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49 ペルセダン三大派閥

 実際に毒を盛られたくらいだから、伏魔殿だということは私にも理解できる。


 だけど、それがなぜかと言えばわからない。命を狙われる理由で考えられるのは、『飛竜を呼び寄せてしまうから』くらいだからだ。


「アルティナ様、あちらから回りましょう」


 自室へ戻ろうとしていた時に、ビアンカが私の歩く方向を変えるように言ってきた。

 前方から私のことを蛇蝎のごとく嫌っている白髭のお爺さんがやって来たからだ。


「アルティナ……、やはりそうだったか」


 様付けで呼びたくないらしく、敬称はつけているんだかわからないくらい小さな声。その老人からほぼ呼び捨てで名前を呼ばれる。


 ビアンカが前に出て視線から隠してくれたけど、それが余計気に入らなかったらしい。


「いつも逃げ隠れしおって。イザベラ……と何か企んでいることはお見通しだと言うのに滑稽なことよ」


 私はイザベラ様の仲間じゃないです。

 そう言ったところで納得するはずもないのはわかっている。なので反論せず黙っていた。


「それに隠し持っていた毒を自ら食らってしまうとは馬鹿な奴だ。ペルセダン人に口から摂取する毒が効かないことを知らないのはペルセダン人以外だからな。誰に使おうと思っていたことやら」

「そんな……」


 あまりにも酷い言葉に私が叫びかけるとビアンカが止めに入る。


「サイモン様、私の主に言いがかりはやめていただけませんか」

「主だと? 侯爵家の者がそのように遜った態度をするなど恥を知れ」

「我が家まで貶めますか。それならこちららもそれなりの対応をとることになりますよ」

「ふん」


 ビアンカが引かないとわかると白髭の老人サイモン様は鼻息を荒くしながらも、そのまま行ってしまった。


 嫌われていることは知っていたけど、まさかあの毒を私自身が用意したものだと言われるなんて思いもしなかった。

 あの時はルーヴァス様のおかげで全部吐き出せたから良かったものの、あのまま毒だと知らずにいたらどうなっていたかわからない。


 心配しろなんて言わないけど、命が関わっていたことなのにあれは酷すぎる。


「それほど私のことが嫌いなのね」

「違います。サイモン様のあの態度はアルティナ様に限ったことではありませんよ」

「イザベラ様のことも嫌っていたようだったわね」

「とにかくお部屋へ戻りましょう。あとでアルティナ様にはこの国の派閥についてお話いたしますから」


 派閥? ペルセダンはルーヴァス様を中心とした一枚岩ではないの?

「わかったわ」



 部屋に戻ったとき、肩を落としていた私のせいで、それを見たリゼに心配されてしまった。


「イザベラ様とは何でもなかったのよ」

「帰りにサイモン様とばったりお会いしてしまったのだ」

「ああ、それで……」


 リゼが納得しているところを見ると、サイモン様が私を嫌っているということは周知の事実らしい。


「とりあえず、派閥について教えてほしいわ」


「はい。ペルセダンには三大派閥がございます。まずはルーヴァス王の王族派。ここが一番最大ですね」


 ルーヴァス様は王としても、人としても素晴らしい方ですもの。


「そしてペルセダン人至上主義の派閥。サイモン様のようなカカルシア人の王妃にたいして敬うことをしない者の集まりですね。その中には古からの王妃の風習を廃止したいと思っている者たちも多いようです」


 カカルシアにも反ペルセダンの人たちがいたから、わからなくもない。


「そして、最後に公爵家を中心とした派閥です。こちらは公爵家こそ正統な王族の血筋だと訴えております」


「公爵家ってディスターさんのところなの?」

「ええ、ディスター様はそんな主張をするつもりはないようですが、王と王妃の血を引いていますから、血筋を重んじる方や私利私欲を満たしたい周りがうるさいんですよ」


「派閥どうしは仲が悪いの?」

「ええ、ですから今回の毒薬事件も犯人が簡単に決められないのはそれが理由です」


 さっき、サイモン様が()()()()()()()()()()だと言ったけど、事実はどうであれ、そういうことにしたいからだそうだ。


「それはカカルシア人の王妃を貶めたいということなのね」

「もしくは、まさか暗殺を企てるとは思っていませんでしたが、本当に毒の飴を混ぜた犯人が派閥の中にいるのかもしれません」

「もし、そうだとしたら、私は何もしていないのに……していないから余計にいらないと思われたのかもしれないけど。それでも勝手に嫌って、命を狙うなんてこわい話だわ」

「本当にそうですね。同じ国の者として申し訳なく思います」


 公爵家派だったとしたら、王妃よりルーヴァス様を狙うだろう。そうビアンカが言った。


「しかしルーヴァス様に手を出すことは難しいですから、アルティナ様を狙ってカカルシアとの間に問題を提起しようとしたとも考えられます」

「私に何かあったら、きっと次代にはカカルシアから誰も嫁いでこないものね」

「ですからカカルシア王国とつながりがある公爵家が、その伝手を使って威厳を取り戻すことに使われる可能性が考えられます」


「そうなると信じられるのは王族派だけなのかしら」

「いえ、ジョアンナ様からいただいた物に毒が入っていたとなると、ジョアンナ様が嵌められた可能性も否定はできませんので」


「だったら、私は誰を信じたらいいの」

「間違いないのは、私とリゼ、ルーヴァス王とエリオット様でしょうか。ですのでこのことはあまりアルティナ様のお耳には入れたくなかったので、あえて今まで伏せておりました」

「私のことを想ってそうしてくれていたんでしょ。ありがとうビアンカ」


 ルーヴァス様が調べているのだから、それがどの派閥だろうといずれ犯人は特定できると思う。


 だけど――ビアンカが信じられる人の中にディスターさんを入れなかったのはなぜなんだろう。


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