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17. 私の呪い

読んでいただき、ありがとうございます。

 部屋に入るなり、いきなり言われた言葉にキョトンとする。


「え?私にかけられた呪い?...私、呪いにかけられているのですか?」

「気づいてなかったの?」

「はい、全然。...どんな呪いなのでしょうか?」

「うーん、複雑な呪いね。私には内容までは分からないわ。知り合いの魔女なら分かるかもしれないけど」

「あの、魔女ってたくさんいるのですか?私は最近まで祖母以外の魔女に会ったことがなかったのですが」

「ううん、そんなにいないわ。私も今まであった魔女はあなた以外で二人だけ」

「そうなのですね」


 私はたまたま続けて魔女に会っただけなのか。魔女は魔力ですぐに相手が魔女だと気がつくので、彼女のように女優をしていて会えていないということは本当に少ないのだろう。


「それで、私の呪いより、知り合いの呪いを解きたいのです。何度も試したのですが、私にはできなくて」

「知り合いの?なるほどね。あなたの呪いが分かったわ。呪われた時に二人で一緒にいなかった?」

「はい、一緒にいました。その時に二人とも呪われたのですか?」

「多分そうだと思うわ。その呪いはおそらく二人にかかっているから二人一緒に解かないといけないと思う」

「二人一緒に。私にかかっている呪いが何か分からないと難しいですよね」

「そうね。私の知り合いの魔女に聞いてみてあげるわ。彼女なら分かると思う」

「よろしくお願いします」


 また連絡すると言って別れる。

 これで呪いが解けるかもという希望が持てる。


 彼女の劇団は家族でしていて、彼女が魔女であることはみんな知っているようだ。私は祖母以外には魔女であることは遂に言えなかった。自分を受け入れてくれる家族が羨ましい。


「彼女と何の話をしていたの?」


 帰りの馬車でユリウスが聞いてくる。


「え?それは、......マジックのトリックについてです」

「え?トリックを教えてもらったの?」

「いいえ、教えてもらえなかったです」

「そうか、僕も知りたかったな」


 魔法だとはとても言えない。


「ユリウス様、今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」


 私は今日買ったチョコレートを渡す。


「僕に買ってくれたのか。嬉しいよ、ありがとう」


 今日は殿下のことをあまり思い出さなかった。ユリウスが気を紛らわせてくれたお陰かもしれない。




 それから遠征に出かける前日にキャサリンから連絡が入る。彼女の知り合いの魔女というのは彼女を指導してくれた魔女でナタリーというらしい。ナタリーは今は南のベルン国で娘さん夫婦とお孫さんと暮らしているらしく、会いに来てくれると言ってくれたが、遠征から帰ってからこちらから会いに行くと約束をする。


 殿下には庭園で会って以来会えていない。一度執務室へ行ってみたが、政務でベルン国へ行っていると言われた。私が会いたくても殿下から会いに来てくれないと会えない関係なのだと今更ながら気づく。





 西の洞窟に向けて騎士隊が整列している。今回は小人数だ。私もその中に入り出発を待つ。

 今日から三日の行程で西のナリス地方へ行く。

 西の洞窟には既にリリアによって結界が張られているが、一年ほど経つため再度結界を張り直す必要があるようだ。リリアは今、ミハイルとの結婚の準備で忙しいので私が行くことになったのだろう。


 リリアの結界は一年程で解けてしまうらしい。私の結界がどの程度保つのか試したことがないので分からないが、マリアの例でいくと何十年も保つと考えられる。でもそれでは光の魔術ではなく魔法だとわかり私が魔女だと露見しまうだろう。だから今回、私は結界に時限式を施せないか試してみようと思っている。徐々に結界が解け一年後になくなるように。北の鉱山では普通に結界を張ったが、今回の時限式が上手くいけば張り直しに行こうと思う。


 馬車の旅は順調に進み、三日後に西の洞窟へ到着した。洞窟は大小二十四あるらしい。ユリウスと洞窟の入り口に立つ。


「洞窟の中に結界を張るのですか?」

「いや、洞窟から魔獣が出てこられないように入り口に結界を張るんだ。中は鍾乳洞になっていて入り組んでいるから結界を張れないからね。中には獰猛な魔獣がたくさん住み着いているんだ」


 確かに洞窟の入り口に仄かな魔術を感じる。私はその上から魔法で次第に解けるように調整しながら結界を施す。上手くいけば一年後には結界が消えるはずだ。


「終わりました」

「アグネス、ご苦労様。じゃあ、次の洞窟へ行こうか」


 それから三日かけて二十四の洞窟全てに時限式結界を施す。洞窟周辺の魔獣はそんなに強くなく、騎士隊によって易々と退治された。

 その騎士隊のメンバーはこの間の北の鉱山に行ったメンバーですっかり馴染みになっている。


「アグネス様、もしかしてなんですが、光の加護を私たちに授けてくれましたか?」

「光の加護ですか?」

「はい、実は、北の鉱山へ行ってから怪我をしなくなったのです。擦り傷さえしないので、もしかしてと思いまして」


 確かにあの時、守護魔法をみんなに施した。それがまだ残っているらしい。これも時限式にしないといけないのかと思うが、あんな戦いをいつもしている方達にいつか切れる魔法をかけるのは嫌だ。


「私は結界を張っただけですので加護は知りません」


 確かに守護魔法はかけたが加護は授けていない。

 騎士隊の方達には国を守るために危険な仕事をしていただいているので怪我せず元気でいてほしい。


 宿に戻りゆっくり夕飯を食べる。明日は王都へ向けて帰還する。


「最近アグネスがよく食べるようになって安心したよ。元気になって良かった」


 ユリウスが嬉しそうに私の皿に肉を盛る。


「そんなに食べられませんよ。ユリウス様が食べてください」


 私は肉をユリウスの皿へ戻そうとすると、


「じゃあ、アグネスが食べさせてくれたら食べるよ」

「子どもじゃないんですから自分で食べてください」

「じゃあ、僕が食べさせてあげるよ」


 フォークに肉を刺して口元へ差し出してくる。


「はい、アーン」

「た、食べませんよ」

「ふふ、残念。でも兄上のことはだいぶ吹っ切れたみたいだね」

「兄上?」


 ユリウスが私を見つめて、眉を下げる。


「止めようか、兄上の話は」

「兄上って......」


 あれ?兄上は、殿下よね?

 ......

 思い出せない

 顔が出てこない


「アグネス?」


 確か黒髪の、瞳の色は...何色だった?


「アグネス、大丈夫?顔が真っ青だよ」


 瞳の色は...思い出せない


 そんな...


「わ、私疲れたのでもう休みますね」

「アグネス、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。おやすみなさい」


 慌ただしく席を立ち自分の部屋へ戻る。

 部屋に入り深呼吸する。そして紙を出し、殿下のことを思い出せるだけ書く。思いつくまま書き続ける。しかし紙一枚にもならなかった。


 おかしい

 もっとあるはず

 いつからだろう

 いつから記憶が消え始めたのか

 少しずつ忘れていってる?

 このままいつかは全部忘れてしまうの?


 恐怖が胸を占める

 嫌だ嫌だ嫌だ

 怖い

 これが私の呪いだ



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