4 嫁入り修行
庭園から部屋に戻ると、コーデリア様がこう切り出された。
「お父様ともお話したのですが、婚約破棄して我が家に乗り換えたというのは外聞が悪いのでしょう。
ですから、元婚約者の家が危機に陥ったから、貴女を騒動に巻き込むのは忍びないと向こうから婚約を破棄したことに致します。
もちろん、元婚約者の家とは違約金を支払う際、その旨の了承を得てます。
その後、悲しむ貴女を慰めたフィリップとの間に愛が芽生えて婚約するという話にしましょう。
ですから、フィリップとの婚約の発表は半年後とします」
「そんなウソをつかなくてはいけないんでしょうか?」
「ええ、我が伯爵家の対面もそうですが、婚約破棄されたとなると元婚約者の家の体面もつぶれるコトになります。もちろん、貴女の家も守らないといけませんからね」
確かに、ウソをついた方が良いこともあるんだわ。
あの子のうちの体面は守りたいし……
「ご配慮ありがとうございます」
と、頭を下げた。
「本当は一刻も早く婚約したいのだけど、君の評判を守りたいからね」
「まあ、この子ったら、本当にイレーヌさんにメロメロなのね」
フィリップ様がこういうこと言うから、コーデリア様に想い人などと誤解されるんだわと、
呆れてフィリップ様をながめると、何を勘違いしたのかウィンクされた。
チャラ男め!
「これから、伯爵家に入るに当たって当家に相応しい伴侶となるために、マナーや当家のしきたり等を学ぶため、週1回、当家に通って頂きます。もちろん婚約を発表するまでは、目立たないよう配慮します。それから、家庭教師を我が家から子爵家に派遣しますのでしっかり励んで下さい。
伯爵家には、外国のお客様も来られるから外国語をせめて2カ国語は覚えて欲しいわね。あと、教養として美術と楽器もなにかマスターしてちょうだいね」
同じ貴族だけど、子爵家と伯爵家では、礼儀作法一つとっても求められるレベルが違うのだ。
礼儀作法にダンスに歴史、地理、国際情勢、文学、美術等々。
当たり前だけど、高い地位にある人はそれ相当の努力を強いられるのだ。
これから忙しくなりそうだわ。
お父様は、フィリップ様をじっと見ると手を差し出した。
「フィリップ殿、娘をよろしく頼みます」
「もちろんです! 身命に替えてもイレーヌ嬢をお守りします」
二人はガッチリ握手した。
別れの挨拶をして伯爵家を後にする。
帰りの馬車の中で、
「いろいろ心配していたが、フィリップ殿がお前のことを大事に思ってくれているのが分かって安心したよ」と、父がほっとした様子で呟いた。
いやいや、アレは社交辞令ですから。お父様、欺されちゃダメ!
「打倒! チャラ男!!」
拳を握りしめると、横でお父様が呆れた目をしていた。