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01 偽者の花嫁

 ここはペルセダン王国、王宮の一室。


「奴らはこの婚姻の重要性をわかっておらんのか」


「カカルシア王国の今代は娘がひとり、しかも溺愛しておったそうじゃからな。なはから手放すつもりはなかったんじゃろう」

「それでこれか?」


「かの国は我らを欺むけば、それ相応の報復が返ってくることも思い当たらないほど愚かなのか」

「わからないと思ったんじゃないか?」


「しかし、こうも匂えば偽物だとわからんはずがない」

「そうじゃ。それでは表に出せん」


「単なる身代わりだったらまだしも。よりにもよってこんな者を送ってくるとは」


「広場にはすでに民衆が集まっているがいかがいたす」


「困ったものじゃ」 

「ああ、本当に困ったことをしてくれた」



 現在「()()」や「()()」と物のような扱いをうけ、やり玉に上がっているのは、円卓の末席にも座らせてもらえず、部屋の片隅に立たされたままのカカルシア王国王女アルティナ、すなわち私のことだ。


 本来であれば、本日はペルセダン王国の国王ルーヴァス様と、私ことカカルシア王国の王女アルティナとの婚姻式が執り行われるはずだった。


 古来よりペルセダン王の伴侶にはカカルシア王家の姫と決まっている。それにはそれ相応の理由があるからだ。


 私はペルセダン側にその身を引き渡された時点で偽物だと決めつけられた。

 それでも放り出すには何か問題があったようで、供の者だけ追い返され、私だけがとりあえず王宮まで連れてこられたのだ。


 ペルセダン王国の重鎮たちに貶められている私自身、何を言われているのかまったく身に覚えがない。


 しきたりによって隣国までわざわざやって来たと言うのに、なぜ偽物扱いされているのか、それに『匂う』とか『こんな者』など、かなり酷いことも言われている。


 自分で言うのもなんだけど、容姿は金髪翠眼で見目は麗しく母国では美姫と呼ばれていたし、ペルセダンに嫁ぐことをどれだけの令息に惜しまれたことか。


 カカルシアのお針子たちが腕によりをかけて仕上げた、精巧な銀糸の刺繍が施された純白のウエディングドレス姿はため息が出るほどの美しさ。のはず。


 反論しようにも「黙れ」と睨まれるばかりで私の話は聞いてもらえない。


 母国では姫がひとりだったこともあり愛しまれ育った。

 ペルセダン王国に嫁いだ後も『王妃としての役割』もあり、敬われるはずだから心配ないと言われていたのに。


 このような扱いを初めて受け、屈辱と惨めさが入り混じった感情の制御ができずに、瞳からは我慢している涙がいつ零れ落ちてもおかしくない状況だ。



「もうよい。今日は私だけで乗り切ろう。王妃は旅の疲れが出て臥せっていることにする」


 ひと際豪華な椅子に足を組み、今まで話に耳を傾けていた国王のルーヴァス様が初めて口を開いた。


「そうですな。陛下のご成婚に関しては国民も事情をわかっておりますし、王妃が姿を見せなくとも訝しむ者もおりますまい」


「本日はそれでよろしいかと。しかし、カカルシア王国にはすぐに本物の王女を送るよう抗議しておきますぞ。このような者、さっさと交換してしまえばよい」


 豊かな顎髭をもつ老人がその顎で私の方を指す。


「国同士の協定を破ったのだから扱いが酷いのはしかたがない。命があるだけでも有難いと思え」


 誰もがそんな顔で侮蔑の視線を向けてくる。


 私はドレスをギュッとつかみ下を向いた。瞳から我慢していた涙が零れ落ちて、煌びやかなドレスにシミをつくってしまう。


 それを複雑な思いで見つめることしかできなかった。


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