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10 私の監視役ですか?

「私のせいで叔母様にはご迷惑をかけてしまうんですよね。怒ってらっしゃるなら尚更ちゃんと謝りたいです」


「そのうち王都に呼び戻されて登城すると思うから、そのことは念頭には置いておくよ。それよりもイザベラ様が戻ったらアルティナ様への風当たりがますます強くなるかもしれないな。そっちの方が心配だよ」


「役立たずの私が必要ないからですよね……」


「いいや、イザベラ様自身に問題があるんだ。あの人はちょっと難しくてね。イザベラ様がいると周りがピリピリするから、役目から退いて離宮に移った時に、王宮の者たちはとても喜んでいたんだよ。それがまた戻ってくるとなるとね」


「厳しい方だったんですか?」


「侍女たちに対してはそうだったかもしれない。先に変な印象を与えるのもよくないと思うから、会う機会があったら自分の目で確かめてみてよ」


「わかりました」


 イザベラ様にお会いする時は、粗相のないように気をつけなくては。



 私との会話が途切れると。ディスターさんは優雅な仕草で紅茶を口にした。私がじっと見ていたからか、カップを持つ手が止まる。


「何か?」


「あの……ディスターさんは私の監視役なんですか」

「違うよ。なんでそう思ったの」


「ルーヴァス様が丁重に扱ってくれなかったら、もともと私は幽閉されるはずだったんですよね」


「大臣たちがそんなこと言ってたっけ。とりあえずは様子見だけど、飛竜は今のところあの四体以外は気配もないからね。アルティナ様の香りを気にして閉じ込める必要もなさそうだってさ。それに監視なら王宮中の人間がしてるし。僕は単純に好きでここにいるんだよ」


 それが、重鎮たちの総意なら、私が牢屋に入れられることはなさそうだ。心配事がひとつ減った。


 命令されているわけではないのなら、ディスターさんは私に同情して、わざわざ話し相手をしてくれているんだろう。


「私なんかを気づかってくれるなんて、ディスターさんは優しいですね」


「僕が優しい!? あとでリゼに聞いてもらってもいいけど、僕は女性には評判がいい方ではないと思うよ。それに好きでもない女性に優しくするほど暇でもないから」


「はい?」


「飛竜に襲われる前に言いかけたけど、僕はねアルティナ様の事実婚の伴侶候補でもあるんだ。だから僕のところに来る気はない?」


「はあ?」


 もう、次から次へと頭を悩ますことばかり。その話はルーヴァス様からも聞いたけど、ディスターさんは乗り気だってことなの?


「さっきから言ってますけど、私はルーヴァス様が好きなので、その話は辞退したいのですけど……」


「そう? でも気が変わったら言ってよ。僕はいつでも歓迎だからね」


 そのあと、紅茶を飲み干したディスターさんは「ごちそうさま。また来るね」と言って部屋から出て行った。




 リゼと二人きりになったので、私はソファの背もたれに、クッションを抱き締めながらもたれ掛かる。


「ふう、私の知らないところでいろんなことが計画されていたのね」


 ディスターさん、自分では卑下していたけど、私は親切にしてくれた姿しか知らない。

 円卓での会議場では重鎮たちの手前、下手に庇うこともできなかったんだろうし、やっぱり優しい人だと思うんだけど?


「ねえリゼ、ディスターさんってどんな方なの」

「ディスター様ですか」


「女性には評判が悪いようなこと言っていたじゃない? 本人がリゼに聞いてもいいって言っていたから教えてくれないかしら」


「はい。確かにあの方が女性と親しくしている姿は見たことがございません。でも、仕方がないことだと思いますよ」


「どうして?」


「ペルセダン人は強靭で逞しい殿方ほどもてますので、ご自分が女性から蔑まれているのだと思っているようです」


「他の方に比べたらディスターさんは線が細いものね」


「ですが、実はディスター様に好意を寄せている侍女もたくさんおりますので、それはディスター様の思い違いなのです。ペルセダンの女性にトラウマがあるとかで、告白しても信じてくださらないようです」


「だから、カカルシア人の私なら問題ないということなのかしら」


 それってディスターさんが、私を飛竜から助けた人なら、誰であろうと好きになったって言っていたのと同じことだと思う。


 自分こそ、やって来たのが私ではなくても、カカルシア人だったら誰でも良かったんじゃないの?


 それより私は、リゼの言葉がとても気になっていた。

 逞しい男性が好かれるってことは、ルーヴァス様はモテモテだってことだ。


 その中から私を選んでもらわなければいけない。


 抜きん出るにはいったいどうすればいいんだろう。

 

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