ブラック企業の跡地物件
不動産会社勤務の俺が新たに担当した賃貸物件は、堺東に近い商業ビルの一室だった。
交通等の利便性は良く、事務所やオフィスに最適。
強いて瑕疵があるなら、以前の入居者が倒産したブラック企業って事位。
効果の無い健康食品を売り捌く、詐欺紛いの所だった。
倒産原因は、待遇の悪さに怒った社員による内部告発と顧客の集団訴訟らしい。
社長は隠し財産を懐に高飛びし、そのまま音信不通になった。
そんな訳あり物件だが、小奇麗で立地条件が良いので、すぐ借り手が現れた。
新たな契約者は、ゲームアプリを開発する新進気鋭のベンチャー企業。
夢に真っ直ぐな彼らの情熱は、俺にも好感の持てる物だった。
-良い人達に借りて貰えた。
そんな俺の喜びは、長くは続かなかった。
件のベンチャー企業からクレームが入ったのだ。
「変な事が続けて起きるんですよ、滝谷さん。居もしない人の気配や、怪しい物音がするんです。今日なんか、監視カメラに見知らぬ人影が映ったんですよ。」
代表取締役である青年の愚痴を聞きながら、俺は例の商業ビルを訪れていた。
夜逃げこそあれ、この物件で自殺や殺人が起きた事など只の一度もない。
だが怪しい出来事が起きるなら、我が社の信用にも関わる事態だ。
そこで俺は、監視映像と現場の確認をさせて貰う事にした。
監視映像の焼かれたDVDを再生して貰うと、見覚えある人影を確認出来た。
「この男、前に入居していた…」
「えっ!あの詐欺会社ですか?」
俺の呟きに、青年が同調する。
画面の中で憎らしい面を晒してるのは、高飛びしたブラック企業の社長だ。
「金が尽きたからって、勝手知ったる古巣に忍び込んでコソ泥なんて!」
「僕、通報します!」
怒り心頭の俺とは違い、青年は冷静だった。
卓上電話で警察を呼び出し、理路整然と一部始終を説明する。
本来なら俺がすべきなのに、本当に申し訳ない。
「えっ?そうですか…」
電話を終えた青年の顔は、真っ青になっていた。
「その社長、今朝方に首吊り死体で発見されたそうです。それも東京のホテルで…」
「何ですって…」
監視映像に映り込んだ時には、件の社長は既に死んでた。
元の古巣への未練が、ここへ来させたのか。
1つだけ言えるのは、事故物件がまた増えたって事だけだ。
不動産業に従事する俺には、それが残念で仕方なかった。