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就活中じゃなくて終活中?   作者: 奏汰 剣崎
初めての面接
1/3

気まぐれお稲荷様が紡いだもの

この作品には、発達障害、LGBTQ、鬱、自傷行為などの描写があります。このことをご理解の上、読んでくださるようお願いいたします。


プロローグ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あの時こうしていればっ。


まるで悲劇のヒロインのように自分を憐れむ、

そんな瞬間は誰にでもあるだろう。


そして、大抵の人は、その後すぐに神様へお願いする。

いつもは神だの信仰だのとは無縁の生活を送っていようとも、心の中で唱えてしまう。


“どうか、神様お願いします!”


と。


でも、私はいつからか、心の中で神頼みをしなくなった。


当時見ていたアニメに影響されて、心の中で、藁人形に写真を釘で刺すことから、ダーツで顔写真を刺すことに変えたのは、小学校高学年、小五の頃だ。よく覚えている。


それでも、耐えきれなくなった時は、ドラマの狂気犯のようにその対象を縛りつけ、ズタズタに切りつける様を想像したっけ。


そして、そんな想像をする余裕もない時は、親指を手で握り込み、目をつぶる儀式をして、実体のない「神」という概念に、頭の中で頭を垂れ、願った。



ーーー神様、お願い!あいつに裁きを!お願いします!



聞き入れてもらった時は、ガラガラガッシャーンッという音ともに赤い雷を落とすことにしていた。

現実世界で聞き入れてもらったことは一度もないが、それでどうにかバランスを保つしかなかったのだ。


しかし、その祈りの儀式をなぜ止めたのかはどうしても思い出せなかった。一つひとつ丁寧に紐解いても、そこだけ糸がほつれ、形を成さないかのように、実体像が掴めなかった。


子供の時の嫌な記憶は、強固に結ばれているというのに。



陰鬱な思考に沈んで歩いていたからだろうか、神社に立ち寄る気になったのは。

久しぶりに神頼みをしようと思ったのは本当に気まぐれだった。


ひと一人がやっと通れそうな細い階段をのぼると、小さな稲荷の石像が出迎えてくれた。

石像にそれほど劣化は見られないものの、色褪せ剥げた鳥居から、積もる年の重みを感じさせる。


手水舎の周りを苔が覆い、雨水が枯れ葉とともに取り残されていた。

黒ずんだ境内社の屋根瓦は一部が崩れ、乱雑に葉っぱが積もっている。


一歩境内に脚を踏み入れると、静けさが身を包んだ。深呼吸すると澄んだ空気によって、嫌なものが追い出されたように感じた。


財布から五円玉を出して、投げ込み、二礼二拍手。

就職のことを祈ろうと思ってやめた。


五円でどうにかなると思っていないし、もう何年も神様に感謝も祈りも捧げていない。

それに、実力で内定を手に入れられないなら、入社してからも長続きしないだろう。


何か別の願いを……。


だが、他にも悩みだらけで願い事を一つに絞れない菜月は、はたと気づいて、こう祈った。


「――――――――ように」



神社を出ると、喧騒がいつもより大きく耳に響いてきた。

ちょう学生の帰宅時間に重なったらしく、大通りは人で溢れていた。

神社の静けさを懐かしく思いながら、私もその群れに加わった。





物心ついた時から既に病んでいたのだろう。

車に轢かれればいいのに、通り魔に刺されないかな。

なんてことを頻繁に考えていた。



小説の中のように、ヒーローのように誰かがたすけにきてくれやしないか、別世界にいけやしないかと、人生をやり直せるタイムトラベルが出来やしないかと、何度も何度も空想した。

ホグワーツから手紙が届くのだと半ば本気で信じていたっけ。



そんなことが起きないのは、百も承知している。しかし、老人を助けたら重役の母親だったなんてことがあるのではないかとか、お金持ちのご夫妻に気に入られはしないかと、今も期待してしまう。


この就活を乗り切れるのなら、 愛犬が死んだ後の自分の寿命をかけたっていい。



なんなら、もう愛犬とともに消してくれればいい。


とかく、そんなくだらない妄想を糧に、今日も逃げ場のない人生を送る。


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