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手掛かりをさがせ!



 荒れた道を戻り、騎士剣を拾った辺りを目指して歩き始めた。

 モンスターの出現もほとんど無く、安全に進めている。


「申し遅れたな。私はロースマリナ騎士団の部隊長をしているシャルム・クロークだ。見ての通り女だが、男に負ける事はほぼ無いな」


「部隊長、ってことは小隊長とかより位が上なのか」


「小隊を集めたのが部隊。それの長をしているということだ」


 こう見えてシャルムさんはなかなかに位が高いらしい。

 まあ、由梨菜には劣るというだけでしっかりとした金属鎧をつけているしそれで普通に動けている辺り実力者なのはわかるが。


「それで、どうして騎士剣とかみたいなものを探していたんだ? 何かあるんだろ?」


「実はここのところ、奇怪な事件が多発しているのだ。その調査に向かわせた小隊が三日経っても帰還しない。恐らくその事件にその小隊も巻き込まれたのだろうと思い、手がかりを探していたのだ」


「奇怪な事?」


「ああ。人が、消えるんだ。まるで神隠しにあったようにな」


 それからシャルムはいくつかの事例を交えて話してくれた。


 森寄りの畑に出掛けた農家の者が忽然と消えた。

 森に狩りのために入った冒険者が帰ってこない。死ぬ間際に必ずと言っていいほど使う緊急連絡アイテムの使用形跡もなし。

 そして、今回のよう騎士が帰還しない。


 頻繁に起こっている訳ではなく、皆が少しその存在を忘れた頃に再び起こるらしい。

 今回の消えた騎士も、見回りに出たまま何の音沙汰も痕跡も残さずだったからようやく気がついたらしい。



 その辺りの事情を聞いているうちに、騎士剣を拾った辺りにたどり着いた。

 具体的な場所は覚えていないが、確かこの辺のはずだ。


「この辺りで拾ったはずです」


「ふむ、思ったより奥地だな……」


 シャルムは辺りを見回し、何かしらの痕跡が残っていないかを探し始めた。

 今までの時は、神隠しだと気がつくまで時間がかかったせいで、雨などによって痕跡が残っていても見つけようがなかったらしい。

 だが今回は偶然にも晴れ続き。

 何かしらの手がかりだけでも得たい、と意気込んでいる。


 小一時間もしただろうか。

 手がかりを俺たち三人も探して見るが、特に見当たらない。


 どうしようかと思っていると、シャルムが口を開いた。


「ふむ、不可解な点がいくつかある」


「と、言いますと?」


「小枝とかが戦った時特有の粗い折れ方をしている。つまり、その消えた騎士は戦ったはずなのだ。そして、モンスターというのは大抵倒した相手はその場で食らうか引きずって(ねぐら)に持っていくはずなのだが」


 そこで改めて辺りを見る。

 折れた断面の見える小枝が確かにそこかしこにあった。


「その場で食らったわりには、ここは綺麗すぎる。そして引きずった跡も見当たらない。不自然なほどに地面が綺麗だ」


 例えばローウルフに襲われたならその場で食われ、血痕かその残骸。最低でも鎧は残るはず。

 かといって、レッドホットベアの様な大きなモンスターが持っていった鎧の引きずり跡も足跡もない。


「手掛かりが無いですね」


「そうなんだ。……仕方ない、戻ってもう一度モンスターの資料を見直す。恐らくこの小枝の折れ方からしてモンスターが大きいのは確定のはずだ」


 気がつけば、辺りは随分と暗くなってきていた。

 夕日が木の隙間から差し込んできている。


 その日は、宿に一旦戻ることになった。



◇ ◇ ◇



 ラミュータに戻り、少し歩く。

 大きめの建物、恐らく騎士団の宿屋だろう。

 その前でシャルムさんと話をする。


「今日は騎士団の宿屋に泊まってくれ。こちらからお願いしたことだ、もちろん無料で泊めることを約束しよう」


「いいのか? こっちは三人だぞ」


「問題ない。三部屋用意もできるし、三人部屋も可能だ。しっかりと広い部屋もな」


 ぱぱっと調べたところ、イベント等で泊まる宿屋もセーブポイントとして機能するようだ。

 ならば、心配事はない。


「わかった、お邪魔させてもらうよ。部屋割りはどうする? やっぱり三人わけるか?」


「……三人部屋で。今後の方針の話し合いとかもしにくいですし」


 由梨菜がそう答えた。

 いくらゲーム内とはいえ、大丈夫なのだろうか。まあ、本人が良いと言っているから大丈夫なんだろうけど。


「じゃあ、三人部屋でお願いします。あとできたらモンスター図鑑みたいなのあれば貸していただけませんか? 俺たちも探しますよ」


「それはありがたい。モンスターも種類が多いからな、一人で探すのは辛いと思っていたところなんだ。後で部屋に運ばせてもらう」



 煉瓦造りの建物は、外観から想像するより広く感じた。

 建物の中を五分ほど歩き、シャルムがある一室の前で止まる。


「ここが泊まってもらう部屋だ。結構広めで、もちろんベッドは三つあるぞ」


 そう言われ、促されるままドアを開ける。

 廊下の壁は煉瓦造りだったのに、一転内装は木造で統一されていた。

 ランプやベッドの控え目な装飾が洋風な一方で畳敷きの場所もある。

 やっぱりAWLは変なところが和洋折衷だ。



 シャルムは内装を簡単に説明して部屋に戻っていった。

 それからほんの数分後には長槍騎士の一人が何冊かモンスター図鑑と夕飯を持ってきてくれた。


「イカ焼き、たこ焼きに焼きそば。さすがお祭りの街ですね、ここまで徹底されているんですか」


「デザートになぜか綿菓子。なんか、これが普通に見えてきたから恐ろしい」


 内装の洋風部分は燭台、和風部分は提灯だしな。

 馴れてきたものの、違和感がすごい。


 運ばれた夕飯はサクッと食べ終わった。

 腹持ちが良いので助かる。


 食後のお休みがてら今日手に入れたアイテムを整理していく。

 結局、森から戻るときに止められたせいでクエスト完了に使えなかったアイテムを必要数ずつ分けていき、残量を確認した。

 クエストを達成するのは、恐らくこの"消えた騎士団員をさがせ!"を終わらせてからになるだろう。


 整理が一段落ついたところで、届けられている本を一冊手に取る。

 椅子座ろうとしたところで、なんとなく和風テイストのエリアに目が引き寄せられた。

 畳の匂いに引かれるようにして、隅に積まれていた座布団を敷きつつ胡座(あぐら)をかく。


「お、おお……!」


「どうしました?」


「いやさ、畳とか座布団の感覚が思ったよりリアルで驚いたんだ。触り心地とか完璧だぞ」


 由梨菜も本を一冊手に取り、同じように座布団を敷いて座った。

 畳を撫でて少し表情が変わる。


「これは……スゴいですね。畳の匂いとかもしっかりします」


 その畳に二人で腰を下ろして読み始める。

 椅子とは違い背もたれが無いのが少し辛かったが、あまり気にならなかった。


「私も読みます~! 大きなモンスターですよね?」


「そうだね。とりあえず、変な能力を持っているモンスターがいないか調べてくれるかな?」


「わかりましたっ!」


 ユリナはユリナで椅子に座って作業を始めた。

 始めたはいいのだが、なぜかこちらをチラチラと見てくる。


「お二人は仲が良いんですね~」


「ん?」


「お互いもたれてても気にしていないじゃないですか」


 ユリナに言われてはたと気がつく。

 気がつけば、俺と由梨菜は座りながら背中同士でお互いもたれている体勢になっていた。


「まあ、仲はいいほうだぞ。さ、しゃべるより調べ事調べ事」


「は~い」


 それ以降は、誰かがページを捲る音だけが部屋に響いた。


 ダークコークスベアは、火に弱い全身真っ黒の大熊。獲物は引きずって持っていく。かなり多食らい。

 ターコイズソーンは、その名のとおりターコイズ色の大きな植物系モンスター。全身に蔦が生えており、その蔦で這って移動する。ダークコークスベアと同じで多食らい。

 ミュータントモール。目のくりっとした可愛いモグラで、けっして敵対しない。ただ、そのモグラ穴を農家は非常に嫌う。


 殆どがイベントモンスターなのだろう、見たことのない名前も多い。

 だが、消えるという事に当てはまりそうなモンスターは見当たらなかった。


 一時間もしたところだろうか、ついにユリナが音をあげた。


「もーわかんないです。どうやったら人を消せるんでしょうか」


「うーん、なかなか有益な情報が見つからないよな。ハクアは?」


「私も同じですね。思ったより種類は多そうなのに、それらしいのは見ませんでした」


 手掛かりだけでも掴めたら良かったのだが。

 これでは、シャルムさんが見つけていることを願うしかない。

 ユリナが言葉を続ける。


「それにしても、あの地面変でしたよね」


「そうだな。戦闘したのに血痕も足跡もないなんてな」


「いえ、そうじゃなくてですね。あそこだけスゴく地面綺麗だったじゃないですか」


「だな。血痕もなくて」


「ひび割れも無かったですよね」


 ひび割れ?

 確かにラミュータの森は足場が悪く、固い。

 ところどころがひび割れていて、石が転がっている。


「あそこらへんの道だけ全然ひび割れがなかったじゃないですか。まるで(なら)したみたいで、変だったなと思ってたんですよ~」


 均したみたいに綺麗。

 均すということは表面を擦るということだ。


「……それだ!」


「なにかわかったんですか?」


 モンスター図鑑を見直す。

 ペラペラと捲っていき、浅葱色のモンスターのページでとまる。


 ──全身に蔦が生えており、その蔦で這って移動する。


 その文面をみた由梨菜とユリナは、同時に「あっ」と声を出して固まった。





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