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第4話 初めての外出

初日にもかかわらずブックマークや評価をして下さった方、ありがとうございます。

これを励みにこれから投稿していきたいと思います。


【ステイタス】の作りを少しだけ見やすくしましたが、ほんとにちょっといじっただけなのでお気になさらず。


つたないところは多々あると思いますが、温かい目で見守ってくれると幸いです。

 【ステイタス】の存在を確認してから一年の月日が経ち、カレンは五歳になっていた。

カレンは目標を掲げた通り、この一年のほとんどすべてをカレンは魔法に費やした。

その中でカレンは数種類の魔法を会得する事に成功したのだが。


「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……」


 自室のベッドの上で座禅を組むような格好をしているカレンの体が僅かに宙に浮かんでいる。これは、書庫にあった古めかしい書物に書いてあった〈ウィング〉という魔法だ。

 その書物にはかなり興味深い魔法が記されていたので、是非ともすべてを習得したいところなのだが、優先順位は圧倒的に〈ウィング〉だろう。


 カレンは空中浮遊という文字を見つけた瞬間。

 飛びつくようにこの魔法の鍛錬を開始したのも仕方のないことだ。

 だって人類の夢じゃん? 空飛ぶのって。

 しかし、魔法の鍛錬はそう簡単に上手くはいかず……。


「これ、めっちゃしんどい。これだけ練習してるのに十センチ浮くのがやっとだよ」


 〈ヴィング〉の練習を開始して約半年、他の魔法は形になってきたにも関わらずこれだけは、カレンの理想とは程遠い仕上がりだった。


「〈ファイア〉と〈アイス〉は普通に使えるようになったんだけど……」


 カレンはそう言って、両手からそれぞれ小さな火の玉とギザギザと尖ったテニスボールくらいの氷の塊を作り出す。

 そして腕を前に突き出してこの二つを部屋の中をぐるぐると浮遊させて遊ぶ。

 初めはここまで上手く扱えなかったのだが、この〈ウィング〉の鍛錬をしているうちに――魔法の扱い方? 的な物が身についてきたため、できるようになったのだ。


「やっぱり魔力量が足りないのかな? やっぱりもっとレベルアップしないと〈ウィング〉は使えないのか……ステイタス」


 火と氷の玉を握り潰して消滅させると、カレンはステイタスと呟く。

 この作業は慣れたもので、集中しなくても声に出したり思い浮かべるだけで表示可能になった。


===========


【ステイタス】


「カレンスフィーナ・フォン・ヴィノーラント」

「種族」人族

「レベル」7

 体力:57/57

 筋力:22/22

 敏捷:35/35

 魔力: 2/89


職業(クラス)

『転生者Lv10』

『氷の魔術師Lv1』

『火炎の魔術師Lv1』

重力魔導師(グラビティマスター)Lv4』


技能(スキル)

『言語理解』『速読Lv7』『熱耐性Lv4』『氷結耐性Lv4』

『上級魔力操作Lv9』


「???」

『神位Lv0』


===========


 魔法の練習をした成果か、カレンの固体レベルは7にまで上昇している。

 どうやら固体レベルは普通に生きているだけでもじわじわと上昇するようで、例えば剣の鍛錬やカレン のように魔法の鍛錬、もっと簡単なものならランニングをするだけでも上昇するらしい。

 しかし、これらはかなり効率の悪いレベルの上げ方だ。

 

 レベルよりも変化が大きかったのは職業の項目だろう。

 〈ファイア〉と〈アイス〉を会得した時に職業の欄に『魔術師』が追加されたのはわかるが、〈ヴィング〉を練習しているうちに『重力魔導師(グラビティマスター)』という職が出現し、あっという間にLv4にまで到達してしまった。

 ついでに『上級魔力操作Lv9』というスキルが増えたのもその影響だ。

 初めは『下級魔力操作Lv1』からスタートし、下級Lv10の次に『中級魔力操作Lv1』が発現した。その順序で今はもう上級だ。

 職業や技能のレベルの最大値はLv10で、しかも上級なのでかなり上位の数値だということが分かる。


 〈ウィング〉はかなり古い本に書いていた魔法だったので詳しいことは分からないが、この『重力魔導師(グラビティマスター)』の数値からしてかなりの難易度の魔法だということが伺える。


「でもLv4でこのザマじゃ、ハズレ魔法っぽいんだよねぇ。ま、それを判断するのは魔力量を増加させてからでも遅くないけどさ」


 職業(クラス)レベルというのは、技能レベルと違ってレベルを上昇させるのにかなりの時間を要するらしい。その時間は人それぞれだが、凡人ならば数字を1上げるのに5年から10年ほどかかくこともあるようだ。

 なので『グラビティーマスターLv4』という職業が、例外的にレベル上昇が簡単なものでない限りかなりの成果だと言えるのだが。

習得した〈ウィング〉の魔法は10センチ浮遊するのがやっとの代物だった。


 しかし〈ウィング〉の魔法があの程度しか使えない原因は、魔法のエネルギー源となる体内の魔力量が足りていないからだとカレンは考えている。


 だが、問題はその魔力量の増加方法なのだ。

 魔法の鍛錬をしていれば、魔力量はじわじわと増えはする。しかし効率が良くない。

 効率の良いレベルアップの方法と言えば、こういう世界観ではお馴染みのあの方法なのだが、残念ながらカレンは屋敷から一歩も外に出たことが無い。

 両親が言うには、七歳になれば外出が許させるようだが、カレンはそれまで待つなんてまっぴらごめんだ。


「モンスター討伐&街の探索いっちゃいますか!」


 カレンはベットから勢いよく飛び降りると、

声高々に宣言したのだった。


―――


 時刻は三時を過ぎたころだろう。

 活気溢れるハーリンツの街の通りをうきうきとスキップする少女の姿があった。


(屋敷を抜け出すの結構簡単だったなぁ。こんな事もあろうと〈サイレント〉の魔法を覚えと置いて正解だったよ)


〈サイレント〉の魔法はその名の通り、

 自身が発する音をすべてシャットアウトする魔法である。

カレンはその魔法を使ってメイドや見張りや門番の目をかいくぐって街へ出てきたのだ。


大通りをすいすいと歩いていくと、カレンのお目当ての建物が見えてきた。

カレンは何も考え無しに屋敷を飛び出して来た訳ではない。

ちゃんとレベルアップのためのモンスター討伐に向かうための手順は調べてきてあるのだ。


 巨大な丸太を組んで作られた建造物。

 重厚な鉄の扉が、カレンの眼前に壁のように立ち塞がっている。


「着いた―!」


 ここは冒険者ギルド、ハーリンツ支部だ。

 そう! この世界にもアニメやラノベのような冒険者という職業が存在していたのだ。

 カレンはこれを知ってから、自分の進路の一つに冒険者を加えている。

 なんていったって、冒険者といえば自由の象徴のような職業ではないか。

 自由を追い求めるカレンが憧れないわけがないだろう。


 カレンは冒険者が扉を開けるのを見計らってするりと隙間に滑り込んだ。

 中は吹き抜けの広い空間で、半分くらいが酒場になっている。もう半分は掲示板や受付が並んでいた。


(うぉぉぉ! 冒険者かっけぇ! 鎧だ! 剣だ! 魔法の杖だ!)


 夢にまで見たファンタジー世界の定番の品々が目の前に広がっている。

 カレンは興奮を隠せずにその場でぴょンぴょンと跳ねていた。


(うぉぉぉ!? でも男! むさ苦しい筋肉質な男がいっぱい!)


 当たり前だが、冒険者ギルドの中には筋肉をむき出しにした男の冒険者達が昼間から酒を煽ってい る。男に耐性が無いカレンにとっては、少々酷な環境だろう。


 しかし、ここで引き返すカレンではない。

 父や兄に苦しめられ、最期は友人のストーカーに刺されて死んだが、カレンは生まれ変わったニューカレンなのだ。

 このくらいの困難では、自由を追い求めるカレンを止められるものか。


「ひぃ! ひゃああ!」


 カレンは冒険者の隙間を奇声を上げながら進んでいく。

 やっとの思いで抜けた先には、カレンの頭が少し出るくらいの高さの受付カウンターがあった。

 数個あるカウンターのひとつに近寄ると、カレンは背伸びして受付に腰掛けている美人のお姉さんに声をかけた。


「すいません。こちらで冒険者の登録を行いたいのですが……」

「……?」


 受付のお姉さんが、辺りときょろきょろと見渡す。

そして「あれ?」と呟いて、首を傾げた。


「お姉さんこっち、こっちです」

「――!?」


 カレンが両手を挙げて声をかけると、お姉さんが驚いたように視線を下に向けた。

 垂れ目気味でウェーブのかかった髪が特徴的な美人受付のお姉さんと目が合い。カレンがドギマギしながらも微笑んで口を開いた。


「お姉さん、ここで冒険者の登録をしたいんですけれど」

「冒険者の登録ですか? 申し訳ありません、ご本人様で無いと登録はできないんです。登録を希望しているのはお父様ですか? それともお兄様?」

「いえ、私が本人です」

「…………え? お嬢さんが?」

「はい」


 お姉さんは迷い無く頷いたカレンを、困惑の色の混ざった表情で見つめる。

 どうやら、カレンのような幼女が冒険者に登録に来たのが信じられないようだ。

 だがここまでは予想通り、カレンは冒険者についてのことは一通り調べてきてある。

 書庫にたまたまあった冒険者の規約には、カレンが登録を断られるような内容は一切書いていなかった。

 だからカレンは、何も問題ないでしょ? という顔をして続けた。


「さっそくモンスター討伐に出たいと思っているので、早く登録を済ませたいんですけど」

「……え―っと。ご両親の許可は貰っていますか?」

「両親の許可がいるとは規約に書いていなかったはずですが?」

「それはそうですけど……えっと、お嬢さん、一応お聞きしますが年齢は?」

「五歳です」

「やっぱり見た目相応……エルフとかでは無いんですね」

「エルフ!? 今エルフと言いました!? まさかエルフがこの世界に存在するんですか!? エルフ耳! あのエルフ耳を一度で良いからふにふにしてみたい! お姉さん! エルフはどこに行けば会えるんですか!?」


 予想もしていなかった収穫に、カレンは興奮を抑えきれず、

 カウンターに飛び乗ってお姉さんに詰め寄る。


「え、えっと……エルフ族は西の大陸にある大森林に住んでいると……ではなくて! カウンターから降りてください!」

「はっ! つい私としたことが、申し訳ありません」


(つい理性のたがが外れかけてしまった。あぶないあぶない、それにしても可能性はあると思っていたけど、この世界にはエルフが存在するんだ。いつか西の大陸にも行って見ないとね)


 この世界の世界地図には巨大な大陸が東西に分かれて存在していた。

 ハーリンツがあるのは東の大陸なので、エルフが住む西の大陸は反対側だ。


「えっとですね。とにかくです、お嬢さんを冒険者ギルドに所属させることはできません」

「年齢ですか?」

「……それもあります」

「あっちの受付にいる可愛らしい女の子は、私と同じ年くらいだと思いますけど」


 カレンはふと視界の端に映った数個隣のカウンターで、受付係りと話している女の子を指差した。

簡素な革鎧を身につけた灰色の髪の女の子で、頭には三角形の耳が二つちょこんと乗っていて、おしりの 辺りからは灰色の毛並みの尻尾が生えていた。


「――!?」

「ああ、あの方は事情があるので仕方ないんです……あの、聞いていますか?」

「あっ、はい!」


 予期せぬケモ耳のフレンズさんの登場で硬直してしまっていたカレンが素早くお姉さんの方を振り返る。

 後であの子に声をかけよう。そう決心すると、カレンはお姉さんに質問した。


「事情というのは?」

「あの冒険者さん――シャロンさんというのですが家庭があまり裕福でなくて、獣人族ということで腕も立つので仕方なくあの年齢から冒険者をしているんですよ」

「シャロンちゃん、いい名前だ……あの、お姉さん…実私も家が裕福ではなくて、家で病床の可愛い妹が今夜のご飯を待っているんです……」


 カレンは何かを思いついたような顔をすると、

 目を伏せて、ありったけの演技力を投入してお姉さんを泣き落としにかかった。


「そんな仕立ての良い服を着た貧乏人がいるわけが無いでしょう? それにお嬢さん、かなり品の良さがにじみ出ていますよ? 良い所の育ちでしょう? 家出でもしたんですか?」

「――!?」


 カレンは自分の服装を確認する。

 白のワンピースを着ているが、それほど高級品のようには見えない。

 しかし、周りの冒険者や一般人の服と比べると、仕立ての良い作りをしているのが分かった。


(持っているもので一番質素な服を選んだのに、街に出ると目立っちゃうのか……誤算だったぜ)


「いや、家出とかじゃないですよ? そんな疑惑の眼差しでこっちを見ないで下さい。美人が台無しですよ?」

「やだ美人だなんて……」


(あれ? このお姉さんちょろいな)


「美人で優しいお姉さんにお願いがあるんですけど、私を冒険者にしてくれませんか?」

「それはできません」


 お姉さんはすぐにお仕事スマイルに戻ると、可愛らしく首を傾げてそう言った。


(くそっだめか!)


「はぁ、わかりました。それじゃあまた来ますね……」

「はい、またのおこしを……ん? また?」


 冒険者の登録はできなかったが、生まれ変わったカレンはこんな事ではめげたりしない。

 こうなったら、冒険者に登録せずに一人でモンスター退治に出かけてやる。

 そう決心したカレンは、胸の前で拳を握った。


「あの、ちょっとお嬢さん! 待ってください!」

「?」


 さっきのお姉さんの叫び声が背後から聞こえたので、

 カレンは反射的に後ろを振り返った。


「そのリボンの家紋! まさかヴィノーラント家の!?」

「――!?」


ワンピースの腰部分に巻かれているリボンを見ると、そこには百合の花をモチーフにした紋章が小さく刺繍されていた。

紛れも無く、ヴィノーラント家の家紋である。


カレンはお姉さんと刹那の間、視線を交わすとニコッと笑って猛ダッシュで冒険者ギルドを出て行った。 


そんなカレンの姿を、悪意のこもった目つきで眺めていた数人の男達の存在を、この時のカレンは知る由も無かった。

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