09 気の迷いではありません
「ルーヴァス様はどんな女性が好みなのかしら」
「アルティナ様はなぜそんなことを知りたがっているのかな」
今日もなぜか私の部屋に居座っているディスターさんが、不思議そうに私を見て質問してきた。
「私がルーヴァス様のことを好きだからですけど」
また不思議そうにするディスターさん。
「えっとー、たぶんそれは吊り橋効果と言って、アルティナ様の気の迷いだね」
「気の迷い?」
「恐怖でドキドキしていた気持ちを、恋心と勘違いしているんだよ。すんでのところをルーヴァス王に救われたんだから、格好よく見えたのも仕方がないけど、あれがもしルーヴァス王ではなくても、アルティナ様は気になっていたんじゃないかな」
「そうかしら……」
「僕が救っていたなら、アルティナ様の気持ちは僕へ向けられていたと思うよ」
「うーん、でも実際助けてくれたのはルーヴァス様ですし。もしもって話はおかしくないかしら。それにディスターさんも私のために危険を冒してまで頑張ってくださいましたよね? それでも私はルーヴァス様のことを好きになったんですけど」
「――では、今はそう言うことにしておこうか。そのうち目が覚めると思うけど」
ルーヴァス様といい、ディスターさんといい、私がルーヴァス様を好きなることを良しとしていないようだ。でも気持ちはどうしようもない。
たぶん、このままではどうやったって私が王妃になることは難しいから皆が気を使ってくれているんだと思う。
だけど、考え方を変えてみれば、花の香りがしない私はもともと必要だったお飾りの王妃になれない。
だったらそれとは別にお飾りではない本当の妻の座が欲しいと思うのはだめなのだろうか。ルーヴァス様にさえ好かれればいいような気がするんだけど。
「あ、それなら私は愛妾をめざせばいいってことなのかしら」
「は? アルティナ様?」
「もしかして、ディスターさんはルーヴァス様の好みのタイプを知らないんですか」
「いや、そんなことはないけど……愛妾候補もいるし。たぶん彼女みたいな女性が好みだと思う」
すでにそんな女性がいるの?
「誰? どんな人?」
「今の状況だと、とても言いづらいんだけど……」
「私はかまわないから教えてください」
「これからアルティナ様の……と言うか、王妃の護衛を務める予定だった近衛騎士のひとり。一応、アルティナ様のことをルーヴァス王は本物として扱うようだから、いずれ会うことになるとは思うよ」
「それはなんか複雑ですね」
「こちらはまさかアルティナ様が、ルーヴァス王のことを好きになるなんて、思ってもみなかったからね」
ディスターさんの言い方だと、ペルセダン王のことをカカルシアの姫が好きになることは、まるであり得ないことのように聞こえる。
どうなんだろう。
先代の王妃様は私の伯母様に当たる方だ。会って話がしてみたい。
「私はみんなに嫌われてしまったけど、私が嫁いでくるのを楽しみにしていたっていうくらいだから、先代の王妃様は国民から愛されているのでしょうね。羨ましいわ。会えないかしら」
「先代の王妃に?」
「伯母がこちらに嫁ぐときには私はまだ産まれてもいなかったから会ったこともないのだけど、だめですか」
お飾りの話を聞かされた時、どんな気持ちだったか知りたい。
「えっと、それはやめておいた方がいいと思う。アルティナ様が傷つくことになるよ」
「どう言うことですか?」
「――――先代の王妃はさ、本当ならお役御免で自由になれたところを、アルティナ様は役目を果たせないから、結局継続してもらうほかないんだよね。たぶん激怒していると思う」
「そんな……」
王妃の役割から考えれば、引き継ぐ者がいないのだから仕方がないことだけど、先代の王妃にしてみれば寝耳に水だろう。
本当にいろんな人に迷惑をかけている私。
自分の香りがとても恨めしい。