こんな婚約者様はごめんです!婚約破棄させていただきます!
腰まである金髪を一括りにまとめ、白いシルクのドレスに身を包む。キリッとした顔つき。今日でやっと終わるのだ。やっと…やっと解放される……
ローゾフィア・ルーレルト。現在18歳。
公爵家の一女として生を受けた。ローゾフィアという宝石に似た赤黒い瞳は、お母様の瞳の色をそのまま受け継いだ。
また、“ローゾフィア”は「ローズ」と「ソフィア」に分解される。「ローズ」は薔薇を指し、「ソフィア」は智慧の女神のことを指す。
その名にふさわしい女性となるように、とお父様とお母様がつけてくださった。大切な名前だ。
その大切な名前を目の前にいる婚約者、オルシア国第一王子で王太子殿下であるアデル・アルシア……アデル様は初めて会った際馬鹿にした。婚約を結んだのは8歳のとき。そのときから傲慢でダメ人間だったが、それは歳をとっても変わらずご健在だ。
元々、王族としての振る舞いや態度がなっていない婚約者は貴族の間でも問題となっていた。
しかも、親同士が決めたものとはいえ婚約を結んでいながら、平民の者に恋心を抱き邪魔なわたくしを排除するため、画策し、本日公の場で「婚約破棄」を言い渡すことを皆に告げているらしい。
相変わらずの馬鹿さだ。
今日は学園の創立記念日。そのため、学園側が盛大なパーティーを計画する。貴族が多く入学している学園とあって、パーティーも王家のパーティーに引けを取らない出来だ。ほとんどの者が今日という日に参加する。平民の者には、ドレス貸出が可能なのでそこで着飾ることができる。
ホールのど真ん中には、か弱そうに泣くリディア様と王子がいる。そしてその二人に対面するような形でわたくしは立っていた。
「皆のもの、よく集まった!今日は他でもない、ローゾフィア・ルーレルト!貴様に婚約破棄、加えて死刑を言い渡す!!」
ものすごくドヤ顔でいう殿下。ほら、馬鹿でしょう?あまりの馬鹿さに会場にいる全ての人が殿下に対し冷ややかな目線を向けている。
そしてそれとなく殿下の胸の中に、平民であるリディアが涙目で震えながら抱きしめられていた。
気持ち悪い。
「アデル様、なぜわたくしが死刑になるのか教えてくださいませんか?」
何もしてないのに死刑になるなんて、王太子殿下だとしてもご法度だ。それを公の場で堂々と宣言するのだ。
これも周りの大人が甘々に育てた結果だ。逆にどれだけ甘々に育てれば、こんなに頭がおかしな殿下が誕生するのか知りたいものだ。
「貴様がリディアをいじめたからだ!」
この殿下と今まで婚約者として10年間近く一緒にいたのを誰か褒めて欲しい。頭を抱えたくなるのを押さえつつ、哀れみの目で殿下を見返す。
「具体的にどのようないじめの内容か教えてくださいませんか?アデル様と違い、頭ができておりませんので……」
申し訳なさそうに頭を下げて言うと、アデル様はふんっと鼻で荒い息を吐き、腕を組んでわたくしに言い放った。
「お前はリディアに嫉妬し、悪口を彼女に言い、クラスから孤立させた!
そうだな、リディア」
「はい!ローゾフィア様のせいで私は!クラスでも一人ぼっちで……寂しくて…!」
「あぁ…なんて可哀想なんだリディア!!」
二人とも頭がお花畑で何よりですわ。
アデル様がとても…ものすごく王族としてなっていない発言をするのは予測済みだったので、お父様と仲の良いこの国の宰相様にお願いをし、この場に忍んでいただいた。
わたくしの家は王家に絶対忠誠を誓っている。だから今までの無礼な行いも含め確実に殿下は捕まり幽閉されるのだが、このまま何も反論できずに帰るなんてできない。
「婚約破棄は謹んでお受けしましょう。ですが、リディア様に行ったいじめはわたくしがやったものだと証明できる何かがあるのですよね?」
うっ、と苦虫を噛み潰したような顔をするアデル様。殿下とリディア様が画策したものであるため、わたくしがやった証拠なんて一つもありはしない。
だが、何かしら証拠を作り、いじめをしたという事実を作るという考えはできないのだろうか。
それならわたくしも少しはうろたえ、確実にあなた方を排除するために動けたのに。残念でならない。
「まさかないのですか?王太子殿下といえど、罪もない人に対し死刑にするという発言をするなど、ご法度ですわよ」
「うるさい!うるさいうるさい!」
真っ赤な顔で怒り出すアデル様。王家の象徴といっても過言ではない銀髪にスカイブルーの瞳。陛下と正妃様の美しいお顔立ちもそのまま引き継いでいるので、顔だけは良い。
そんな美しい顔立ちが歪み、真っ赤になるのは今までの鬱憤を晴らせているようでとても気分が良い。
これまでの『復讐劇』というべきか…。
こうなったらアデル様の恥ずかしい過去話でも、皆さんの前でするべきかしら?
ふふっと心の中で笑いながら、目の前にいる二人を見つめる。
「また、わたくしとアデル様の婚約は陛下がお決めになられたものです。他者に恋心を抱くのは結構。ですが陛下の意に反し、またわたくしを陥れようとするのならば話は別ですわ」
「陥れる…?嫉妬してリディアをいじめたからだろう!」
この婚約者はどれだけわたくしを怒らせれば気が済むのでしょう。
「なぜ、わたくしがリディア様に嫉妬しなければならないのですか?先ほども言った通り、親同士が結んだ婚約です。恋愛感情どころか友情すら皆無ですわ」
「この俺に惚れない女などいない!」
顔だけの男が、調子に乗るのも大概にしてほしいものですわね。
「アデル様に媚びを売るのは権力と顔立ちが目的なだけであって、その2つを抜き取れば何の魅力もありませんわ。こんな方を好きになるのは、よっぽどの物好きか同等レベルの頭の方と言えましょう」
遠回しにリディア様に対し「アデル様のような権力と顔立ちしかない方を好きになるなんて、何か考えがあるのか馬鹿のどちらかね」と告げているのである。
先程の言い回しは誰でもわかる物だが、果たしてリディア様は分かるのだろうか?
リディア様を見ると、般若のような顔でわたくしを見ている。どうやら通じたようだ。
「アデル、もういいですわ!ローゾフィア様を早く死刑にしてください!」
「リディア様、確かに学園では身分の差はありません。しかし、それはあくまでも学園の中での話ですわ。死刑という言葉をそう易々と口にしては、あなたも罪に問われてしまいますわよ?」
口角を上げて、嘲笑うような形でリディア様を見る。目を白黒させてわたくしを見るリディア様は実に滑稽だった。それはアデル様も例外ではなく、とても面白い。
十分に堪能させてもらいましたわ。これ以上は学園側にも生徒側にも迷惑がかかってしまう。
このパーティーをするために、多くの人の労力とお金がかかっているのだ。それを無駄にするわけにはいかない。
「宰相様、アデル様をお願いしますわ」
「わかりました」
いつの間にか、背後に立っている宰相様にお辞儀をする。深緑の長い髪を結び、眼鏡をかけている姿はいつ見ても知的に見える。実際、若くして宰相になったこの方は、ひどく有能で陛下からも一目置かれている。
一見冷たそうにも見えるが、とても優しい兄のような存在だ。
「アデル殿下、陛下からの伝言でございます。『アデル、お前は次期王としての覚悟、自覚がない。数々の行いを反省するまで、幽閉とする。また、王位継承権を剥奪。王太子位は第二王子であるユランに継承するものとする』とのことです。」
淡々と読む宰相様に、アデル様は事の重大さがわかったのか青白い顔になる。
当然の判断だろう。殿下に甘々だった陛下が、よくこの決断まで持っていくことができたものだ。きっと周りの影響が強かったに違いない。
「また、リディア嬢に対しても公爵令嬢に対し行った無礼な言動と禁術である『魅了』の力を使ったとして、逮捕状が出ております。」
「違うわ!私そんなの知らない!嘘よ!」
「残念ながら事実でございます」
リディア様は華奢で可愛らしく、わたくしが持っていない「守ってあげたくなるような」そんなおっとりとした雰囲気を纏っている。
そんな容姿から殿下や他の殿方は惹かれているのかと思っていたが、どうやら魅了の力を使ったかららしい。
リディア様とアデル様は会場に隠れていた国の第一部隊によって捕らえられた。リディア様は「嫌よ!嫌!」と泣き叫びながら連行されていく。
アデル様は放心とした様子で歩いていた。わたくしはアデル様に付き添っている兵を呼び止めた。
「少しアデル様と話をさせて頂戴」
宰相様にも許可をもらい、わたくしはアデル様を見た。これで少しは更生されると良いのだけど……
「なんだ?嘲笑いにでもきたか」
「あら、アデル様はそんな風にわたくしを見ておいででしたの?」
ふふっと笑みを零すが、アデル様の顔はピクリとも動かない。
「わたくし、アデル様と初めてお会いした時から大っ嫌いでしたの。」
初めて会った時、彼から発せられた言葉は「こいつが俺の婚約者?この豚が?」という、最低最悪な言葉だったのだ。しかも、「ローゾフィア?変な名前だな、お前の親は趣味が悪い」と言い放ったのだ。あの言葉を聞いた日からというもの、どんな策を使い婚約破棄してやろうか、と毎晩考えたものだ。
「とはいえ…陛下の命令は絶対。だからこのような状況で婚約破棄になりましたが、あなたと婚約破棄できてとても幸せですわ。」
紛れもない本心をここぞとばかり言い放つ。すっかり注目の的となったわたくし達を会場に出席している方々は目を見開きながら、事の成り行きを見守っている。
「ですが、今回のことがきっかけで少しは変われることを願っております。せめて、わたくしを驚かせるほど素敵な殿方になれることを祈っておりますわ」
そう冗談交じりに言いながらお辞儀をすると、ふはっと吹き出し笑いだすアデル様。
なにかおかしなことを言っただろうか…?睨むような形でみると、悪い悪いといいながら涙を拭いた。
「ローゾフィアが驚くようなやつになれるようになるまで、一体どれだけ時間がかかるんだろうな。
でも、ありがとな。」
アデル様が…お礼を……?
目を見開き硬直する。アデル様の口から初めてお礼の言葉を聞いた。それだけではない、今の言葉や行動が前と驚くほど変わっている。
「そうか…ありがとうか……。初めて言ったな」
初めて!?今の今までこの方は「ありがとう」と口にしたことがなかったのか、それこそ驚きものである。だが、少しは変われたらしい。すっきりとした顔をなさっている。
「お待ちしておりますわ、アデル様」
「あぁ、今まで迷惑かけたな。」
そういって、アデル様は兵に連れられて去った。初めてアデル様に対し、好印象が持てた気がする。
周りの環境さえ良ければ、アデル様はきっと素敵な殿方になっていたのだろう。殿下がこうなったのは、甘い蜜ばかりを吸わせていた大人にも非はある。
「皆さま、パーティーのお邪魔となってしまい申し訳ありませんでした。今から盛大にお楽しみくださいませ。」
ドレスを持ち上げ頭を下げると、今まで静かだった会場は賑やかに騒ぎ出した。
先程の出来事に対し、皆思ったことを口々に話し始める。わたくしとアデル様との短い戦いは終わったのだ。
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創立記念日で起こったことは、瞬く間に貴族の多くの人の間に広まった。
このことがきっかけで、アデル様と正式に婚約破棄をし、わたくしは晴れて自由の身になった。
これまでの王族になるためのレッスンは全てやめて、今は自分がしたいことをしている。
「お嬢様、アデル様よりお手紙が届いております。」
度々届くアデル様の手紙。中には綺麗な字で、『今、勉学に励んでいる。勉学というものは、とても奥が深いのだな』と書かれていた。
日々ご成長なされて何よりだ。正妃様から「息子を変えてくれてありがとう」と直々にお会いくださり言われた。
たまに「婚約者にならない?」と誘われるが、拒否している。もうアデル様の婚約者になる気はない。
「ふふっ、何はともあれ何事も無事終わり良かったですね、お嬢様」
「えぇ、そうね。」
窓の外を見ると、どこまで続く青い空が視界に映った。望んだ婚約破棄も、アデル様の更生もできて、今までの苦労が成果を生んでよかった。
アデル様宛の手紙にこう綴る。
ふふっ、さすがに教えませんわよ?これはアデル様とわたくしの秘密です。
end…
初投稿となります。
お読みになってくださりありがとうございます。
今後小説を書いていくか未定ですが、よろしくお願いします!
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誤字報告、ありがとうございます。
またブックマーク登録してくださった方、ストーリー&文章評価をつけてくださった方に対しても、とても感謝しています。
未熟者ですが、よろしくお願いします!




