06 ルーヴァス様に好かれたい
「それで美味しそうというのは?」
「戦闘後で気持ちが……いや、腹が減っていて思わず口にしてしまっただけだ。そのことは忘れてくれ」
「はあ」
まさか、飛竜と同じで本当に食べたいと感じるならちょっと怖い。いくら種族が違うっていっても、そんなことはないわよね?
「飛竜のことがなければ、アルティナの香りは本来ペルセダン人には好ましく思えるものなのだ」
「そうなんですか」
「みんな憎くてあのような態度を取っているわけではない。だからお主の処遇は心配しないでくれ。私がいいように取り計らうからな」
「そのことなんですけど、私、本当にアルティナなんです。カカルシアの王城でちゃんと王女として育てられました。偽物なんかじゃありません」
「ふむ、そうなると考える必要があるな」
ルーヴァス様は視線を遠くに向けて何やら考え始めた。
「ルーヴァス王、お話は後ほどお願いします。まずお二人の手当てをしなければいけませんので」
ディスターさんが声をかけてきたので、彼の方を見てみると、崩壊している部屋のドアの外に、人が集まっていることに気がついた。
「わ、私、自分で歩けますから、降ろしてください」
「震えているが、大丈夫なのか?」
「これは恥ずかしいからなんです。だから早く降ろして」
「すまぬ、たしかにその姿ではまずいな。誰かシーツか何か、アルティナに掛けるものを用意してくれ」
ルーヴァス様に言われて、すぐに侍女がブランケットを持ってきた。
足が出ているのも恥ずかしいけど、ルーヴァス様に抱きかかえられているのが恥ずかしいのに。人が集まりすぎてそれを言うのも恥ずかしい。
だから私はルーヴァス様のなすがまま、ただ下を向いていることしかできなかった。
でも私の伴侶になる方が優しい人でよかった。ってあれ?
さっきの話だと誤解が解けて、私が本物のアルティナだとみんなにわかってもらえたとしても、ルーヴァス様の花嫁にはなれないのかしら。
それは嫌だわ。
それにディスターさんの話だと私はお父様の血を引いていないことになる。
それってどう言うことなの。まさかあのお母様がお父様を裏切るようなことをするはずはないし。
ディスターさんが言ったように、ペルセダンへ嫁がせる姫が産まれなかったから、今日のために代わりに育てられたのかしら?
もしそうだとしたら送り返されても、役立たずな私を温かく迎えてくれる保証はない。
「ルーヴァス様」
「なんだアルティナ」
「私には帰る場所がないんです。おそばにおいてください」
「――――それは考えさせてくれ」
「え?」
拒否されて、悲しくて、たぶん涙目になっている私から、ルーヴァス様は目をそらした。
そのまま別の部屋に運ばれて私はソファに降ろされる。
「アルティナの着替えを頼む。それから侍女はアルティナの味方になってくれるような者をつけてくれ」
「かしこまりました」
侍女長らしき年配の女性にそう言ってから、ルーヴァス様は私の方も見ずに部屋から出て行ってしまった。
「迷惑だったのかしら」
わざわざ考えなくてもわかりきっている。結婚式を台無しにしたのは私の香り。
国民の前に出せないだけではなく、私のせいで飛竜を呼び寄せてしまった。
花嫁をずっと待っていたルーヴァス様に失望されてもしかたない。
「ルーヴァス様にまで見限られて、私どうしたらいいんだろう」