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05 香りの真実

 バルコニーへと続く大窓が壁ごと崩壊し、荒れ放題の部屋の中には、純白のタキシードに飛竜の血痕が飛び散った花婿と、裾が破け膝が出た状態の無残なウエディングドレスを身に着けた花嫁。


 これほど酷い婚礼衣装の新郎新婦はなかなかいないのではないだろうか。


「ひゃっ」


 ルーヴァス様は力尽きて床に座り込んでいた私を、優しく持ち上げたかと思うと横抱きにした。


「姿はボロボロだが、血の匂いはしないから傷ついてはいないようだな」


 安心したようにつぶやいたルーヴァス様の声が耳に届く。


「爪は……」


 放心している私の口からこぼれた言葉は、目の前にあるルーヴァス様の手に向けられたものだ。

 飛竜を切り裂いていた鋭い爪はその姿を消して、私と同じような指になっていた。


「出し入れ自由だ」


 そう言って軽く手を振って見せるルーヴァス様。


「うぐっ……怖かった……」


 ほっとしたら涙が出てきた。私が泣き出したのでルーヴァス様は困りつつも、そのままずっと私を抱きかかえている。


「私がそばにいながら申し訳ございません」


 ディスターさんも無事でよかった。


 あの状況でルーヴァス様の助けがなければ、ディスターさんだって危険だったかもしれない。


「頭を上げてくれディスター。お主がバルコニーからアルティナを避難させてくれたおかげで、大事にはならなかったのだから」 


 そうだ。ふたりに助けられなければ、私は今ごろは飛竜のお腹の中だったかもしれない。


「あの、ルーヴァス様、ディスターさん、ありがとうございました」


 ルーヴァス様の腕の中から、急いでお礼の言葉を告げる。ルーヴァス様の顔を見上げれば、思いのほか顔が近い。


 ドキンッ


 実は精悍なその姿を初めて見たときから好ましく思っていた。

 さっきも私に優しい言葉をかけてくれたのはルーヴァス様だけ。その人と密着していることがとても恥ずかしくなって顔が熱くなる。


「本当だったら国民に祝福され、晴れやかな一日を過ごすはずが、偽物と罵られ、飛竜に襲われて今日ほど最悪な日はないだろう。可哀そうなことをしたな」


 申し訳なさそうなルーヴァス様にたいして私は首を横に振る。そして下を向いた際に自分の無残なドレスが目に入った。


「あっ、ドレス? きゃああああ」


 今ごろになって、切り裂かれたドレスから、あらわになっている自分の足に気がついて悲鳴を上げてしまう。


「アルティナ、頼むから大人しくしていてくれ。耐えられん」


「え?」


 恥ずかしさのあまり、ルーヴァス様の腕の中から逃げようともがいていた私には、彼が何を言っているのかわからない。


「さっき年寄りどもが言っていただろう、そなたが匂うと」


 結局、降ろしてくれそうもないので抵抗するのは諦めて、そのままの状態でもじもじしながらルーヴァス様と話をすることにした。


「はい。私はカカルシア王家の花の香りがしないそうですね。ディスターさんに先ほど教えていただきました」


「年寄りどもですら美味そうだと感じるのだ。私が耐えられるわけがなかろう」


「あの、何をおっしゃっているのか、まったく意味がわからないんですけど」


 もう一度ルーヴァス様の顔を見上げると顔が真っ赤になっていた。どういうこと?


「王、アルティナ様には、まだそこまで話しておりません」


「そうか……カカルシア王家の香りは飛竜が嫌う。しかし、そなたは正反対だ。身にまとっている香りは逆に引き付けるものなのだよ。しかも興奮すると香りが強くなる」


「だから重鎮たちも困っていたのです。飛竜を遠ざけるどころか引き寄せてしまう恐れがあると」


「まさか、さっきの飛竜も私のせいなの?」


「ここへ来る前に山の近くを迂回してきただろう。あれは飛竜除けのつもりだったのだ。慣例の儀式があだとなってしまったな。だからと言ってそなたに罪はないから心配しないでよい」


 ああだから、必要以上に貶されたんだ。


 あれ、飛竜のことは説明してもらって理解できたんだけど、お爺さんたちとルーヴァス様が私の香りを美味しそうって言うのはどういう意味?


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