04 飛竜の襲撃
「ルーヴァス様?」
私は自分の肩を抱きながら、その光景から目を離せずに見入っていた。
声が聞こえるはずもなかったのに、ルーヴァス様が一瞬こちらを振り返る。
目が合った?
「まずい、アルティナ様!」
上空から急降下した飛竜が、私のいたバルコニーへと近づき衝突するギリギリのところで勢いを緩め、バルコニーを足場にして壁にとりついた。
ディスターさんが私の腕を引っ張り建物の中へと強引に避難させる。
あの場所にいたら鍵爪で切り裂かれていた。
そう思うと私は身体が震え足が動かない。この国に嫁ぐ前に、飛竜の話を聞いて、怖いもの見たさで実物を見てみたいと思ってはいたけど、こんな状況を望んでいたわけではなかった。
ディスターさんが私を引きずるようにして部屋の奥へと移動する。
そこへ飛竜が鉤爪を部屋の中へ伸ばしてきて、縦横無尽に動かした。それを避けたはずみで私はソファの脇に転びディスターさんと離れてしまう。
「アルティナ様、廊下へ!」
ディスターさんの言葉に私は首を横に振るしかできない。
私のいる場所からディスターさんのいる入り口に向かえば飛竜の目の前を通ることになるからだ。そんな危険を冒すより、ソファの陰に隠れているほうが幾分かまだ安全だと思えた。
「僕にはあなたを守る力がないんだ」
この状況にディスターさんが絶望的な声を上げる。そう言いながらも私の方へなんとか移動しようとしているようだった。
そうやっている間にも飛竜の脚が私の身体をかすめ、はみ出ていたウエディングドレスのトレーンが鉤爪に引っ掛かってしまう。
「きゃあああー」
ソファにしがみついていても、私はソファごとズルズルと飛竜に引き寄せられていく。
ディスターさんも部屋に飛び込んできて、私をどうにか助けようと、ソファを押えたり、ドレスを破こうとしている。
それでも鉤爪を外すことができずに、目前に大きく開けた飛竜の口腔が徐々に近づいていた。
「もうだめ」そう思ったとき。
私の目の前に白いものが飛び込んできた。
恐る恐る見上げてみれば、それは先ほどバルコニーから見えたルーヴァス様その人だ。
私、助かったの?
「申し訳ない。そなたのドレスは弁償する」
ルーヴァス様はいうや否や、私の破れかけていたウエディングドレスの裾を自身の爪で切り裂いた。
そして自由になった私を片手で抱きかかえディスターさんへ受け渡す。
飛竜と向かい合うため、後ろを向いたルーヴァス様のタキシードの背は、引き裂かれて血に染まっていた。
「無茶をなさいますな」
「この程度すぐに治る」
ふたりの会話を聞いていて気がついた。
もしかして私を助けるために、無理をなさったのではないかしら……。
さっきバルコニーで目が合った時には広場にいたはず。三階のここまでどうやって来たの?
私はここにきて初めて気力を振り絞り、部屋に置いてあったソファや飾り棚、ランプなどを魔法を使って、ルーヴァス様を避けつつ飛竜に向かって投げ飛ばした。
口の中に家具が当たり、飛竜が怯んで動きが止まる。その時にはすでにルーヴァス様はバルコニーへと移っており、飛竜の頭部目掛け左手を突き出していた。
眼球を掻っ切られた飛竜はバルコニーから地面へ向けて落下する。
それと同時に外から歓声が聞こえた。下で騎士団が待ち構えており、落ちてきた飛竜を捕獲したようだ。
これですべての飛竜が討伐されたらしい。
広場で起こった騒ぎは怪我人は出たものの、死者はひとりもなく終焉を迎えることができたのだった。