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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ショートショート9月~2回目

噛み癖

作者: たかさば

「もう!爪を噛んじゃダメって言ったでしょ!!大切な歯が欠けたらどうするの!」

「ご、ごめんなさい……。」


 幼い頃、毎日のように怒られていた、私。

 気が付くといつも…爪を噛んでいた。


 端の方から少しづつ、切断面を広げていくように噛むのが好きだった。

 爪の端を潰すように、少しづつ丁寧に噛むのが好きだった。

 爪の周りの固い皮の部分を、尖らせるように何度も噛むのが好きだった。


 大きな前歯で、かじったり。

 前歯だけ使うのは良くないと、他の歯でもかじったり。

 歯の抜け変わる時期でさえ、残っている歯で爪を噛んだ。


 何度叱っても爪を噛むことをやめない私を見て、ママが切れてしまったのは…小学校に入学する頃だった。


「わあー!きれいなつめ!」

「きれいでしょう?噛むとはげちゃうからね、もう爪をかじらないようにしようね!」


 ぼろぼろの爪に塗られた、色鮮やかなマニキュアに心が躍った。

 ずっと見つめていたいような、キラキラと輝く、指先だった。


 けれど、私の爪を噛みたい欲求は、その美しさを破壊する事を望んだ。


「……ペッ、ぺっぺっ!!!に、にぎゃい、まずっ…おえっ……!!!」


 いつものように爪を噛んだ私は、信じられない不快感に、洗面所へ駆け込んだ。

 何度も、何度も口をゆすいでいると、ママが勝ち誇ったような顔をしてこちらにやってきた。


「さきちゃんの指に毒が塗ってあるの!今度噛んだら、歯が全部抜けちゃうかもよ……?」

「ああーん!!ヤダ、やだよぅ……!!!」


 どうやら、爪を噛む癖のある子供用に作られたマニキュアだったらしい。

 なめると非常に苦みを感じる代物だった。

 その苦さが、毒というリアリティーを感じさせた。

 次に爪を噛んだらやばいという焦りが、私の爪を噛みたい衝動を完ぺきに抑え込んだ。


「うん、やっときれいな爪が生えそろったね!もう絶対噛んじゃダメだよ!色は抜けちゃったけど、まだ毒が染み込んでるからね?」

「わかった・・・・・・。」


 ……私は爪を噛むのを、やめることができたのだが。


 …はみ、はみ……。

 …がぶ、がぶ……。


 代わりに、甘噛みをする癖がついてしまった。


 指の第二関節あたりを、前歯四本で、軽く挟み込んで…甘噛みする。


 …はみ、はみ……。

 …がぶ、がぶ……。


 手のひらで口を覆うふりをして、指の腹を…甘噛みする。


 …はみ、はみ……。

 …がぶ、がぶ……。


 頬杖をつくふりをして、手の平の肉を…甘噛みする。


 ずいぶん長い間…私は自分の体を、甘噛みし続けていたのだけれど。


「ね、ハル君の指、噛んでも…良い?」


 いつしか、自分の指や手だけではなく、恋人の指も噛むようになっていた。


「…なに、俺の指は、そんなに噛みがい、あるの?」

「……うん。」


 うっとりと指を甘噛みする私を見て…彼氏もまた、私を、甘噛み、した。


 噛んで、噛まれて。

 噛んで、噛まれて。


 彼氏から与えられる、甘噛みの心地良さに、震えた。


 ますます私の嚙みたい熱が上がって…我慢ができなくなった。

 ますます私の歯が…噛んでもいい部分を求めて暴走した。


 指先、大きな手、凛々しい腕、艶やかな首筋…、欲望の赴くままに、私は甘噛みを堪能し続けた。


 甘噛みさせてくれる彼氏は、何人も、できた。


 ……みんな、とっても、優しかった。


 ついつい、歯型をつけてしまった時も、許してくれた。

 ついつい、強く噛んでしまった時も、泣きながら許してくれた。

 ついつい、手加減できなかった時も、黙って見逃してくれた。


 ……みんな、ホントに、大好き。


 彼氏を噛むとか、みっともないよね?

 甘噛みせずにいられない、我慢のできない私で、ごめんね?


 私の我儘を叶えてくれる彼氏には、感謝の念しか浮かばない。


「ね…噛んでも、いーい?」


 …はみ、はみ……。

 …がぶ、がぶ……。


「ふふ……だーい好き……♡」


 …がじ、がじ……。

 …バリ、バリ……。


「ありがとう♡」


 …ボリ、ボリ……。

 …めき、めき……。


「ずっと、忘れないからね♡」


 …ゴリ、ゴリ……。


「ばいばい♡」


 ……ごっくん。


 今回の彼氏も、美味しかった。



 次は、誰に、しようかな……?




 私は、新しい彼氏を見つけるために。





 繁華街へと、繰り出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] あっ……。全部食べちゃう系女子……。 ちょっと噛むくらいなら、可愛いと思い……たいですけどね。 ね。かみすぎはよくない。はい。
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