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第3話 ステイタスと謎

病気もせずにすくすくと成長したカレンは現在4才。

もう普通に歩くのも会話するのもお手の物だ。


外国風の人間はやはり日本人よりも発育が良いのか、この年齢の前世のカレンよりも少し大人びているように見える。

髪と瞳は母親譲りの白っぽい金髪と碧眼で、全体的には母親似な容姿をしているだろう。

でも目の形だけは、父親譲りなのか切れ目で母親のように可愛らしくくりくりとはしていない。というよりもなんだか最近は、前世のカレンの顔つきに似てきているような気がするのは気のせいだろうか。


そんなこと有り得ないよね。でも、なんていうか……どことなく新しい父と母と前世の私を足して二で割ったような雰囲気があるんだよな……ま、そんな事考えてても仕方ないか。それよりも今は、



カレンはこの世界に馴染むために、もっとこの世界の事を知ろうと思い、

そのために、とにかく本を読み漁ることにした。

それが一番効率がいい方法だと思ったからだ。

幸いにも、この城にはちょっとした図書館くらいの書庫が存在したので、

読む本には困らなかったが、

最大の問題はカレンがこの世界の文字を読めなかったことだった。


そこで、カレンは3才になった頃から、いつも元気なメイドさんハンナに頼んで文字を教わっている。両親は家庭教師を付けようと提案してくれたのだが、堅苦しい教師に勉強を教えてもらうよりハンナに教わった方が楽しいに決まっているので断った。


(ハンナのおかげで文字も読めるようになったし、最近はずっとここに籠ってるなぁ)


巨大な書庫に備えられたソファに腰かけながら、

カレンは手に持った本をぺらぺらと捲っていく。


カレンが初めに知ろうと思ったのは自分に関してのことだった。

これは、資料を探したりするまでもなく、勉強の合間にハンナに教えてもらって大体のことはわかった。


カレンの父ヴィノーラント家当主ライル・フォン・ヴィノーラントは

【スヴァンフ王国】の国王から伯爵という爵位を授かった貴族であり、

カレンはその父の一人娘だ。


そしてこの城、ベルフラット邸の主で、

ここら一帯の地域を治める領主でもあるらしい。

そんな人物の娘に生まれてしまったのだから、

苦労もたくさんあるだろうと身構えていたのだが、

今のところ大した事は起きていない。

あるとすればこの屋敷から出してもらえない事だが、

この年齢では仕方ないとカレンも諦めている。


そして、カレンが一番重きを置いて調べているはこの世界についてのことだ。

これが思いのほか楽しくて、ついつい昼食を抜いてまで書庫に籠って本を読み漁ってしまう。怒られるので気を付けてはいるが。

どうやら勉強とは違ってこの世界について知ることは使命感というよりも好奇心の方が強かったようだ。


そんなカレンが今読んでいるのは『この世界の成り立ち』という本である。


(ふむふむ。よくある神の奇跡によってこの世界が作られたっていう設定かな?)


分厚い羊皮紙の本で、周りくどく色々書いていたが内容は要するに、一人の神の使いと七人の邪神が戦った壮絶なエネルギーによって時空に亀裂ができた。そして見事邪神を打ち滅ぼしたが、戦いによって死んでしまった神の使いを――つまりは部下を失った神が、その寂しさを埋めるために時空の亀裂にこの世界を造り、人を繁栄させたらしい。


(さすがにこれは創作だろうな。きっと作者にとっては黒歴史に違いない)


カレンはその本をパタンと閉じて、テーブルに置いた。

これなら昨日読んだ『世界不思議発見』のほうが役に立っていただろう。

世界にいくつも存在する神殿に眠る秘宝の話は、

カレンの冒険心をくすぐりまくったものだ。


そういう面白い本には事欠かないのだが、

最近は肝心の世界地図などが載っているものがなかなか見つからなくて困っている。

見つけたのはどれもたった二つの大陸と小さな島々が描かれた地図でかなり大雑把なもので、その端に少しだけ見切れている大陸について全く触れられていないのだ。


「んー。どうしたもんかな? 別に困らないけど、気になるもんなぁ」


カレンが住んでいる【スヴァンフ王国】は世界でも四番目に大きな大国で、左側の大陸の東に位置する。そしてここベルフラット邸は【ハーリンツ】という街にあり、この街は王国の西に位置している。

正直、この情報と周辺諸国の事さえ知りさえすれば当分は何も困ることは無いだろう。


「これはおいおい調べていくことにしようかな。それよりも魔法について先に知った方が良さそうだ」


カレンはまだ読みかけだった『魔法とは?』という本を手に取り、あらかじめしおりを挟んでいたページを開いた。


「だいたい分かったけどおさらいしておこうか」


まず魔法というのは、体内に秘められた魔力を操ることで扱う事ができる。

これはカレンが思っていた通りで、前の世界のファンタジーな設定に良くあるものだった。

そして、魔法にはかなりの系統や種類が存在するらしい。

その数は確認されているもので、系統が50、魔法の数が1000以上と書かれている。

得意な系統によって名乗る職も違ってくるようだ。


系統というは、簡単に説明すると、

火炎魔法や風魔法、黒魔術や白魔術といったものだ。

どうやらこの世界では、魔法、魔術、魔導は同一のものとして認識されているらしい。

名乗るときは、魔術師や魔導師など人によって違うようだが、得意な魔法によっておおきく変わってくる。


例えば、

火炎魔法が最も得意な者は『火炎魔術師』

黒魔術が最も得意な者は『黒魔導師』

他にも、『呪術師』『死霊魔術師』


といったふうに様々な名称が存在している。

これらをある程度極めた者達は、二つ名をつけられることがあるそうだ。

カレンが読んだ魔術師の少年が出てくる物語には『閃光の魔術師』という二つ名が出てきたが、これはいたってシンプルなもののようで、歴史上には、『煉獄魔人』という中二チックな二つ名を持った魔導師も実在したようだ。

二つ名には憧れるが、それはちょっと遠慮したい。


「魔法のことは理解できたんだけど、問題はこっちだな」


そして魔法を極める上でもっとも重要なのが、『レベル』というシステムらしいが、これは次の本『己の中に秘められし技能』に書かれている【ステイタス】の項目に書いていた。


「レベルってあのレベルだよね?」


ゲームによくあるレベルは、数値が上がるほどパロメーターが上昇するようなシステムになっているが、この異世界ではそれが現実に適用されているようだ。


・固体レベル

職業(クラス)レベル

技能(スキル)レベル


この三つでレベルは構成されているようで、

下に例となる見本の図がわかりやすく記載されていた。


===========


【ステイタス】


「固体名」ミホン


「種族」人族


「固体レベル」10


職業(クラス)

『水の魔術師Lv3』『氷の魔術師Lv1』『白魔導師Lv1『

『剣士Lv2』『斧戦士 Lv1』 


技能(スキル)

『熱耐性Lv1』『下級自動回復Lv2』


==========


(ふむ、だいたい私の知ってる【ステイタス】と似たようなものかな、この職業のレベルを上昇させると、新しい技とか魔法が使えるようになる感じだよね、たぶん。HPとかMPは存在しないみたいだけど、リアルな世界じゃ仕方ないか)


カレンはまじまじと本に記されている【ステイタス】を眺める。

気になったのは固体レベルという欄だ。


「職業レベルとリンクしているわけでもないし、一体レベルが上がるとどんな得点があるんだ? あ、下に書いてあるじゃん。なになに……『固体レベル』の数値により、体力、筋力、敏捷、魔力などの数値が変動する――なるほど『固体レベル』が上昇すれば身体能力も上がるってことか」


なんとなくで納得していると図の下に、気になる文字を発見した。

『なお【深層ステイタス】の閲覧条件は未だ確認中である』


「【深層ステイタス】? なんだそれ、名前的に【ステイタス】の上位互換なんだろうけど……。まぁ今はスルーしても大丈夫だろう。それにしてもこの本、肝心の【ステイタス】の閲覧方法が載ってないってどういうことよ!」


カレンはペラペラとページをめくり、目次を上から下まで何往復もするが目当ての文字は見つからなかった。

イライラと貧乏ゆすりをしたのち、カレンが思いついたのは、

とりあえず、しらみつぶしに色々試してみるという単純な方法だった。

カレンは椅子から立ち上がり、腕を前に出して魔術師っぽいポーズを取る。


「ステイタス……出でよ! ステイタス!! あれ? 何も起こらない。 はぁ! ステイタス! 我が秘められし力を示せ! ステイタス!」

「お嬢様……何をしてらっしゃるんですか?」

「はっ!?」


書庫の入口に立っていたのは、一人のメイドだった。

カレンは勢いよく天に翳していた手をひっこめて椅子に座り直す。


(やばい。恥ずかしい! いやー! そんな優しい眼差しで私を見ないで、いっそ殺してください!)


「お茶をお持ちしました」

「は、はひ。ありがとうございます」


テーブルに紅茶を置いたメイドは黒髪とお淑やかそうな雰囲気が特徴のサラだ。

彼女は厨房で魔法を使って薪に火をつけていたメイドでもある。


「あら、お嬢様。もうこんな難しい本まで読んているんですね。すごいです」

「そ、そうですか?」

「はい!」


(さっきの、スルーされるとそれはそれでメンタルがやられるな)


カレンはサラとなるべく視線を合わせないように紅茶を一口飲むと、

あることを思いついた。


「あの、サラさん。少し質問いいですか?」

「ええ、なんなりと。お嬢様」


(今、なんなりとって言った? じゃあ何でも質問していいよね?)


「胸のサイズは?」

「秘密です」


サラは微笑みながら人差し指を唇に当てる。

その際、少し前かがみになり主張の激しい双丘が揺れた。サラの胸は何かにつけてこうやってカレンを誘惑してくるのだ。


(チッ、駄目だったか。サラさんはガードが堅そうだな。っと、思わず本能に従ってしまった。ちゃんと質問しなければ」


カレンは一度咳払いをして、


「あの、ここ書いてある【ステイタス】のことなんですけど、これがよくわからなくって」

「ああ、本当ですね。この本には書いていないようです。【ステイタス】の見かたはお嬢様がもう少し大人になられたら、旦那様が教えてくれると思いまずが……」

「知っているなら教えてください」

「……そうですか、旦那様の父親っぽいお仕事を取り上げてしまうのは心苦しいですが、そこまで言うのなら仕方が無いですね」

「感謝します!」


「それはでですね。まずは手をグーにして下さい。そして両手を頬にくっつけて」

「こうですか?」

「はいそうです。お嬢様、すごく可愛らしいですよ」

「え?」


 サラは顔を背けて、くすくすと笑っていた。


「さて、冗談はこのくらいにしておいて」

「ファ!?」


(くそぅ、騙された。というかサラさんってこんなキャラだっけ? お淑やかで真面目な人じゃなかったの?)


「は、はい」

「目を閉じて、頭の中でステイタス、と唱えるたけで、頭の中に自分のスキルが浮かび上がりますよ」


(意外と簡単だな、では早速……ステイタス)


============


【ステイタス】


「カレンスフィーナ・フォン・ヴィノーラント」 

「種族」人族

「レベル」1

 体力:9/9

 筋力:4/4

 敏捷:12/12

 魔力:15/15


職業(クラス)

『転生者Lv10』


技能(スキル)

『言語理解』『速読Lv1』


「???」

『神位Lv0』


============


(転生者Lv10!? なんでこんなにレベルが高いの!? ……いや、でも驚くほどでも無いか。転生がそれほどのものっていうことだよね。たしか職業レベルとか技能レベルって最高値が10だったよね。うむ、またわからない事が増えたぞ)


(固体レベルはやっぱり1かぁ、ちょっとお決まりのチート能力とか期待してたんだけどな。上げ方はまだわかんないけど、こつこつ数字を増やしていこう……おや?)


(《言語理解》《速読Lv1》っていうのがスキルのことだよね? いつの間にこんなもの発現したんだろ? ん? なにこれ、文字化けしてるところがあるぞ。《神位Lv0》ってなんのことだ?)


この疑問を解消するため、カレンは優しげな微笑を張り付かせて

カレンの横に佇んでいたサラに質問した。


「サラさん、この技能の下にある『神―――――――……」


カレンはその質問を言い終える前に、ぷつりと電源が落ちたようにソファに倒れ意識を失った。



―――


『カレンスフィーナ……神の寵愛を受けし少女よ。あなたは神位を高めねばなりません。さすればこの世界は救われることでしょう。さあ、目覚めなさい。……次に会うときはきっと――』


カレンの意識が戻ったのは、三日後の事だった。


「カレン! わたくしの事がわかる? わかるのなら返事をしてちょうだい」

「……お母さま?」

「そうよ、ああ、よかった。意識ははっきりしているみたいね。貴方! カレンが目を覚ましましたよ!」

「それは本当か!? よかった……本当に良かった」


 枕もとで父ライルと母ルシールが涙を浮かべて喜んでいる。

 ここは3才の誕生日にもらった自分の部屋だ。その中央に置かれた天蓋付きの大きなベッドにカレンは横になっていた。

 いったい何が起きているのか、カレンはそのことよりも目覚める直前に夢に出てきたあの台詞が頭から離れなかった。


(神位……)


「どうかしたの、カレン。もしかしてどこか痛いところでもあるんですか?」

「そ、そうなのか? カレン、何でもお父さんに言ってみなさい」

「お父さま、お母さま、大丈夫です。カレンはどこも痛くなんてありません。心配をおかけしてすいませんでした」


 カレンは半身を起き上がらせてペコりと頭を下げる。

 その様子に二人はほっと胸を撫でおろした。


「それで、私はなぜここで眠っているのですか?」

「覚えていないのか?」

「はい……」

「……三日前、お前は書庫でいきなり倒れたんだよ。それでやっと今、目を覚ましたんだ」

「そうですか」


 ライルの説明で、やっと三日目の記憶が戻ってきた。

 たしかカレンは、サラにステイタスの事を教わっていたんだ。そして、ステイタスにあったあの《神位》という言葉を発しようとした瞬間から意識が途切れた。


「あの――」


カレンは咄嗟に《神位》について二人に質問しようとしたが、咄嗟に口をつぐんだ。


(危ない危ない。きっとこれを口にしたから意識を失ったんだよね。でも困ったな、これじゃあ誰にも質問できないじゃないか。自力で調べるしかないのかな)


「どうかしたの? カレン」

「いいえ、何でもありませんお母さま。お二人ともずっと私についていてくれたのですね。目の下にくまができていますよ? 私は大丈夫ですから、今日は自室でお休みになってください」

「バレてしまったか。カレンは本当にいい子に育ってくれたな、父さんは嬉しいぞ」

「ええ、本当に。じゃあ貴方、カレンのお言葉に甘えて今日はもう休みましょうか」


ライルがカレンの頭を優しく撫で、ルシールは軽くハグをしてから頬にキスをした。


(ライルは男なのに触れられても全然嫌じゃない。父親だからかな? でも前の父なら絶対蕁麻疹とか出てるわ、ウェ。やっぱこの人の人格だからだろうな。ああ、お母さまは可愛すぎる。このまま一緒に寝てしまいたい。でも我慢するのよカレン、二人には可愛い妹を作るという試練があるのだから)


「おやすみなさい」


静かになった部屋で、

カレンはベッドで横になりながら虚空を見つめて考えていた。

まだこの世界について知らないことが多すぎる。

何にも縛られず自由に生きていくためには、知識が必要だ。

そして一人で生きていける力。


「優先順位はこんな感じかな」


1 魔法の習得

2 レベルアップ

3 ステイタスにあった謎の『神位』という存在

4 できれば剣術などんお習得


他にも確かめたいことはたくさんあるけど、今はこれが妥当だろう。

カレンはふかふかの枕に頬を埋める。


「よし、明日から頑張るぞ」


カレンはそう言って気合を入れ直し、自由な未来への妄想を膨らませながら

また眠りの世界へ落ちていった。

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