生きる権利を害する者は神とて許さず
マーシャが来てから、アリアもより一層明るくなった。
勿論、まだまだ闇から抜け出した訳ではない。
マーシャに心配掛けまいと必死なのかも知れないが、それを上手く隠して明るく振る舞っているようにゼノは感じた。
マーシャは料理人の娘、リゼと一緒に遊んでいる。
同い年の2人が仲良くなるのに時間はかからなかった。
そんな2人がゼノ様ゼノ様と迫ってくる・・・
「な、なんじゃ?」
「ゼノ様、一緒に遊んでくださいませ」
「ゼノ様、あーそーぼー」
今日の遊びはメイドごっこだ。
2人はメイド、ゼノはゼノ様役だった。
「お茶をお持ちいたしました」
「ご飯です」
「違うわよリゼ」
「お食事お持ちいたしました。よ」
「おちょぐちお持ちいたました?」
「クスクスリゼったら面白い」
「笑ったなークスクスアハハハ」
「アハハハ」
「マーシャ、リゼ、旦那様を困らせたらダメよ」
アリアが登場だ。
「アリアお姉様もゼノ様に剣の稽古を付けて貰いにきたのですか?ゼノ様を困らせてはダメですよ」
「そ、そんなことないわよ・・・」
「では何故木剣を2本お持ちなのですか?」
「こ、これは二刀流を試そうかと」
「へぇー二刀流ですか?お姉様が二刀流をね」
「な、なによ」
「二刀流など曲芸であって剣術とは認めないとよく言ってましたよね?」
「くっ」
ここまで良く我慢した、だがもうそろそろ。
何度も笑いを堪えてプルプルしたことが。
「ブハハハ。今日も面白い」
「あーまたゼノ様笑ったなー」
「うむ、3人のやり取りはいつも楽しいのう」
「アリア、剣を2本貸すのじゃ」
「はい」
、
ゼノは庭の木に向かい二刀流を披露する。
枝を相手の剣とし二刀で打ったり、一刀を枝に打ち、もう一刀で幹に打ち込んだりと。
「二刀流も立派な剣術じゃぞ。相手が真に二刀流の使い手なら一刀で相手にするには分が悪い。一刀を上段から、もう一刀を反対の中段、下段から打ち込まれたら対処は難しい」
「はい。二刀流も私に教えて頂けませんか」
「構わんぞ。それでここには何用かな?」
「はい。旦那様に剣の稽古をと思いまして」
「「あっ」」
一斉にアリアに指を刺すマーシャとリゼ。
「え?あっ」
「やはり稽古を付けて貰いに来たのじゃな」
「は、はい。お願いします」
「よかろう。だが、今は先客があってな。この2人の後でも構わないかい?」
「勿論です」
「じゃアリア姉ちゃんも一緒に遊ぼう」
「ならお姉様はゼノ様夫人役ね」
マーシャはニヤニヤしながらアリアに目配せをする。
「ふ、ふ、ふ、夫人、しかもゼノ様の夫人役。やります。やり切ります」
それから愉快なメイドごっこが再開した。
♦︎♦︎♦︎
屋敷の護衛にはアリアと料理人の奥さんのリナが務める事になった。
結婚する前は高ランク冒険者だったそうで、ブランクはアリアと一緒にゼノの稽古を受けて埋めていった。
アリアとリゼを鍛冶屋に連れて行き、自分に合う武器防具を購入した。
これで冒険者生活を再開出来る。
現在の冒険者ランクはD、Cに上がる為には護衛任務を複数回達成する事が条件である。
そしてその条件の中には族を殺す事も含まれていた。
要するに人を殺せるかどうかが次のランクから求められるのだ。
Cランク以降は大店の商隊護衛や、身分を隠して移動する貴族連中の護衛依頼等がある為である。
大きな商会は一度の買い付けに複数台の馬車を走らせる、それ故に大物の盗賊達に狙われやすく、高ランク冒険者を何人も護衛として付ける。
身分を隠して移動する貴族とは兵士を連れ歩く金がない者(兵士の手当、食費、宿代、他領に入れば服や貴金属、土産、宿等の見栄張り代など高ランク冒険者を雇い野宿した方が安上がりなのだ)、人知れず諸国を旅をする貴族や王族だったりと様々な事情があるようだ。
護衛依頼は数日から数十日となり、その間、家を開けなくてはならない。
アリアとリナがいれば安心して家を開けられる。
神が人を殺せるか?
相手が犯罪を犯し、こちらに害を与えるのならば殺す事も出来る。
神は基本的に人の死に疎いのだ。
勿論、アリアを助けたのは純粋にこの命を救いたいと思ったからであり、救う事も殺す事もその人間がしてきた事、されてきた事など日々の行いは大切なのだと思う。
だが今、儂は人だ。
人の中にも人族、獣人族、亜人族と見た目や考え方が違う。
その括りの中でも見た目や肌の色が違い、目の色が違う、考え方や信仰までもが違うのだ。
そう言う些細な違いが差別や迫害、戦争にまで発展する。
人は平等であり生きる権利があるのだ。
人を害す者にはそれに見合う代償がいると考える。
アリアはそれ以上の代償を払ったし、戦争中で国の為に働く中で相手を斬り伏せた、そして相手にも殺意があって向かってきた事は事実だろう。
勿論、戦争は悪だ、だが逆らえば反逆罪で処刑されてしまう世の中である事も考慮しなければならない。
族は違う。
人の生きる権利を害し、全てを奪う者たちだ。
自分の為に人を害し奪う、自分の快楽のために犯し殺すのだ。
自分達の行いでその権利を手放した者たち、権利が無いと言う事は迷惑な魔物と分からないという事、食う肉も加工出来る皮も持たず、ゴブリンと同類、いや魔石も持たないので、ゴブリン以下の魔物である、だから儂は人としてその魔物を殺す。
護衛依頼は今日も何事もなく終わりを迎えた。
「すまない。護衛依頼を10回受けたんじゃが盗賊が出ないんじゃよ」
「Cランクに上がる為には盗賊殺しの達成が必要でしたね。盗賊が来ないと言う事ですが・・・。少し申し上げにくいんですが・・・」
「なんじゃ?申してみてくれ」
「はい。フェル君を連れてるから盗賊も怖くて近寄らないんだと思います」
ガーン!
「そうか、人はフェルが怖いのか?」
「そう言う貴方も人ですよ」
「そうじゃった。怖いかのぉ」
「今はここの人達は慣れてフェル君を可愛がっていますが最初は誰もピクリとも動かなかったんですよ」
「それは盲点だった」
「盲点だったのですか?今、最強の護衛を連れてる冒険者がいると商人達から指名依頼の問い合わせがあるくらい有名ですよ」
「それは困ったのぉ」
その時、ゼノを見つけたギルマスが飛んでくる。
「ゼノ、いいところに居た。大物の盗賊団が潜んでいる所を見つけてこれから討伐メンバーを募集するんだがどうだ?Cランクに上がるのにも盗賊殺しが必要だろ?」
なんてタイムリーな依頼だろうか、当然答えは勿論、「参加」だ。
翌々日、早朝。
まだ夜も明けきらないうちからギルドへと集合する冒険者達。
Bランク5人のクラン真授の力、そのリーダーのガリムが討伐部隊のリーダーとなる。
Cランク2人、Dランク2のクラン紅玉の乙女、リーダーアリス。
そしてDランクのゼノ。
以上10名で大盗賊団を殲滅する。
盗賊団は30人から50人くらいだと言う。
こちらが少ない気がするが盗賊団は狭い洞窟内を拠点にしている、妥当な数字だろう。
真授の力の1人が絡んできた。
「おい貴様は荷運びに来たのか?」
「いえ、盗賊討伐にきましたがなにか?」
「本当に大丈夫なのか?お前みたいなガキに務まる仕事とは到底思えないがな」
「そこら辺にしたまえ」
紅玉の乙女のリーダーアリスが止めに入る。
「なんだ貴様。俺はBランクだぞ。文句あるなら掛かってこいよ」
「・・・いや、ない」
「だったらしゃしゃり出てくんな」
「だが仲間だろ」
「くそアマが口答えしやがって」
振り上げた拳をを思いっきり振り下ろす。
真授の力のリーダーがピクっと動いたが、ゼノは目にも止まらぬ速さでその拳を掌で受けた。
「貴様、俺の拳を片手で止めやがって。殺す。殺してやる」
「お主、拳闘士じゃな?」
「だったらなんだ」
「いやな、拳闘士が拳を振るうのは剣士が剣を、魔法使いが魔法を使うのと同罪じゃよ。殺すと言うのなら儂は返り討ちにしてくれる」
「くっ、何故当たらない、何故だ」
「もういいじゃろ、此奴を止めぬお主らも同罪じゃぞ」
ゼノは拳闘士にも見えない速さでカウンターを放つ。
拳闘士の下顎を捉えそのまま前のめりに倒れた。
「この事はギルマスに報告する」
「その必要は無い」
「ギ、ギルマス」
「良いところに来た。此奴はダメじゃ、仲間を殺すと言って本気で殴りつけてきたわ」
「そ、それは」
「一部始終見ていた。真授の力コズルは最悪ギルドカード剥奪もあると思え。先ずは此奴を牢にぶち込んでおけ。ガリム、お前にも追って処罰を言い渡すからな」
「な、なぜ?」
「何故じゃと?本気で言っているのか?」
「ゼノそこら辺にしろ。お前たちは此奴のクランメンバーだ、ガリムに至ってはリーダーだろ。メンバーの暴発を何故止めずに放っておいた」
「それは」
「同罪だ。しかし今回の依頼はしっかりとこなしてもらう。ゼノや他のメンバーに迷惑をかけるなよ。そしてこの隊のリーダーはゼノに変更だ。コズルの代わりに1人いや1匹補充しても良いぞ」
「そうかわかった」
ピューピュッ
ゼノが指笛を吹くと尻尾をフリフリご機嫌な様子のフェルが猛スピードで走ってきた。
「主人ー。一緒に行って良いんですか?」
「うむ、ギルマスが了承してくれたのじゃよ」
「では早速いきましょう」
「その前に、フェンリルのフェルじゃ。よろしく頼む」
「フ、フ、フェンリル?フェンリルだと?」
「そうだ。フェンリルだが問題あるか?文句があるなら私に言え、主人にごちゃごちゃ言う奴は容赦しないからな」
「フェル、そう脅すんじゃない。すまんのー」
「何も問題ない。フェンリルが味方なら百人力だ」
「ふん。それじゃ主人、出発致しましょう」
目的地は馬車で半日、徒歩で一時間程歩いた所にあった。
道中、紅玉の乙女の4人が入れ替わり立ち替わりフェルに乗って移動していた。
最初こそ主人しか乗せないと駄々を捏ねるも女の子を乗せ走り出すと直ぐに満更でも無い顔つきになる。
途中何度か休憩を挟むも予定時間に目的地に到着した。
洞窟の外には5人の見張りが立っている。
「さぁどうするか?」
「一般的には夜、酒が入って酩酊した頃に仕掛けるんだが」
「それが一番良いんじゃ無いかしら」
「そうじゃな、それでいこう」
夜も深け辺りが闇に覆われた頃、洞窟内からは騒ぎ声が聞こえてくる。
「早い時間から酔っ払いだしたな。そろそろ行こう」
「そうじゃな。しかし・・・何か嫌な予感がするのぉ」
「ど、どうした?今が好機だろ?」
「そうだな・・・。行こう。先ずはお主らが先を歩いてくれ。洞窟に入ったら儂らが前に出る」
「わかった」
真授の力が先頭で洞窟へと向かう。
その後ろで、ゼノは紅玉の乙女リーダーに耳打ちをした。
驚いたアリスは一瞬驚いた表情をするも、直ぐに冷静になる。
洞窟へ近づくと見張りを倒す事に。
「声を出されたら厄介だ。喉を締めて気絶させろ」
真授の力のメンバーはそう言ったがゼノと紅玉の乙女のメンバーは気づかれないように、そのまま首の骨を折って絶命させる。
洞窟に入る、順番は紅玉、ゼノ、真授の順番だ。
どんちゃん騒ぎが木霊し聴こえてくる。
「やはり変じゃな」
「どうした?嫌なら洞窟の外へ行って離れていろ」
「嫌だとは言っておらん。少し声の音量を下げてくれぬか。洞窟内じゃからな、響いて族に聞こえてしまう」
「ならさっさと中へ行くんだ」
「どうした?さっきからイライラしておるぞ」
「煩い!」
ガリムは洞窟内に響き渡る大声を出した。
「お前が煩い。はぁ、やはりお前らは族の仲間じゃな。初めから不審な事ばかりじゃな」
「な、なんだと」
「最初から変じゃった。儂に絡んだのはまぁそんな事もあるかもしれん。紅玉に突っかかったのは人選ミスじゃったな。だがあの時、お前さんが反応した。本来の計画は俺をこの隊から抜けさせる事じゃ。そして紅玉だけをここに連れて行く。それが狙いだったんじゃな?」
「な、何を言ってやがる」
「50人程の族にこの数じゃ、リーダーであるお前さんにはギルマスから昼間に突入する様にと伝えられてなかったか?」
「な、何故それを知っている?」
「何故って夜に入るならもう10から20人程多くてもいいはずじゃ。それにその場合夜目のきく獣人に指名依頼が入って当然じゃからな」
「くっ」
「今すぐ認めて投降するなら殺しはせんぞ」
「テメーら出て・・・こ」
「そうか、死ぬ道を選ぶか」
ガリムの首がズレてゴトっと落ちた。
「な、何をしたんだ?」
「なんじゃこの程度でもBランクには見えぬか」
「ひぃ、と、投降する。許してください」
「もう遅い。フェル」
フェルの爪が首を撫でると、血が吹き出してゴロンと首が落ちて転がった。
「あなた凄い強いのね」
そう言うとアリスは無数の棘が付いた鞭を振るう。
「ギィャャャ〜」
断末魔をあげ生き絶えた。
「凄まじい武器じゃな。」
「ウフフ。こんな事も出来ますよ」
洞窟内からきた盗賊向けて鞭を振るうと、首に巻き付いた。
そしてアリスは力一杯に引っ張ると首が千切れ落ちる。
「なんて悍しい武器じゃ」
「ウフフ、私達もゼノさんに嘘を付いていました。私達は他の方々とは違う場所で活動しているSクラス冒険者なんです」
「ほぉSクラスとな。もしや此奴らの事でCクラスと偽り出張ってきたのかい?」
「はい。女冒険者がとある冒険者達と盗賊討伐に行くと必ず死ぬと言うのでギルマスに頼まれて参加しました。本当のパーティー名は神光の乙女と言います」
「やはりそうじゃったのか。神光の乙女か、いい名じゃな」
「ありがとうございます」
「さて、残りの盗賊達も片付けてしまおう」
神光の乙女は特殊な任務を遂行する冒険者で、それぞれ役職をもっている。
副リーダーのハンナは裁判官、治癒士のオルガは僧侶、バイオレットは検事、そしてリーダーのアリスは死刑執行人である。
そう、族など凶悪犯専門の冒険者であり、超簡易裁判で超即日死刑執行を行なっている。
神光の乙女達が属する組織は神光と言い、冒険者ギルド、国、法省、教会が共同で組織した部隊名である。
そしてこの日、盗賊とその仲間の冒険者総勢62名をゼノと神光の乙女が処刑した。
その後、捕らえられていた16人の人族の女性と1人のエルフの少女を解放した。
それから数日、神光の乙女達のステータスに創造神の加護(ステータス倍率1.5倍)が追加された。