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26. 魔女の戦い

読んでいただき、ありがとうございます。

 砦が突然崩れてキザラ軍が動揺しているのが分かる。

 しかし、すぐにこちらに向かってくる。傷をつけられないと慢心しているのだろう。


 間もなく交戦というところで、私は帝国軍に守護魔法をかける。それと同時に皇太后がキザラ軍にかかった守護魔法を解く。両軍がぶつかると、あちこちでキザラ軍の断末魔の声が響く。敵とはいえ聞いていて心地よいものではない。しかしこれが戦争だと自分に言い聞かせる。


 すぐに異変に気がついたのか、魔女らしき女が出てくる。そして火龍が現れる。渦巻き天高く登る炎の柱が二つ三つと立ち上がる。それを機にキザラ軍が引いていく。殿下はすかさず、引くキザラ軍へ先ほど陰に隠した矢の雨を降らせる。またあちこちで阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。


 火龍は意志を持ち皇帝軍を追い詰める。私は両手を天に伸ばす。それに呼応するように水の柱が立ち上がり水龍となる。火龍と水龍がぶつかり、水蒸気が撒き散らされる。

 キザラの魔女もこちらに魔女がいることに気がついたようだ。明らかに動揺している。


 何度も龍たちがうねりながらぶつかる。だんだん水蒸気が濃くなり、あたりが霧で白くなる。私はその隙に転移してキザラの魔女の後ろに付く。肩に手を振れ再び転移する。転移した先はあの箱の前だ。私は後ろからキザラの魔女を押して箱に入り、殿下が入って扉を閉めるとすぐに、キザラの魔女を後ろ手に拘束し跪かせる。


「なっ!」


 キザラの魔女は魔法を放とうとするが全て魔石に吸収される。


「この中では魔法は使えないわ。諦めなさい」

「そんな!あなたも魔女なのね!私の他にも魔女がいたなんて」


 黒髪を振り乱し、拘束を解こうとするが腕が痛むのか諦め静かになる。


「そうよ。私もあなたと同じ魔女よ。あなたに聞きたいことがあるの」

「何よ」

「どうして戦争に加担したの?魔女の力が戦争に使われれば恐ろしいことになると分かっているでしょう?」

「私は、弟を助けたかったのよ!私が役に立てば弟の病気を治してくれると王様が言うから。私にはもうそれしか方法がなかったのよ!」


 よく見ると確かに私と同じ歳くらいだ。髪は伸ばし放題で頬は土で汚れている。とてもいい暮らしをしているとは思えない。


「あなたの弟は何の病気なの?」

「分からない。段々弱ってもう歩くこともできない。私にはもう弟しか家族がいないの」


 殿下と顔を見合わせる。

 とても嘘をついているようには見えない。


「あなたは利用されているのよ。本当に弟を治してくれるかどうか分からないわ。あなたの力が必要な限り利用され続ける」

「そうだとしても他にどうしろと言うの。弟が死ぬのを黙って見てろとでも言うの」


 殿下とまた目を合わせる。殿下は静かに拘束している手を外すと、キザラの魔女は手をさすりながら立ち上がる。


「あなたの弟を治せるかどうか分からないけれど、私があなた達を保護するわ」

「どうしてあなたが?あなたは敵国の魔女でしょう?私を殺すんじゃないの?」

「あなたがこのまま戦い続けると言うのなら殺すしかないわ。でも弟を助けたいと言うのなら、私はあなたに協力する」

「どうして?」

「私はこんな風に魔女が利用されるのが許せないの」

「...弟を助けてくれる?」

「私を信じてくれるなら全力を尽くすわ」


 キザラの魔女は俯いて黙り込む。


「分かった。あなたを信じるわ。お願い、弟を助けて」

「ええ。あなたの弟は今どこにいるの?」

「キザラの王城にいるわ。宮廷医師が診てくれているけれど全然良くならないの」

「そう。とにかく弟を連れてきましょう。私たちも一緒に行くわ。私はアグネス。あなたは?」

「私はミリーよ」


 殿下は渋い顔をしているが反対はしないらしい。

 箱の扉を開けて外に出る。


 戦闘は既に決着が着いたようだ。キザラ軍は怪我人を担ぎながら逃げていく。


「シオン王太子、アグネス嬢、よくやってくれた。彼女があの魔女か」


 皇帝が満足そうに笑みながらやって来る。


「皇帝陛下、彼女は病気の弟を人質に取られ、仕方なく戦争に加担したのです。彼女の身柄を私に預けてください。今から彼女の弟を助け出しに行ってきます」


 皇帝は眉をすがめてミリーを見る。


「それが本当だと?そう言って逃げるつもりかもしれない」

「責任は私が持ちます。必ず彼女の弟を助け出し戻って参ります」


 私は皇帝陛下を見つめる。どうあっても引く気はない。


「ふん、分かった。そう睨むな。必ず戻って来い」

「ありがとうございます。では行ってきます」


 私は殿下と手を繋ぐとミリーの肩に手を置き転移する。彼女の誘導でキザラ城の一室に辿り着く。



 昼なのに暗く狭い部屋だ。簡易なベッドが置かれている。ミリーがベッドに近づき腰掛ける。


「セシル、姉さんよ。具合はどう?」

「...姉さん」


 弱々しい声がする。10歳くらいだろうか。痩せこけて目に生気がない。


「この国を出ることにしたの。必ずセシルを助けてあげるからね」

「私はアグネス。お姉さんとあなたを助けるために来たの。一緒に行きましょう」


 その時、ドアの外で話し声が聞こえる。殿下は咄嗟にドアに鍵をかける。


「あれ?ドアが開かない。チッ、誰か鍵をかけたのか?定時に薬を与えないといけないのに」

「ハハ、薬じゃなくて毒だろう。仕方ない鍵を取りに行くか」


 声が遠ざかっていく。ミリーがゆっくり立ち上がる。


「今、毒って言った?」


 確かに毒と聞こえた。ミリーを見ると魔力が溢れてきている。


「ミリー、落ち着いて。魔力が漏れているわ」

「あいつら...、病気を治すふりをしてセシルに毒を...」

「とにかく落ち着いて、セシルを早く連れて帰らないと」

「これが落ち着いていられる?あいつら許さない」

「ミリー、駄目よ、」


 次の瞬間、部屋が燃え上がる。殿下が私を抱きしめてセシルのそばへ行く。


「ミリー落ち着くんだ。このままではセシルも焼け死ぬぞ」

「ははは!こんな城、燃えてしまえばいい!」


 窓の外を火龍が走るのが見える。

 殿下はミリーの腹を殴ると気絶させる。


「アグネス、転移で戻るよ!」

「はい!」


 私は殿下に抱きしめられながら、ミリーとセシルに手を伸ばし掴むと転移魔法を放つ。



 再び現れた私達に皇帝は驚いた様子もなく、地面に横たわるミリーとセシルを見る。


「なんだ、もう戻ってきたのか。弟は見つかったようだな」


 私と殿下は思わず顔を見合わせ、ため息を漏らす。




 私は既に魔女だと知られているので転移で王都へ帰ることにする。皇帝陛下、皇太后、父、殿下、私、ミリー、セシルを転移で連れて帰る。

 そういえば私の魔力はどこまで使えるのだろう。底の見えない魔力にまた恐ろしくなる。


 ミリーは目覚めてからは落ち着き、私と殿下に謝りセシルを助けたことを感謝している。


 セシルは光魔術の使い手により解毒は無事にできたが、身体が弱っているためしばらく十分な療養が必要だろう。今度こそ、帝国の宮廷医師に治療されることになる。




 数日経ち、殿下と私は今、皇帝陛下の執務室にいる。


「どうやらキザラはサフェロを攻め落とし北と東から帝国を挟み撃ちするつもりだったらしい。実際、北の辺境伯軍が東へ向かったので北からの侵入は容易だっただろう。しかし、キザラの王城がなぜか燃え尽きてしまったのでそれどころではなくなったようだ」


 皇帝は楽しそうに話す。なぜ王城が燃えたのか分かっているようだ。

 そういえば、私も殿下に婚約破棄された時、オルベルト国の王城を燃やし尽くそうと考えたなと思い至り、やらなくて良かったと震える。


「オルベルトとイスタンも攻め入る機会を窺っていたが、思わず帝国が早期に勝利し、機会を失ったのだろう。今回、シオン王太子とアグネスの働きがなければ危なかった。感謝している」

「お役に立てて良かったですが、オルベルトの動向についてはまだ予断を許しません。油断なさいませんようお願いいたします」

「シオン王太子はこの国に留まるつもりはないか?アグネスも魔女だと知れ渡ってしまった以上、これから何かと面倒になるだろう。帝国にいれば守ってやれるのだが」

「...これからどうするかまだ決めかねております。しかし、しばらく逗留させていただきたく思います」

「気の済むまでいていい。それから、ミリーはキザラの戦争に加担していたが、弟を人質に取られていた事を考慮して帝国に仕えるなら不問とする事とした」

「寛大な沙汰をいただき、ありがとうございます」


 キザラの王城も燃やし尽くしましたしね。




 キザラ国に攻め落とされた小国サフェロは、キザラ国の兵が帝国軍に敗れ撤退し、再び国を取り戻せた。



「アルタニア様、お体大丈夫ですか?」


 遠征と使いなれない魔法を使ったからか皇太后は体調を崩して寝込んでいる。


「私ももう歳ね。こんなことで寝込むなんて。でもね、魔法を使ってとても楽しかったわ。初めて思いっきり魔法を使ったのよ」

「これからはもう我慢しなくてもいいですね。国のために魔法を役立ててください」

「アグネス、あなたはどうするの?オルベルトへ戻るつもり?ミリーもいることだし、このまま帝国に残って私と一緒に魔法を広めてみない?」

「私は、今回の事で以前よりもっと魔法の怖さを知りました。魔女の存在の危うさも。これからどうすべきなのか、じっくり考えたいのです」

「そうね。あなたが魔女であることも知られてしまった。今後は十分気をつけないといけないわね。この国はいつでもあなたを歓迎するわよ」

「アルタニア様、ありがとうございます」



 私は魔法郵便でナタリーとキャサリンへ、戦争が終わったこと、しかしまだ油断しないようにと手紙を出す。すぐに返事が来て、私が魔女であることが広まっていて心配だと書いてあった。


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