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22. 皇妃と王妃

読んでいただき、ありがとうございます。

 それから両親は一旦オルベルト王国へ帰っていった。


 この城に来て数日が経つ。城の中を案内されたり、この国の歴史を勉強したり、その他は自由にさせてもらっているが部屋から出ると必ず侍女と護衛が付き城からは出られない。朝と晩の食事は皇帝と皇太后と食堂で取っている。前皇帝夫妻は病気療養のために温暖な南の離宮にいるらしい。


 夜、晩餐室へ行くと既に皇帝と皇太后が座っている。


「遅くなり申し訳ございません」

「いいのよ、この城には慣れたかしら?」

「はい、ですが、私が急にいなくなり知り合いが心配していると思います。一度帰らせてはいただけないでしょうか?」


 ダメ元で言ってみる。


「手紙を出したのでしょう?では大丈夫よ」

「私はいつまでこの城にいなくてはいけないのですか?」

「まあ、もうここはあなたの家よ」

「アルタニア様、魔女の復権はお手伝いしますが、私は皇后にはなれません。私が各地を回って魔女を探してきます」

「あなたは今まで何人の魔女に会ったことがあるの?」

「五人です」

「そんなに?で、その中に年頃の娘はいる?」

「...一人います」

「その女性を連れて来られるかしら?」

「彼女がいいと言えば」

「その人は貴族なのかしら?」

「いえ、女優なので各地を家族と回って公演をしています」

「そう、残念ね。皇后になるには高位貴族でなければならないわ。しかも友好国のオルベルト国、イスタン国、南のベルン国のいずれかでないと」


 そう言われるとますます私しかいないような気がしてくる。


 その時食堂の扉がノックされ、侍従が入ってくる。

 侍従は皇帝のそばへ行くと何やら耳打ちしている。

 皇帝は一瞬驚いた顔をしたが、私の顔を見るとニヤリと口の端をあげる。


「これは面白い。オルベルト国の王太子が謁見を求めてきた。アグネス、お前を迎えにきたそうだ」

「え?私をですか?」


 王太子殿下がなぜ私を迎えにくるのか?

 顔も名前も思い出せない。会ったことがないはずはないのに。

 そういえば父が呪いで忘れていると言っていた。


「ふふふ、では会ってやろう。席を一つ用意しろ。晩餐に招待してやる」


 皇帝は実に楽しそうに侍従に命じる。


 しばらくすると扉が開き一人の青年が入ってくる。


 私は振り返って殿下を見る。長めの黒髪に切長の深い青い瞳。背はスラリと高く痩せ気味だ。やはり見たことがない。


 殿下は私を見つけると真っ直ぐこちらへ向かってくる。戸惑いながら挨拶をしようと立ち上がるが、そのまま抱きしめられる。


「え?あの...」


 ぎゅうっと抱きしめられて苦しい。


「なんだ、呪いが解けたのか?」


 皇帝がつまらなそうに言う。

 呪いって?私の呪いは解けていない。


「あの、苦しいので離していただけますか?」


 殿下は首を振りますます力を込めて抱き締める。

 ほんとに苦しい。


「そこまでにしなさい。アグネスが折れてしまうわ」


 皇太后の声でようやく殿下は私を離す。が、手はしっかり腰に回ったままだ。


「アグネス、やっと会えた。君を忘れるなんて、僕は本当に馬鹿だ。許してくれ」


 じっと目を見つめられて戸惑う。いきなり初めて会った人に告白された気分だ。


「あの、申し訳ございませんが、私は殿下のことを覚えておりません」


 殿下は一瞬目を見開き、しかし気遣わしげに私の頬を撫でる。


「そうか、アグネスも呪いにかけられたのか。それで出て行ったんだね。いいよ、僕が全部覚えているから。思い出はこれから二人で作っていけばいい」


 私も、という事は殿下も呪いにかけられたのか。

 二人ともお互いを忘れてしまった?


「待ちなさい。アグネスは皇帝と結婚して皇后になるのです。オルベルト国へは帰しませんよ」


 皇太后が立ち上がり語気を強くする。


「皇帝陛下と?なぜアグネスが?」


 殿下は素早く私を自分の後ろに隠す。


「まあまず席に座れ。話はそれからだ。シオン・オルベルト王太子殿下」


 皇帝はデーブルの上で手を組みあごを乗せて、ため息をつきながら言う。


「皇帝陛下、突然に参りまして申し訳ございません。晩餐にご招待くださりありがとうございます」


 今更ながら殿下が挨拶をする。

 そして私の隣に用意された席に着くとすぐに晩餐が始まり料理が運ばれてくる。


「王太子、呪いは解けたのか?」


 皇帝がワインを飲みながら聞く。


「ご存じなのですね。私の呪いは解けました」

「どうやって呪いを解いた?」

「分かりません。突然全てを思い出しました」

「突然?呪いを解いたのではなくて?」


 皇太后が思案顔で王太子を見る。


「もしかすると呪いを跳ね返したという事かしら?」

「私にも分かりません。ところで先程の、アグネスを皇后にするというのはどういう事なのでしょうか?」

「ああ、アグネスには皇后になって魔女を導いてもらう。魔女の力を役立てるためにな。私自身も彼女を気に入っている」


 皇帝がニヤリと笑いながら私を見る。

 それを見て殿下は私の右手を取り握りしめると、


「皇帝陛下、アグネスは私の妻にします。皇帝陛下といえども渡しません」

「しかしもう婚約破棄しているだろう。アグネスも国を捨てて来ている。今更オルベルト国の王妃にはなれまい」

「王太子位は返上します。私は彼女がいればいい」


 熱い目で見つめられて戸惑う。


「そんなことが許されるわけないだろう」

「彼女のためなら全て捨てる覚悟です」

「...そこまで思っているのか」


 殿下は私の手を握りしめ見つめてくる。

 皇帝が苦笑いを浮かべ皇太后を見る。


「これはどうやら横槍は難しそうですよ、お祖母様」

「アグネスはどうなのかしら?本当にそれでいいの?」

「私は...」


 正直、私は皇妃にも王妃にもなりたくない。魔女として一人の女性として自分の幸せを自分で見つけたい。

 殿下の事は全く覚えてないが抱きしめられて嫌だとは思わなかった。でもだからといって今すぐ受け入れられる訳ではない。


「私は、魔女として何ができるのか自分で考えたいです。自分の道は自分で切り開きたいのです」

「はぁ、そうなの。...仕方ないわね。でも魔女の復権には協力してもらうわよ」

「はい、私にできることがあれば協力します」




 食事が終わり部屋へ戻ろうと歩いていると殿下が追いかけて来る。


「アグネス、話があるんだ。私の部屋へ来てくれないか?」


 殿下も城に客間を用意されている。


「かしこまりました」


 部屋へ着くと人払いをして扉を閉める。するとすぐに殿下に抱きしめられる。


「で、殿下、お離しください」

「少しだけ。お願いだ、アグネス」


 離してくれないので、しかたなく抱きしめられるまま任せる。


「はぁ、癒される」

「で、殿下、話とはなんですか?」

「二人の時はシオンと呼んでほしい」

「...私は婚約者ではありませんので名前では呼べません」


 殿下は少し離れて寂しそうな顔をする。


「アグネス、どうやって呪いを解いたのか、分からないと言ったが、本当は分かっているんだ」

「え?どうやったのですか?」

「呪いをかけられてから、ずっと頭に靄がかかったようだった。いつも見えない何かを探しているような、何か分からない感情にイライラしていた。それが見つかりそうになると、ひどい頭痛がして何も考えられなくなるんだ」


 殿下は私の髪を何度もときながら掬っている。

 その手の感覚を前に感じたことがあるような。


「温室でユリウスがアグネスに告白しているのを聞いた。胸が焼け付くかと思ったよ。でもそれが一体なんなのかあの時の僕には分からなかったんだ」


 あの時、温室に殿下もいた?

 愛おしそうに私の頬を包みこむ。


「アグネスが結界を張りに西の洞窟に行ってから、収まるどころか日に日に焦燥感が募って、何も手につかなくなっていった。

 アグネスが帰って来たと聞いて会いに行ったが君はあの家にいなかった。次の日に君が手紙を置いて出て行ったと聞いて絶望したよ」


 殿下は苦しそうな表情を浮かべている。


「なんとか君を探そうとしたが、どこにいるか全くわからなくて。公爵には探すのを断られた。その内、陛下にサリタ王女との婚約を打診されて、彼女に手を取られた瞬間、彼女の手を振り払っていたよ。アグネスじゃないと嫌だって。その時に全てを思い出したんだ」


 殿下の顔が近づいて来る。


「アグネス、キスをしてもいい?」


 もう触れそうな位置で聞いて来る。

 私が口を開こうとした瞬間、唇が触れた。

 触れるキスはすぐ離れたが、また直ぐ口付けられる。


「アグネス、愛している」


 深く口付けられた。


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