるよ」

「そ、そうですね。でもすぐには...」

「じゃあ、これから様をつけたら罰としてキスをすることにしようか?」

「ええっ!そ、それは困ります。わかりました。様をつけないように頑張ります」


 殿下は楽しそうに私を見て笑っている。


「アグネス、ベルンに着いたら教会へ行って二人で結婚式をあげよう」

「結婚式ですか?二人だけで?」

「とりあえず二人だけで?嫌?」

「い、嫌じゃないです。そうですか、結婚式ですか」


 全く考えていなかったので想像できない。


「やっとアグネスを僕だけのものにできるね」


 殿下を見上げるととても綺麗な笑顔で笑っていて惚れ惚れするはずだが、なぜか背筋が寒い。


「シオン様はいつから結婚式のことを考えていたのですか?」


 殿下はニッと笑って私にキスをする。


「駄目だよ、アグネス。様がついてる」


 二人で船室にいるからいいが、みんなの前でこれをされたらたまらない。


「それから、これからは偽名で暮らすから名前も変えないとね。僕はルカで通すつもりだ。アグネスはどうする?」

「では、私はアグリにします。ルカは殿下のミドルネームですね」

「アグリはイスタンでも使っていたよね。どうしてアグリなの?」

「何となくで意味はありません。よく似た名前の方が覚えやすいかと思って」

「そうか。アグリも可愛いね。アグリが僕の奥さんの名前だね」


 もう甘い。甘すぎる。二人になってから殿下の甘さが止まらない。


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