表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/50

10. 帰還

読んでいただき、ありがとうございます。

「連れの方はどうされたのですか?」

「連れ?...ああ、遅いから置いてきたよ。今頃魔獣狩りをしているんじゃないかな」

「さ、探されてるのではないですか?シオン様のことを」

「元々、魔獣狩りをするために来ているんだ。役に立って丁度いいよ」


 なかなかの言いように騎士隊の面々が気の毒になる。


「とりあえず一度戻られた方がいいかと。私も明日また改めて街へ参りますので」

「嫌だよ。もう離れたくない」


 ぎゅうぎゅう抱きしめられて全然離してもらえない。


「殿下!必ず明日参りますので今はお帰りください!」


 渋々という感じで離れてくれる。転移魔法で森の入り口まで殿下を送ると、やはり騎士隊は殿下を探して待っていたようだ。殿下は転移魔法にかなり驚いていたが、また仄暗い笑顔で何か考えている。木の陰から殿下が現れると、皆一様にほっとしたように顔を緩ませた。それを見届けて再び転移魔法で山小屋へ戻る。とりあえず今日はもう寝ようと思うが、血濡れになった服を見てため息をつく。お風呂に入り洗濯をして、すっかり疲れ果てて 寝床に入るとすぐ眠りについた。



 翌朝、服を着替えようといつものようにズボンを持つが、殿下に会うならスカートにしないといけないかと、公爵邸から持ってきた簡素なワンピースに着替える。殿下にもらったリボンを頭の上で結んで即席令嬢の出来上がりだ。


 あれだけ悩んだ日々が嘘のようにウキウキしてる自分に呆れるが、あの血濡れで迎えにきた殿下が格好よく見えてしまう自分はどうしようもなく恋してしまっているのだと思う。



 街へ行きベティとダナーに、故郷に帰ることになったと伝えると、すごく残念がってくれる。ちなみに毛生え薬の予約がたくさん入ってたそうで、それだけ後で送ると約束した。


 殿下の泊まる宿へ行くと、もう騎士隊は用意を整え待っていた。今日も討伐に出かけるのかと思っていたが、もう帰るという。昨日着いて遅くまで魔獣討伐してたのに、もう帰還とは気の毒すぎる。せめてもう一日ゆっくりしたらと提案するが、殿下は早く帰りたいからと出立してしまう。騎士隊の方は、私のことを既に聞いていたようで、すんなり受け入れてもらえた。


 私は行きは転移魔法で来たので一瞬だったが、帰りは殿下の馬に同乗させてもらっている。オルベルト王国王都まで馬車なら五日かかるらしいが、殿下たちは早馬で三日で来たらしい。


 マイルは力を使いすぎて疲れてまだ寝ているらしい。当分マイルを使わないように殿下に約束させた。


「今更ですが、私は婚約破棄されていますよね。それなのに結婚できるのでしょうか?それに罪にも問われてますし、父も私を勘当しているでしょう」

「婚約は既に解消されてしまっている。書類の提出を止められなかった。すまない。でも婚約期間を飛ばして結婚してしまえばいい。それから公爵だが、君の兄のコリンがすでに後を継いでいるから、君を勘当するか決めるのはコリンだ。コリンならそんなことはしないだろう。

 後、罪についてだが、あの時の内容はあながちでっち上げではないんだよ。実際、リリア嬢は嫌がらせを受けていた。あの時は便乗させてもらったが、犯人にはいつかは報いを受けさせようと思っていたんだ。今回全てを被ってもらおうと思っている。リリア嬢にも協力してもらえるといいが」


 そんなに上手く行くのか不安になるが、殿下をまた信じようと思う。

 少しゆっくりしながらの旅は五日で王都へ着いた。


 公爵邸へ戻るのかと思えば、あの一軒家へ案内される。父と母には全てが終わるまで会わない方がいいという殿下の配慮だ。


 翌日、陛下に呼ばれ殿下と謁見の間へ向かう。

 私は今カツラをかぶっている。しかも私の髪でできたカツラだ。丁度出来上がったカツラを、街で殿下が偶然見つけて、私の髪に似ているという理由で買い求めたそうだ。なんだかちょっと怖い。


 謁見の間には重臣達が並び、当然だが父も立っているのが見える。こちらを睨みつけるように見ている。


「久しぶりだな、アグネス嬢。少し痩せたのではないか?」


 殿下と同じ黒髪に、深い青い目をした陛下は私を見定めるように注意深く見ている。


「陛下、ご機嫌麗しゅうございます。長旅で少し痩せましたが不調はございません。お気遣いありがとう存じます」

「そうか、ところでシオンから聞いたが、アグネス嬢も光の精霊と契約したそうだな。そして結界が使えるようになったとか。ぜひ見せてくれぬか」


 チラリと隣の殿下を見る。これは打ち合わせ通りだ。私が魔女であることは隠しながら、その力を使い陛下に認めてもらう。そのため光の精霊と契約したということにする。光の精霊と契約したと偽っても他の人には精霊は見えないので、実際に力を使わなければ証明できない。

 殿下は笑顔で私を見て、どこかワクワク楽しんでるように見える。


「かしこまりました。ではあの花瓶に結界を張りましょう」


 私は部屋の隅の台座に置かれた大きな花瓶を指差す。多分相当な価値のある国宝だろう。

 魔法を放ち花瓶の周りに結界を張る。

 それを見て陛下は近くに控える騎士に花瓶を割るように命じる。

 騎士は一瞬ビシッと固まり、しかしスラリと剣を抜きたつ。そして剣で花瓶を打った。カンッと高い音が鳴り剣が弾かれる。

「これは見事だ。どうやら本物のようだな。しかし花瓶だけではな。聖女のように国に結界を張り巡らせるくらいならば婚約を認められるのだが」


 結構な無茶振りをされる。

 またチラリと隣の殿下を見る。


「陛下、北の鉱山地帯の結界はまだ張られていません。アグネスとそこへ行き結界を張ってきましょう。お許し願えますか?」

「しかし、あそこは強い魔獣が巣食っている。かなりの手練れでなくては近づけまい。危険ではないか?」

「必ず結界を張って参ります。そうすれば鉱石も取れるようになり、この国に富をもたらすでしょう」

「いいだろう。いい報告を待っているぞ」


 すると一人の男がすっと前に出る。


「陛下、宜しいですかな?」


 彼は宰相のカークライト侯爵だ。陛下は鷹揚に頷き発言を促す。


「確かハイドレン公爵令嬢は聖女を貶めようと数々の悪行を行ったと聞き及んでおります。そのような者を王太子妃に据えるのはいかがでしょう?」


 殿下がすかさず陛下の前に出る。


「それについては改めて今調査中なのですが、どうやらアグネスは嵌められたようなのです。本当の犯人は別にいます。調査結果が出ましたら私から公式に発表しましょう」

「分かった。では調査をしっかり進めよ」

「はい、陛下」


 これも仕組まれた段取りのような気がする。隣の殿下は満足そうに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ