幕開きと幕開け
-エピローグ-
〈盲目した民へ〉
それにはじめて気付いた時、もう遅いというがわかった。
自分で何かを判断してる時もそこには必ず自分の意思は動かされていなかった。
一体いつからこんな風になってしまったのだろ。
けれど、我々は忘れてはならない。
どんな逆境に置かれても、諦めず戦い抜いた英霊の姿がそこにはあったということを。
そして、我々はその熱き意思と逞しい血筋を受け継いでいることを。
〈親友へ〉
あの時、僕は君に出会えていたのだろうか。
そもそも、君はほんとにいたのだろうか。
でも、君とした約束は覚えてる。
この先何が起ころうとも。どんなことがあろうとも。
僕はずっと君のことを忘れない。
ありがとう。ハヤト。
日高 大和
1章
雲ひとつない快晴で吹き抜ける風に暑さを感じる6月。
14日ともなると、いよいよ本格的な夏の訪れを予期させる。
その日、クラスは大きな期待と少しの不安に包まれていた。
担任の紹介とともにドアが開き、一人の少年が入ってきた。
「福岡から転校してきた志賀隼人です。よろしく」
堂々と自分の名を名乗った後に一礼をする。隼人は一言でいうなら、なんとも堂々とした印象を受ける少年だった。特別恵まれた体躯だというわけではないが、なにか一本通った芯の強さが感じられる雰囲気を醸し出していた。
隼人は空いている席に案内されると、その日1日を静かに過ごした。空き時間になると周りの人間から物珍しさに色んな質問をされていたが、隼人は当たり障りのない解答を繰り返すだけだった。そんな光景をみて隼人がなんとなく周囲に壁のようなものを作っているのはなんとなくわかった。だからこそ、その日の放課後に隼人から声をかけられた時、大和は少し驚いた。
「大和くんだよね?今少しいいかな?」
「ん、ああ。どうしたの?」
いきなり下の名前で呼ばれ少し大和は動揺した。
「ありがとう。実はずっと君と話がしたかったんだ。君のことが気になっていてね。」
照れもせず、何事もないかのように大和を真っ直ぐ見つめ隼人は続ける。
「きみはどうして、そんなに自分のことを『考えてない』んだい?」
大和は言葉の意味がわからなかった。
動揺する大和を見据えながら隼人は続ける。
「どうして、そんな他人の言う事ばかり聞き、自分を疎かにしようとするんだい?」
大和が質問の意図を読めず、固まっていた。
「ごめん!今のは冗談だ。少しからかっただけだ。気にしないで」
白い歯を見せながら大和は笑う。
「改めてよろしく、志賀隼人だ。隼人って呼んでくれ」
そう言うと隼人は右手を伸ばし、大和に握手を求めてきた。
「こちらこそ、日高大和です」
不意に差し出された右手に動揺しながらも大和は応えた。
西日が放課後の教室を赤く染める。
夏の訪れを感じさせる気温が肌に伝わってきた。
あの時のことは鮮明に覚えてるよ。
はっきり言って今後仲良くなれるとは思わなかった。訳がわからなくて、気味が悪いやつだというのが率直な印象だったかな。だから、まさかハヤトとこんな関係になるなんて思いもしなかったな。
でもさ、不思議と嫌な印象は受けなかったよ。
ただ、思うののはもう少し初対面の人との接し方を覚えた方がいいぞ。
君と出会ってから、驚きの毎日だったよ。
でも、その驚きが僕の目を覚まさせてくれたんだ。