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21. 皇后

読んでいただき、ありがとうございます。

「は?」


 思わず素で大きな声が出る。

 皇帝と老齢の魔女を交互に見るが二人とも真面目な顔をしている。


「な、何を言っているのですか?結婚なんて無理です!」


 手を全力で振る。意味がわからない。なぜ結婚しなければならないのか。緊張もすっかり吹き飛ぶ。


「お祖母様、いきなりでは戸惑いますよ」

「回りくどく言っても仕方ないでしょう」


 お祖母様?


「あなたには皇后となり魔女である事を公表してもらいます。そうすれば帝国ではもう魔女は忌み嫌われる存在ではないと知らしめることができるでしょう」


 私は瞬きを繰り返す。

 ちょっと整理させてほしい。


「あの...お祖母様とは?...あなたは、先先代の皇后様なのですか?」

「そうです。私は先先代皇帝の妻アルタニアです」


 えっと、皇太后が魔女?


「では、アルタニア様が魔女だと公表すればよろしいのではないのですか?」

「今更私が魔女だったと公表できるわけがないでしょう。長年国民を騙していたと非難されるのが落ちです」

「そうでしょうか?」

「そうです。先先代皇帝の時代にはまだ魔女に対する忌避が残っていました。私は魔女である事をひた隠して生きてきたのです。今更、魔女だと明かしても非難する者たちが現れるでしょう。なぜその能力を今まで国のために使わなかったのかと。

 しかしあなたならこれからその力を活かして役立てることができる。時代は変わりました。魔女に対して昔のような嫌悪感を持つものはもういません。今こそ魔女の権利を復活させる時なのです」


「結婚以外にも魔女の権利を復活させる方法があると思うのですが。例えば魔女を重用し、その力を広く国のために使うようにすればいかがでしょう?」

「それだと、その力を悪用しようとするものが現れるでしょう。まず誰かが権力のある立場を確立して何人にも脅かされない存在になり、魔女を導かなければならないのです」

「それが皇后の立場なのですか?」

「そうです」


 確かに、大陸一の大国であるエルランド帝国の皇后に魔女がなれば、誰も手出しはできないかも知れない。しかもかつて魔女狩りを先導したアレキサンダー皇帝の国だ、魔女の復権には効果絶大だろう。


 しかし、私にはやっぱり無理だ。お断りさせていただこう。


「お話はよく分かりました。ですが私は皇后の器ではありません。他の魔女を探してください。そのお手伝いはさせていただきます」

「あなたは他国ではあるけれど公爵令嬢で、妃教育も終わっている。それに年齢も釣り合い、なにより魔女です。これ以上の条件の女性はいないわ」


 妃教育?そんなもの受けた記憶はない。


「私は妃教育を受けたことはありません。それに公爵家は既に廃嫡されているはずです。申し訳ございませんが、アルタニア様のご意向に沿うことはできません」

「妃教育は王太子の婚約者として受けているはずよ。爵位については何とでもなります。皇国で公爵家の養女にしましょう。皇后となりこの国を変えていくこと以上にやりがいのあることはありませんよ。同胞の魔女が暮らしやすい世の中を作りたいと思うでしょう?」


 王太子の婚約者?

 確かに魔女が自分を隠さず生きていけるようになるなら、それは素晴らしいことだ。私自身もそうなればいいと思ってきた。


「私は王太子の婚約者ではありません。それに、世の中にはまだ見つかっていない魔女が数多くいることでしょう。性急に決めずにじっくり探してみてはいかがでしょうか?」


 魔女が少ないことはわかっているが、なんとしても私以外を探してほしい。


「今まで探してやっとあなたを見つけたのです。何と言おうとこれは決定事項です」


 もう埒が明かない。私は立ち上がり転移しようと魔力を込める。しかし、魔力はどこかへ吸い取られるように消えていく。


「この城で魔法は使えませんよ。アレキサンダーが城中に魔力を吸い取る魔石を仕込みましたからね」


 アレキサンダー許すまじ。

 辺りを見回すが扉には衛兵が配置されている。走って逃げるのは無理そうだ。どうしてのこのここんな城まで来てしまったのだろう。


「私の意志は関係ないと?」

「大義を成すためには犠牲は必要です。あなたも公爵家の令嬢なら結婚に自分の意思は無いと分かっているでしょう?」


 確かに公爵家ではそのように教えられて育ってきた。自分の意思を押し込め、魔女であることも隠しきた。だからこそ今の自由な生活が尊い。何か他の理由はないか。


「私は、結婚するなら生涯私だけを愛してくれる人がいいのです。皇帝陛下は一夫多妻制です。私は他の方と夫を取り合うような、そんな権力争いに巻き込まれるのはごめんです」

「そんなに心配しなくても私はお前以外を娶るつもりはない。女は面倒臭いからな。生涯お前だけだと誓ってやろう」


 皇帝が斜め上の方向から皇太后を援護してくる。

 そんな心配はしていない。生涯一人を愛するというのなら将来余計な覇権争いを産まずに済むしいいことだろうが。


「少し考えさせていただけませんか?せめて一度家に帰らせてください」

「私は自分の顔には自信があったのだが、それだけ拒否されると傷つくな。なかなか面白い。気に入った」


 皇帝は面白そうに笑う。気に入らなくていい。


「部屋を用意してあります。そこでゆっくり考えるといいわ」


 皇太后が手を挙げると年配の侍女が近づき「ご案内いたします」と扉を手で示す。


 どこかで逃げるチャンスがないか。

 私は侍女に従う。また前後に兵士が付き一部の隙もない。階段を登り三階の部屋へ案内される。侍女が扉を開け、中へ入り部屋の中にいる人物に唖然とする。


 部屋には父と母がいる。


 なぜ彼らがここに?


「アグネス、久しぶりだな」

「元気そうで良かったわ。心配していたのよ。髪を切ったのね」


 私は驚きすぎて声も出ない。ソファを勧められ大人しく座る。


「私たちがここにいて驚いているようだな。何から話すか。まず、私の母が魔女だったのは知っている。そしてアグネス、お前もな」


 また衝撃の事実に固まる。


「いつからですか?」

「母は私が小さい頃によく魔法を見せて私を泣き止ませようとしたんだ。母は水魔術だと言っていたが大人になってそれが魔法だったのだと気づいた。そしてお前も子どもの時にその魔法を使っていた。水で犬や猫を作り庭を駆け回らせていただろう。魔術であんなことはできない」


 父は懐かしそうに目を細める。


「私は普段魔術の研究をしているから魔法の素晴らしさはよく理解している。その力を埋もれさせるのは勿体無いと常々思っていた。だからアグネスを王太子殿下の婚約者にしたんだ。その力を役立てられると思ってな。しかし、こともあろうに殿下は聖女を妃に迎えるために婚約を破棄した」

「私が、王太子殿下の婚約者に?」

「...もしかして覚えてないのか?」

「はい、本当ですか?」

「アグネスも呪われていたのか...」

「呪い?私は呪われているのですか?」

「そうらしいな。しかし結果的にはそれで良かった。アグネスの薬からアルタニア様がお前を探し出して私に接触してきた。私は今度こそお前の力を、魔女の力を世間に認めさせられると思い皇帝陛下に協力することにしたんだ」


 婚約者だったことなど全然記憶にない。それに、両親が私を思っていてくれていたと初めて知った。


「私は魔女のことは何も分からないから子育てをお義母様に任せきりにしてしまったの。だけど、アグネスの事をいつも心配していたのよ。卒業式にも出たかったけれど、陛下に二人とも呼び出されて出られなかったの」


 母が悲しげに言う。確かに両親は卒業式に来ていなかった。卒業式のことはあまり思い出せない。


「陛下は国政でいつも対立している私のことをよく思っていない。だからアグネスの事を遠ざけたかったのだろう。私はオルベルト王国を出るつもりだ」


 色々な事実が一気に明らかになり、理解が追いつかない。


 王太子の婚約者?

 婚約破棄された?

 両親は私が魔女だと知っていた?

 皇帝に協力している?

 オルベルト王国を出る?


「呪いは解けないのですか?」

「分からないが解く必要はない。忘れた方がいい事だ」

「皇帝陛下に協力するという事は、私に皇后になれとおっしゃるのですか?」

「アグネス次第だが、私はなってほしいと思っている」

「オルベルト王国を出て帝国に住むのですか?」

「皇帝陛下は私を迎えてくださるそうだ」

「兄はどうするのですか?」

「コリンは既に結婚して跡を継いでいる。残って領地を守るそうだ」


 あまり話したことのない歳の離れた兄を思い出す。いつも優しい笑みを浮かべていた。


「私は、皇后にはなりたくありません。少しですが私を認めてくれている人がいて、今の生活がとても幸せなのです」

「そうか、分かった。アグネスがそう決めたのなら仕方がない」


 まさか受け入れられるとは思っていなかったので驚く。


「今までアグネスには無理をさせてきた。これからはお前の幸せを一番に考えるよ」


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