深夜のタクシー
こんなに遅くなるつもりはなかった。
利之は思った。
先輩がしつこいんだよ。
それにくどい。自分の彼女の愚痴を俺に聞かせるなよ。
1人で飲めってえの!
終電行っちまって、タクシーで帰るしかないよ。
どうしてくれるんだよ、もう!
彼はブツブツ言いながら、タクシーを捕まえようと広い通りに出た。
「おーい!」
彼は手を振りながら1台のタクシーを停め、乗り込んだ。
何台も無視され、やっと停まったタクシーは、妙に古い車だ。
中がカビ臭い。掃除してないような臭いがする。
「柏まで」
「はい」
運転手は愛想の欠片もない男だった。
しかし、疲れて眠りたい利之には、むしろ話しかけて来る運転手の方が迷惑だった。
だから、愛想が悪い方が助かると思い、彼は居眠りを始めた。
しばらくして、
「お客さん、もうすぐ柏市内ですが、どちらへ向かえばいいですか?」
と運転手に声をかけられて、利之は目を覚ました。
「早いな。もう着くのか?」
「はい。どちらに向かいましょう?」
利之は目を擦りながら、
「駅の方に出てくれ。そこで降りるから」
「わかりました」
その時だった。
2人は、通りの向こうに白いワンピースを着た女性が立っているのに気づいた。
「?」
こんな時間に何だろう?
咄嗟に頭に浮かぶのは、「幽霊」。
「この辺、出るって噂あったかな?」
「さあ、私は聞いたことないです」
「俺も聞いたことない」
2人がそんな話をしているうちに、タクシーは女性の前を通り過ぎた。
「え?」
利之が振り返ると、もうその女性はいなかった。
そして翌朝。
「私、見ちゃったのよ、昨日」
「何を?」
「幽霊タクシーよ。骸骨が運転していて、それに乗ってたお客が真っ青な顔してたの」
「嘘だァ」
「嘘じゃないわよ」
そして。
「昨日さ、俺幽霊乗せちゃったよ」
「まさか。どこまで?」
「柏まで。着いて振り向いたら、誰も乗ってないんだよ」
「ホントかよ。見間違いだろ? 逃げられたんじゃないの?」
「違うって!」
更に。
「俺さあ、昨日女の幽霊見ちゃったよ。真っ白なワンピース着た奴でさ、通り過ぎてすぐ振り返ったんだけど、もういないんだよ。怖くなってタクシーそこで降りたんだ」
「またまた! 俺ら、そんな話じゃ怖がらないって!」
「嘘じゃないよ!」
誰も嘘はついていない。
怪談の真相はこんなものという話である。