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006 迷子の少女は面接を受ける

魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー




あれからかなりの時間が過ぎた後、あのファッションショーと化していた会場は、いつもの落ち着きを取り戻していた。


お店側からはかなりの収益に貢献をしてもらったという理由で、試着したうちの数点を、かなりのお値引きをした価格で受け取ることができた。




「お外の人混みが、すごいことになってます~」


シエルとハルカが店を出てみると、外はすでに陽が陰る時刻の明るさになっていた。のんびり屋のシエルも、子供服専門店でかなりの時間を取りすぎたと気づいて焦っているようだ。


この時間は、お夕飯の買い物に出てきた主婦たち、今夜の宿屋へと向かう旅人、昼間の仕事を終えた帰宅途中の人たちが通りを忙しなく行き交っている様子を見せている。




「ハルちゃん、私の服を掴んでいるその手を、離さないようにしていてね~」


「了解ですシエル。でもこれ、ものすごい人出だよね」


シエルの両手は、今回の買い物の荷物で両手が塞がっていて、そのために俺と手を繋ぐことができなくなっていた。


それなので俺のほうからシエルの服を掴みながら、一緒に歩いているといったことをしているのだ。




「夕方からは混むことを知ってたから、なるべくその前に帰る予定をしていたのにぃ~。ハルちゃんがどのお洋服も似合っちゃうのがいけないんだよ。ついつい夢中になっちゃって失敗しちゃったよぉ~」


のんびり屋のシエルは、混雑している人の流れを上手く進むことが元々苦手だそうで、両手に荷物を持っていることでよけいに進むスピードは遅い。周りにいる人たちは早い速度で避けながら通り過ぎていて、前や横からどころか、後ろから追い抜く人たちもいるほどだった。




ドンッ!


「おわっ!」


俺の身長は135cmなので、こちらへ向かってくる大人たちからは見落とされがちになるのか、混雑した人の流れの中では翻弄されるようになって、その都度に体があちこちと向かされてしまう。




「人が多いからきをつけてねぇ~」


宿屋へ向かう方角へとなんとか進んでいたのだが、更に時間が進むにつれて人混みももっと増えて、次第にシエルの服に掴まって歩くことが困難になっていた。


ましてや先ほどまでは、ファッションショーに三時間半も割いていたために、実のところ体はすでにクタクタとなっていたりするのだ。




ドン!


何度目かもわからなくなった衝撃で、掴む握力も弱っていた俺は、シエルの服をついに離してしまった。


「やばっ!」


あっという間にシエルを見失ってしまうと、俺の周囲360度は全て動く壁と様変わりをしてしまい、全方位から頻度が高くなった衝突を起こされるようになった。




「お(ドン!)、お(ドン!)、おーッ(ドン! ドン!)、こ、これは止まっているのもムリ!」


立っているだけでも大変になった人混みの中、ここでこれ以上待ち続けることは困難である。しかし迷子になったときにはその場から動かないのも鉄板になるお約束でもある。なので折衷案としてまず人混みを抜けてから、なるべく遠くへ行かずに待つことにしよう。




混雑する通りの中央から抜け出ると、近くの建物側へと近寄っていく。開店をしていないせいで人気がなかった建物がうまいことにすぐ近くにあったので、その建物の前で待機することにした。




この辺は新市街区と呼ばれる場所だった。王都にある商店が主だって軒を連ねる商業区域として、立派に見える店舗が立ち並ぶ景観を形作っていた。


俺が立つうしろに見える建物は、町並みが新築の高層で占められた中で、ここだけは田舎町にはよく見られる実用一辺倒な古臭い低層の建物だったので、周りからはひどく浮いているように感じられた。




こちらからシエルを見つけられたら、すぐに手を振って声をかけてあげないとな。


俺は彼女がどこから現れるものかと、目をあちらこちらへとせわしなく動かして通りを伺うのだった。





注意が遠くへ散漫していたせいか、それは突然に起こったことなので、つい声が裏返ってしまっていた。


「おい! そこのお前だッ!」


「ひゃっ、ひゃいぃ?」


俺は突然に声をかけられるやいなや、気づいたときには相手に自分の左腕を掴まれていた。




「こちらへ入ってこい!」


怒声をかけてきた人物は、小太りの体型をした、頭が薄くなっていて使い込まれたエプロンを身につけた男性だった。


その男は建物の中から出てきたらしく、もう片方の手で建物のドアのノブを掴み、俺をお店の中へ引っ張り入れていた。




建物内はとても暗かった。すぐにわかったのは、そこがとても大きな広さを持つ空間だということだった。


建物内には明かりが用意されていないことと、暗さに目がなれていないこともあって、他には情報が得られなかった。




ドアを内側で閂をかけた男は、俺の腕を掴んだままで歩き始めて、かなり奥にあったスタッフルームと書かれたプレートがかけられた部屋に俺を押し込めた。


そこでようやく俺の腕を放した男は、部屋の中に1つだけある机に備えられた椅子に腰掛けてから、俺が立たされた方向に向き合った。




「さて質問だ。おまえの年齢はいくつだ?」


「いやちょっとまって。オ、いや私、、、」


(俺というとシエルが悲しそうな顔をするので、人前では気をつけて一人称は私にしている)




「質問されたことにだけ、答えるんだッ!」


男は片手をディスクの上で叩いてから、これだから最近の若者は、、、とブツブツといっている。




「19歳」


この肉体の年齢がわからなかった俺は、とりあえず勇者ハルキのほうの実年齢で答えてみる。


「詐称だな。嘘をつくならもっとマシに答えろ。仮にお前が15歳といっても信じやしないぞ。雇ってほしいからお前の親もそう言えと仕込んでいたんだろう? 口減らしに必死になる気持ちはわかるんだが、嘘は今後禁止する!」


ため息をついてから腕を組むと、椅子に体重をかけて体を反らしながら目を閉じている。それからうーんと唸り始めて悩み始めた。




「ヒョロっこくてしかも真っ白で、またとてもひ弱そうなモヤシだな」


ほっとけ!


それもしかたがないだろう。この3ヶ月間で寝たきりの状態から基礎体力がつくようにはなったくらいなのだから。




「まあ見てくれさについては、、、ン、ゴホン。そこは合格点を与えてやろう。、、、採用にしてやる。だがしかしうちは厳しいからな! 弱音を吐いたらすぐに追い出すぞ! それと俺を呼ぶときには、カルロさんと呼ぶんだぞ!」


「いやその、ここで働くなんて考えてないし。誰かとかんちがい」


「シャラップッ! 言いか、これからは言われたことだけに返事をするんだ!」


「ひゃ! ひゃい!」


俺がまた裏返ってしまった声で返事をするとそれで満足したのか、開店の準備をしてくるから初日のお前はここで待っていろと言い残して、カルロとかいう男は忙しそうにこの部屋から出て行った。




ううむ。これは誰かと面接する予定で、俺がその人と間違えられているっぽいな。


そのことに下手に釈明して相手をしても、恐らくは聞き入れてもらえない公算が高い。それならここは黙って消えてしまうのがよさそうだ。




だがしかし、この大きな建物の構造が把握できていないハルカは、他の出入口を探すことに時間をかけたくないために、さきほどに連れてこられた出入り口に向かうことを選択した。


ハルカはその出入り口のある大部屋へ、ソロリソロリと周囲を警戒しながら戻ると、これまで暗がりでよくわからなかった部屋に灯りがついていることを確認した。


「音? これは、、、ガラスの?」


大部屋の中からは、カチャカチャと鳴る音が響いていた。音から推測すると軽い品物なのだろうか。ともかくカルロという男が、この部屋にいることは確実になるのだろう。




ここに入ればカルロに見つかってしまうのではないか? そうなってしまうと、体力が平均以下の10歳の体では、外まで脱走することは難しいものとなりそうだ。


時間はかかってしまことになるが、戻って別の出入口を探すことにしたほうがよいのだろうか? などとハルカが思い悩んでいると、カルロらしき悲鳴を出した声が突然に聞こえてきた。




何事かと、俺は大部屋へ一歩踏み出そうとした瞬間、


ガターーーン!!



「え? な、なんだ??」


何かが派手に倒された物音が続いて、俺は冒険者であった習慣上の癖から、直ぐ様に背を落として身を隠す動作をした。




慎重に明るくなっていた中を覗くと、暗くてわからなかったこの大部屋の正体が、実は酒場の大ホールであることがわかった。


出入り口から正面になる大きな壁側には、横に20人は腰掛けられる巨大なカウンターが置かれており、そのカウンターの後ろにある壁棚には、様々の酒類とそれらの飲み物に合わせたグラスなどが並べ置かれていた。




ホールにはテーブルとイスのセットがいくつも配置されていて、そのうちのテーブルの1つがハデに倒されている。


さきほどの大きな音をたてた原因は、たぶんあれとなるのだろう。




「ふひゃふひゃっ、ふひゃっふひゃっ」


その大ホールからは聞きなれない、複数の下品な笑い声が満たされていた。よく観察すると、そこにいたのはならず者風に見える、三人組の男たちであった。


男たちの足元では、腰を抜かしてへたりこんだ、小太りで頭の薄いエプロン姿のカルロが、腰を抜かして震えていた。




「ここを立ち退かないと、そのうちに脅しだけじゃあすまなくなるんだぜぇ。痛い目をみたくなかったら、さっさとこの店を畳むこったな」


「そうだぜ、こんなに汚くて大きな建物があるのは、ご近所の迷惑ってことになるんだよ。迷惑料をよこしやがれ!」


「ふひゃふひゃ、今日はここまでにしておいてやる。じゃあまたくるぜ」


男たちは口々にそう言い捨てると、高笑いをしながら大ホールから立ち去っていった。




腰を抜かしてへたりこみ、自室呆然となったカルロを尻目にして、ハルカもここがチャンスとばかりに建物の中から出て行ったのだった。

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