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16. 街を散策

読んでいただき、ありがとうございます。

突然の告白に混乱する。もしかするとと思っていたけれど、本当にユリウスが私を好きだったなんて、しかもずっと前からなんて全然気がつかなかった。恋愛に関しては殿下に盲目で周りが見えてなかったと改めて思い知る。


「あの、私は、」

「返事は急がないから、僕の事を真剣に考えてほしい」


私の手を握りしめ、まっすぐな目で見つめられて言葉が出てこなくなる。


ユリウスはふうっと息を吐き出し苦笑した。


「これでもとても緊張しているんだよ」


年下のずっと弟のように思っていたユリウスを急に男性として意識してしまう。


その時、温室の隅で何か動いたような気がしたが暗くて何も見えなかった。




温室からの帰り道もユリウスが送ってくれる。

白い家にたどり着くと私はユリウスに向き直る。


「ユリウス様、私は殿下をお慕いしております」

「分かってるよ。でももう少し夢を見させてほしかったな」

「申し訳ございません」


私が頭を下げると、ユリウスは私を見て苦笑を浮かべる。


「アグネスは、明日は何をするの?」

「明日は、特に予定はありません」

「そうか、じゃあ二人で街へ出かけようか?」

「街へ?ユリウス様は学校があるでしょう?」

「遠征のためにしばらく休む届を出してあるんだ」

「じゃあ遠征の準備があるでしょう?」

「一日くらい大丈夫だよ。安心して、もう結婚してほしいなんて言わないから」

「...わかりました」

「じゃあ、明日また迎えにくるね」


ユリウスは私を送り届けると城へと帰っていった。



次の日、朝食を食べてすぐにユリウスが現れる。いつもと違い街歩きのための簡素な服装だ。白いシャツに黒のズボンにショートブーツを履き青色のベストを着ているが、気品は隠せていない。


「ユ、ユリウス様、早いですね。すいませんまだ何も用意ができていなくて」

「いいよ、ここで待っているから。ゆっくり準備して。一度この家の中を見てみたかったんだ」


ユリウスはソファに座りながら興味深そうに家の中を見ている。その間に私は二階に行き出かける支度をする。この家では通いで侍女が二人来てくれていて夜は一人だ。


「ユリウス様、お待たせいたしました」


私はいつもより簡素な街娘風の白いワンピースに黒のロングブーツ、黒のショートマントを羽織っている。

ユリウスは立ってあの絵を見ていた。


「その絵が気に入ったのですか?」


ユリウスがこの絵にどんな感想を抱くのか興味がある。


「ううん、なんだか寂しい絵だね。どうしてこの絵を飾ったのかな?」


まさかユリウスも私と同じ感想を抱くとは思わなかった。なんだか共感できてとても嬉しい。


「私もこの絵を見て寂しいと感じました。同じ気持ちで見てるのって嬉しいですね」

「僕たちは感性が似ているのか。じゃあお似合いって事だね」


と嬉しそうに言う。うっと詰まりながら「早く出かけましょう」と急かして出かける。



馬車から降り街を散策する。私は深窓の令嬢なので街へ出た事はあまりなかったが、隣国にいた時には一人で何度も出歩いていたのでもう慣れたものである。


可愛い小物屋さんでダナーとベティに出すレターセットを見ているとユリウスが手元を見てくる。


「誰に手紙を書くの?」

「友達です」

「僕にも書いてよ」

「毎日会っているではないですか」

「手紙だとまた違うんだよ」

「そうですか?」

「絶対書いてね」


次にチョコレート屋さんへ入る。甘い匂いが立ち込め可愛い包装やリボンに目移りする。一つぶ一つぶ選んで包装してもらう。ここでも私が自分の財布を持ちお金を払っているのにユリウスは驚いていたので、少し得意満面になる。自分で稼いだお金で買い物するって嬉しい。毛生え薬様々だ。


ランチはユリウスお勧めの、最近できた王都一番人気のお店に入る。予約していたようで窓際の席に案内される。店は満員で待っている人が並んでいる。


「昨日の今日で予約が取れたのですね」

「権力を使ったからね」

「......」


悪い笑みを浮かべるユリウスに私はなんとも言えない笑みを浮かべる。待ってる人に申し訳ない。早く食べて出よう。

流石一番人気のお店。どの料理もすごく美味しかった。そしてユリウスの食べる量に驚いた。食べる所作は綺麗だが、次々にお皿の料理が無くなっていく。今は私より少し背が高いくらいだが、まだまだ成長期、もっと大きくなりそうだ。


その後、私の楽しみにしていた本屋さんへいく。ユリウスは全て私に合わせてくれて申し訳ないが、自分はいつでも来られるからと私の希望の店ばかり梯子してくれている。

前に読んで面白かった推理小説の作家の本がたくさんあったので買い込む。これでまた寝不足になるまで読める。満足そうな私を見てユリウスは私から本の袋を取る。


「馬車に預けておくよ。これから歌劇を見に行くからね」

「歌劇ですか?なんの?」

「マジックを使った歌劇らしいよ。今とても人気なんだ」

「よくチケットが......」


権力ですね。悪い笑みがまた出てますよ。


その歌劇は庶民向けらしく服装も浮く事なく劇場へ入れる。階段を登った上段の席から劇場全体を見回す。席は満員で既に埋まっている。


間も無く幕が開き劇が始まる。

初めは一人の女性の数奇な人生を扱う内容だったのが、その内に彼女が二人の男性に愛され翻弄される内容になる。そこここでマジックが仕掛けられ観客も驚き感嘆の声を上げる。

そしてクライマックス、彼女が崖から落ち死んだと見せかけて愛する男と逃げる。そのシーンで崖のハリボテから姿を消した彼女が一瞬で上段にある客席から立ち上がる。スポットライトが当たり観客が瞬間移動のマジックに歓声を上げる。

彼女も観客に応えて笑顔で一緒に逃げる役の男優と手を振っている。

しかし私は顔を硬らせて彼女を凝視する。


これはマジックじゃない。

魔法だ。

彼女は魔女だ。


幕が引き、観客が帰り始める。ユリウスも立ち上がり、私に帰ろうと手を伸ばす。


「ユリウス様、あの主役の女性に会えないでしょうか?」

「そんなに面白かった?サインをもらいたいの?」

「そ、そうです。どうしても会いたいのです」

「支配人に頼んでみるよ」

「よろしくお願いします」


しばらく待つと支配人が控室へ案内してくれる。

魔女が世界にどのくらいいるのか分からないが、私は最近まで祖母しか知らなかった。

それが、北の鉱山で、またこの劇場で立て続けに魔女に遭い、もしかすると世界には魔女がたくさんいるのではと思うようになった。


支配人が控室のドアをノックする。


「はい、どうぞ」


女性の声で返事があり私はユリウスと控室に入る。中にはさっきまで舞台で歌い踊っていた俳優たちが帰り支度をしている。


「あなたね、やっぱり来ると思ってたわ。今日は見に来てくれてありがとう。私はキャサリンよ」


笑顔で出迎えてくれた彼女こそあの魔女だ。歳は20代半ばだろうか。赤毛に黒い瞳の綺麗な人だ。


「会ってくださりありがとうございます。私はアグネスです。今日の舞台とても面白くてあっという間に時間が過ぎました」

「楽しんでもらえて良かったわ。まだ二ヶ月は王都で公演する予定だからまた見に来てね」

「はい、絶対に来ます。あの、それで、少し二人で話せませんか?」

「分かったわ。隣の部屋へ行きましょう」


私はユリウスに待っててもらうように言い、キャサリンと隣の部屋へ入る。

扉を閉めなりキャサリンが言った。


「それで、話はあなたにかけられた呪いのこと?」


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