神に救われた少女
「買取と合わせて金貨80枚と銀貨25枚になります」
「うむ、ありがとう」
「こちらこそいつも大量の薬草ありがとうございます。そう言えばゼノさんはまだ宿で寝泊まりしているのですか?」
「そうじゃがどうした?」
「いえ、先の戦争で家を売りに出す方が多くいるそうなんです。もし興味があればと思いまして」
「そうなのか。そうじゃな少し考えてみようかな」
「向かいの商業ギルドで場所や金額が分かりますのでご検討の際にはご利用下さい」
「わかった」
「フェルの為にも家を買うのも手じゃな」
馬程の大きさのフェルは宿には入れず厩舎生活を余儀なくされていた。
冒険者ギルドを出て真向かいの商業ギルドへと足を運ぶ。
「ようこそ商業ギルドへ。ご用件は?」
「家を購入しようと思っているのじゃが」
「わかりました。それではこれが王都の地図になります。そして売り家が赤く染まっている場所になります。バツとなっている所はもう売却が終わったところです」
「そうか」
「条件をお伺いさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「そうじゃな、扉や窓が大きな所、庭も広い方がありがたい」
「それでしたらココとココ、そしてココですね」
「このギルドに近い所を見学する事は可能かの?」
「はい。勿論可能ですよ。直ぐ近くですしこれから向かいましょう」
「大きい家だの」
「そうですね。ただ先程の条件では一番小さいはずです」
「そうなのか」
「ここでお幾らか?」
「そうですね。冒険者ギルドの最速昇格を更新しているゼノ様ですからね。ここは勉強させて頂きます」
「知っておったのか?」
「勿論でございますよ」
「そうですね。ミスリル金貨2枚と金貨50枚でいかがでしょうか?」
「そうじゃな、ミスリル金貨1枚と金貨90枚でどうじゃ?」
「それは流石に・・・ではミスリル金貨2枚と金貨30枚では?」
「ほう、では切りのいいところでミスリル金貨2枚はどうかの?」
「くっ、わかりました。今回だけの特別サービスです。ミスリル金貨2枚でお譲りいたします」
「うむ、ではミスリル金貨2枚じゃ」
「確かに、これが権利者等の書類になります」
「それにしてもここまで大きな家だと掃除も大変そうじゃな」
「奴隷を雇うのは如何ですか?」
「奴隷か・・・」
「犯罪奴隷は兎も角、借金奴隷であればメイド、料理が出来る者が揃っているはずです」
「何処にあるのじゃ」
「そういう事でしたら私どもにお任せを」
商業ギルドで聞いた所、王都には奴隷商が一軒しかないそうだ。
そしてその奴隷商の店主は出来たお人で自分の認めた者以外には奴隷を売らないと言う。
一応、紹介状とやらを貰って奴隷商の元へと向かった。
「いらっしゃい。僕ちゃん初めて見る顔だね」
「はい、最近家を購入したのじゃがメイドが数名と儂の居ない時に警備をする者を探しているのじゃよ」
「そうかい。それで?僕ちゃんに買えるような金額の奴隷はここには居ないと思うがね」
「そ、そんなにするのか?」
「えぇ、その人数だとミスリル金貨数枚は掛かるわよ」
「よかった。その金額なら問題ない」
「ミスリル金貨10 枚はするかもよ」
「それくらいなら大丈夫じゃ」
ここの所採取で毎日ミスリル金貨1枚から2枚程稼いでいた。
信者の金を使わなくても余裕であった。
信じられない。
この私の目利きが間違えるなんて・・・
きっとど田舎の商人か何かのボンボンだわ
「因みに親御さんのお金かしら?」
「自分で稼いだお金じゃよ」
「因みにご貴族様とか商人様でしょうか?」
「いや、冒険者じゃが問題あるか?」
ま、ま、また間違えた。
最近冒険者になりましたって顔してそんな金何処で手に入れたの?
「あっすまん、商業ギルドで紹介状とやらを預かったのを忘れとったわ」
「確認させて頂くわ」
手紙を読んでいくうちに奴隷商は顔がみるみる蒼くなっていった。
「た、ただいま奴隷の準備を致します。少々お待ちください」
ヤバい、この子供がフェンリルを従魔にして希少な薬草の大量に採取して、ウルフの群れを瞬殺した冒険者だったとは・・・
連れてこられたのは借金奴隷でメイドが出来る者達だ。
4名全員を購入する。
次は料理人だが、嫁と子を一緒に引き取る事が条件だったが家族共々引き取ることにした。
そして、警備については借金奴隷には居ないと言われた。
メイド達の準備の間、犯罪奴隷を見ることになった。
奴隷となる者は殺人、窃盗以外の犯罪者と決まっている。
なので、警備を任せられる者は殆ど居なかった。
だが、マップにはとても強い者の反応がある。
「この奥は?」
奴隷商はぴくっと反応する。
「この奥は病気に罹って長くない者がいる。立ち入り禁止だ」
「それはわかるがの、頼む見せてはくれないか?」
「わかったが他言無用だよ」
「約束しよう」
奥には1人、顔は腫れ上がり男女の区別さえ出さない程に身体中が腫れ上がり痣だらけ、裂傷も多々見受けられる。
ピクリとも動かず腐乱した骸と見ただけでは思えてしまう程酷い状態だった。
「何故こんな事を・・・」
「こいつは帝国の第四皇女のアリアだ、姫騎士と謳われ国王軍を百人以上斬り殺した悪魔だよ」
「そうなのか、だが敵の皇女だから王国の人を百人殺したからとここまで酷い事をして許されるのか?」
「知らないよ。隣の領の奴隷商が置いていったんだ。辺境伯領から王都まで石を投げられ暴言を吐かれて街から街へと奴隷商に引き摺り回されここまで来たんだ。もううちでこのまま死なせてやるのが精一杯だよ」
「そうだったんじゃな。申し訳なかった」
「構わないさ。私のだって帝国には頭がきてるんだ」
「儂にこの子を買わせてくれんか?こんな若い子が絶望したまま死んでゆくなんてかわいそうじゃ」
「構わないよ。どうせいてもなんの役にも立たないんだ。ただでくれてやる」
慌ただしくメイド達と料理人家族の代金を払って重体の彼女は布に包んで家へと戻った。
皆、直ぐに仕事に取り掛かる。
ゼノも少女をベットに寝かせて全知全能に彼女の回復を願った。
少女は光に包まれる。
ゆっくりと体が治ると言うよりは再生していく。
殴られ切り刻まれた顔も美しい元の顔に再生した。
全てが元に戻ったのだ。
そう・・・ガサガサでボサボサだった髪も、執拗に腹を蹴られて子を生む事が困難となった身体も男達に陵辱された傷も何もかも無かったことになったのだ。
後はショックから立ち直れれば目が覚めるだろう。
全てが再生したとしても彼女の受けた心の傷は元には戻らない。
5日後、彼女は目を覚ました。
だが直ぐに錯乱して昏倒した。
次の日にまた目を覚ます。
ようやく会話する事が出来た。
なにがあったのか全知全能の事は話さなかったが全ての傷を再生した事、記憶は消えないだろうが身体は過去に戻した事、そこは包み隠さず話した。
子供を産めること、その為の行為に関して初めては痛みがある事を。
この話を聞いた彼女は泣きながら初めて笑った。
暫くはリハビリに努め、一月後外出が出来るまで心も身体も回復した。
戦争中は兜を被っていたこと、奴隷として辺境伯領へ来る前には顔が変形していたこともあって街に出ても彼女が帝国の姫君と知る者は誰1人としていなかった。
ここ最近、少しずつ笑うようになった。
しかし、夜になると暗闇に恐怖する毎日。
コンコン
「なんじゃ?」
「旦那様、き、今日も一緒に寝てもいいでしょうか?」
動ける様になってから毎晩の様に泣きながら部屋に入ってくる。
ベットに入ると頭を撫でてやる。
そうすると安心したように直ぐ寝てしまうのだ。
日に日に明るくなる彼女だったが、自ら命を経つかも知れない程に危うい一面もあった。
儂も出来る限り一緒にいた。
儂のいない日はメイド達が彼女の側から離れない。
そんな紙一重の日々だった。
メイドや料理人家族は彼女と同じ奴隷商にいた為彼女の素性をしっている。
知った上で彼女を皆が見守った。
そんな彼女にとって転機が訪れる。
奴隷商からの突然の連絡、第五皇女が手に入ったと。
第五皇女はマーシャと言うそうで。まだ10才で皇女という事でずっと帝国派の奴隷商に守られていたそうだ。
直ぐにミスリル金貨8枚で皇女を自宅に連れ帰った。
「お、お姉様?」
「マ、マーシャ?マーシャなの?」
抱き合って喜ぶ2人を見て皆んながウルウルしてしまった。
完全に立ち直る事は一生出来ないのかも知れない。
だが、アリアはもう自らの手で命を落とす様な事はしないと思う。
♦︎♦︎♦︎
私は名はアリア・フォン・・・
いえ、私の名はアリア。
父と母、兄達が目の前で処刑され、私達も奴隷となった。
私は戦争で数多くの敵兵士を斬り伏せた。
そんな私に待っていたのは地獄だった。
獣人の男達は私をめちゃくちゃに犯した。
そして、笑いながら敵国のしかも戦地だった場所の奴隷商に私を売ったのだ。
その奴隷商は私を数日間に渡り殴り付けながら犯した。
そして最後には
「お前との子など殺してしまえ」
と言って腹を何十回と蹴った。
下腹部から血が滴り落ちこれで子を産み育てるという子供の頃の一つの夢は潰えたのだと絶望した。
それからは街で縛りつけられ住民を煽り罵声や石を投げ付けられる日々。
街から街へと奴隷商に倣い回され痛みも何も分からなくなる程石を投げられた。
気が遠くなる。
早く殺して欲しい。
舌を噛み切る力も私には残されていなかった。
そして私はもうこの絶望は永遠に続くのだろうととうに諦めた。
そんな時だ。
とても暖かい。
人肌の温もりを感じてようやく天の迎えが来たのだと思った。
だけど少しだけ子供の頃に夢に見た白馬に乗った王子様と幸せに暮らすと言うもう一つの夢を叶えてみたかったと言う後悔だけが残っていた。
目覚めた私は目を疑い錯乱して昏倒した。
そう、あんな絶望の中、もう手を差し伸べてくれる者は無いと諦めていた。
そして私はもう治らない程の数多の傷を負った。
なのに起きたら元に戻っている、夢でも見ていると思ったしあの絶望が夢ならいいと願った。
そしてまた目覚めた私は同じ部屋で目覚め、身体も元に戻っていた。
そして目の前には銀髪の整った顔立ちの男の子が心配そうにこちらを見ていた。
全てを聞いた。
その男の子が私を買って全ての傷を再生してくれたのだと言う。
ああ、あの絶望の日々は夢ではなかったんだ。
いくら処女に戻っても、いくら子供が産める身体に戻ってもあの痛みは忘れない、あの絶望は目を閉じれば瞼にまだはっきりと焼き付いている。
旦那様はとても良くしてくれた。
奴隷の皆んなも私が帝国の姫だと知っても変わらず気にかけて見守ってくれている。
暗闇は恐ろしかった。
あの日々に戻った様な感覚を覚えて、寝ても夢にみた。
勇気を出して旦那様に一緒に寝て欲しいと頼んだ。
旦那様はとても優しく頭を撫でてくれた。
とても安心してとても幸せな夢が見れた。
それでも私は身体にこびりついたあの恐怖や感覚を未だに克服出来ずにいた。
それを知ってか知らずかいつも誰が側にいてくれた。
そして今日、旦那様は妹のマーシャを奴隷商から私と同じように救い出してくれた。
妹は幼く、誰にも触れられていないようだ。
本当によかった。
本当によかった。
本当に・・・死ななくてよかった。
今、私の周りは優しさで溢れている。
皆んなが私を気遣ってくれる。
私はもう怖くない。
私は子供の頃夢に少し近づいている。
私を救ってくれた王子様・・・いえ旦那様ね。
旦那様がいてくれさえすればこんな私でもまた夢を見れるんだ。
あの日あの時、私を救ってくれてありがとうございます。
私を生かしてくれてありがとうございます。
私に良くしてくれてありがとうございます。
大好きです。
アリア