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23. 魔女の力

読んでいただき、ありがとうございます。

次の日、朝食の席に、皇帝、皇太后、殿下、私が揃っている。


「おはようございます。皇帝陛下、アルタニア様」

「おはよう。よく眠れたようだな」


皇帝陛下は含んだ笑いをしている。


「皇帝陛下、今日アグネスを連れて帰ります」

「性急だな。帰ってどうするつもりだ」

「父に王太子位を弟のユリウスに譲ると話します。もし許されるなら弟を支えて国に残るつもりです」

「もし反対されたら?」

「アグネスと国を出ます。二人でならどこででも生きて行ける」


殿下は私を見てうっとり微笑む。その微笑みに頬が赤らむのを感じる。私は両親と今後のことを話すために一時オルベルト国へ帰ることにした。殿下の事は思い出せないが、一緒にいると心が浮き立つのを止められない。


「朝から見せつけるな。もし他国へ行くつもりなら帝国に来い。それなりの地位を用意する。アグネスの力も必要だ」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」

「アグネス、考え直すつもりはない?」

「アルタニア様、申し訳ございません」

「そう、でも私はあなたがいつか魔女を導いてくれるのではないかと思っているわ」


そんな大それたことを私ができるとは思えないが、いつか私も自分の力をみんなに誇れるようになりたいと思う。



殿下は数名の騎士と共に騎馬で来ていたので、殿下の馬に一緒に乗って帰ることになった。


「アグネス様、お久しぶりです。またお会いできて良かったです」

「隊長、お久しぶりです。この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

「いいえ、殿下のわがままには慣れていますので」


隊長の笑みに、殿下は不満顔だ。


「一人でいいと言ったのに付いてくるからだ」

「一人で行かせられる訳がないでしょう。呪いが解けた途端、アグネス様を迎えに行くと飛び出して行って。慌てて遠征の準備をして追いかける、こっちの身にもなってください」


そんなに迷惑をかけてたのか。


「そういえば、殿下はどうやって私がここにいると分かったのですか?私の両親からお聞きになられたのですか?」

「...ああ、そうか。アグネスは忘れているんだね。後で二人きりの時に教えてあげるよ」


殿下はいたずらっぽく笑う。


「アグネス様、前にお聞きした加護なのですが、本当に何もされてませんか?我々、北の鉱山に行ってから全く怪我を負わないのです。偶然では済まされないくらいに」


隊長に再度聞かれる。どうしようか。

加護を授けたことにすれば良いかな。


「簡単な加護を授けたかもしれません。でも油断なさらずに怪我には十分お気をつけください」

「ありがとうございます。それを聞き安心しました。もしかすると何かの呪いの類ではと心配する者も出るくらいで」


そんなに効き目があるのか。魔法だと言えたらいいのに。


そして二人の時にマイルのことを再び聞いた私は、今後マイルの力を使わないように殿下に約束させた。マイルは疲れて眠っているらしい。


それから五日かけてオルベルト国の王都へ帰る。行きはイスタン国から海を渡って行ったが、帰りはエルランド帝国から直接オルベルト国へ地道を行く。


そういえばザワリはイスタン国へ帰ったのか?

私を誘拐し大金を手に入れて、今度会ったら絶対に許さないと誓う。


オルベルト国へ着くと私は公爵邸へ戻ろうとするが、殿下は私を城へ連れて行こうとして押し問答があり、とりあえず一日公爵邸へ戻っても良いということになった。


「お父様、お母様、ただいま戻りました」

「ああ、おかえり、アグネス。結局、殿下に連れ戻されたのだな」


お父様は渋い顔だ。殿下に対してよく思っていないのだろう。


「私は元々皇后になるつもりはありませんでしたので、帝国を出られて良かったのです。殿下の事は覚えていませんが...ですが、殿下と一緒にいたいと思っています」


改めて言葉にして自分の気持ちを再確認する。

そうか、私は殿下が好きなのだ。


「ふぅ、アグネス次第だとは言ったが、陛下は殿下とお前との結婚を許さないだろう。私ももう魔術大臣を辞したからお前の後ろ盾にはなれない」

「殿下は王太子位を返上してユリウス王子に譲られるそうです。陛下がお許しくださらない時は殿下と二人で国を出るかもしれません」

「そうなのか?...殿下がそこまで覚悟を決められているなら私は何も言う事はない。国を出るなら私も協力できる」

「アグネス、あなたの幸せになれる道を選びなさい」

「お父様、お母様、ありがとうございます」


兄は領地へ行っているので会えなかったが、久しぶりに両親とゆっくり食事をした。

今まで家族として過ごして来なかったのが嘘のようにわだかまりが解けていく。


次の日、しかし殿下からの連絡はない。陛下との話し合いがうまくいかなかったのかと心配だ。

夜になりユリウスが訪ねてくると先触れがある。


ユリウスが着いたと侍女から連絡が入り、サロンの扉を開くとそこにはフードを被った殿下がいた。


「シオン様?どうして?ユリウス様は?」

「ユリウスの方が良かったのか?」


殿下は拗ねたように言い、私のそばにくると腰を抱き寄せる。


「そうではありません。ユリウス様が来られると先触れを受けていたので。シオン様はどうして?」

「陛下に王太子位を降りると言ったら部屋に監禁されたんだ。だけど、ユリウスが来て身代わりになってくれたから抜け出して来られたんだ」

「ユリウス様は大丈夫なのですか?」

「なぜユリウスの心配ばかりするんだ。私の心配はしてくれないのか?」


子どもみたいなことを言う。自分の身代わりをしてくれたユリウスを心配しないのか。


「シオン様は今ここにいらっしゃるじゃないですか。ユリウス様は身代わりになってお咎めがあるかもしれないのですよ」

「ユリウスなら大丈夫だよ。きっと上手くやる。アグネスはユリウスが...好きなのか?」

「...シオン様、私はユリウス様を弟のように思っております。シオン様の思っていらっしゃるような感情はありません」

「そう、良かった。ユリウスがずっとアグネスを好きなのは知っていたから会わせないようにしていたのに、僕が呪いで記憶を無くしている間に二人で頻繁に会っていただろう。もしかするとユリウスを好きになってしまったのではないかと心配していたんだ。もしそうなったらユリウスをこの手で...」

「げふんげふん!...シ、シオン様はこちらへはどうしていらしたのですか?」


危ない言葉が出そうな予感がして慌てて遮る。


「もちろんアグネスに会いに来たんだよ。陛下は僕が王太子位を返上することも、アグネスと結婚することも認めてはくれなかった。それどころかサリタ王女との婚約話を進めようとしているんだ。もう城へは戻らない。アグネス、この国を出て二人で暮らそう」

「陛下は私をお嫌いなのですね」

「そうじゃないよ。陛下はずっと領土拡大を模索している。このままではいつか帝国に吸収されるのではないかと恐れているんだ。だから聖女の力を利用して国力を増強しようとした。だが、イスタン王国のサリタ王女との婚約話が出て、二国で協力して帝国に対抗できると思ったんだろう。ハイドレン卿は友好政策を推して、それにずっと反対していた。陛下がアグネスとの結婚を渋っている理由はそのためだよ」

「そうだったのですね。皇帝陛下やアルタニア様の様子ではオルベルト国に対して友好的であったと思うのですが」

「それもいつ変わるか分からないよ。魔女の力を欲しているのは国力増強のためだけとは限らないしね」


魔女の力を手に入れれば戦争にかなり有利だろう。何しろ守護魔法で怪我さえしない。段々自分の力が恐ろしくなってくる。


「魔女の力を戦争なんかに利用されないようにしないと」


殿下が気遣うように私を抱きしめながら言った。


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