表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOでリアル恋愛を模索してみる。  作者: 棗 御月
最終章 やがて二人は
64/68

始めは小さな宝石箱と



 それからの十日間は、とても早く過ぎた。前の二週間が長すぎただけに、余計に早く感じたのかもしれない。

 あの屋上での話し合いからは、表面上はいつも通りになった。電車では話すし、お昼も一緒に取る。部活ではお互いに寒い道場で切磋琢磨し、夜は気が向くことがあればメッセージのやり取りをする。ある日は教室の誰かがふざけた話を、ある日は部員の誰かの話を、ある日は気になった動画やゲームの話をする日々。

 もっとも、湊は内心ではいつも不安があったし、由梨菜もなんとか平静を保っているという状況だ。湊はよくテンションが空回りしたり緊張で手が震えていたし、由梨菜は先週までとは全く違う理由で反射的に視線をそらしてしまう。そういう時はお互いに顔を真っ赤にしているし、不自然な角度で声だけを交わし合う光景は色々なところで見られた。


 前日に学校が終業式を終えて、その翌日。湊は、夕方四時の三十分前から駅前の像の近くに立っていた。すっかり冷えた外気から逃れるように厚めのコートとネックウォーマーをしている。黒革のような見た目の手袋はお気に入りの一つだ。

 手持無沙汰になっって、ふと周囲を見回す。辺りには、自分と同じくらいか少し年上の男女がめいめいに時間をつぶしていた。誰もがきっと、今日のために準備をしていたのだろう。

 果たして今、自分はおかしな格好をしていないだろうか。今日立ててきたプランは大丈夫だろうか。もしかしたら、見劣りしてしまうかもしれない。そんな、言いようのない不安を抱えながら。

 また一人、また一人と自分のペアを見つけては去っていく。そういう時間がいくら続いただろうか。


「お、遅くなりました」


 意識的に無心になって前を見ていたら、左の方から声をかけられた。その声の主が誰なのかは言わなくてもわかるだろう。

 赤基調のマフラーと、所々にファーのついたベージュの大きなコート、冬にしてはかなり短めなスカートとストッキング、黒いブーツ。髪は普段とは違って、緩く下の方でまとめて一房のお下げにして、左の肩口から垂らしている。いつも見ている姿より大人っぽい装いだ。

 いつもより明らかにめかしこんでいる。そのことが何よりうれしかった。


「早かったね。まだ待ち合わせの十分前だよ」


「……そういう先輩は私より早く来ているじゃないですか」


 こんな簡単なやり取りだけで、思っていたより緊張していない自分に気が付いた。下ろしていたいた鞄を拾い上げて肩に担ぐ。


「それじゃ、行こうか」


「行きましょう」


 そんな感じで、周りの誰かと同じように、また二人が街の中へ繰り出していった。



◇ ◇ ◇



 まず向かった先は、何駅か行った先のおお洒落商店街だ。都市部の中心よりで、雑具店から総合アクセ店、カフェなんかもある。俺たちの高校からは少し遠いからかあまり同級生に会わず、それでいて飽きない事からデートスポットの一つになっていたりする。

 由梨菜にはデートなどと言っておきながら、その日の夜は何も考えず勢いで言ったことに悶えて布団の上でゴロゴロしていたりした。拓真にアドバイスを貰ったりして、ウインドウショッピングをしているだけでも楽しいから、とここを選んだ。

 その中でも、今向かっているのはブティック。あまりこの方面に行かないから見てみたい、という由梨菜の要望を聞いた感じだ。元が東京の店らしく、これから来る流行品も今の流行品も取り扱っているらしい。

 商店街のメインストリートを歩くこと約三分。今時風の装飾と手書きのポップに彩られたブティックにたどり着いた。


「ここです。ここで気になっていたセーターが売っているんです」


 そう言って入っていった先は、いかにも男子禁制のような雰囲気だった。別にそういう規則というわけではないのだが、店員の女性方からの視線を敏感に感じる。だが、となりにいる由梨菜の姿を認めると、その視線の束は急速に離れていく。

 なるほど、こういう男子禁制的な雰囲気の所は女性と入ると大丈夫なのか。

 あいかわらず背筋のあたりを這いまわるアウェー感からプレッシャーを受けながら、店内を歩いていく。いろいろな人に合いそうなものから、センスや人を選びそうなものまでたくさんある。そんな服の樹海を、由梨菜はサクサクと歩いて行った。

 そして、特に誘導もなかったはずなのに、おそらく女子的な嗅覚か何かでセーター売り場にたどり着く。


「ここです、この辺で何か探そうかなと」


「了解ー。えっと、俺は何をしてたらいいかな?」


 この店は基本的に女子向けである。つまり、普段行っている洋服店のように、誰かの買い物を待つ間に自分の物を見て時間を潰すということができないのだ。なんせ、右を見ても左を見ても天井のポップを見てもモデルは女性なのだから。

 その、男子として切実な救難信号に、由梨菜は。


「できれば、その……一緒に選んでいただけると、嬉しいです」


 マフラーに鼻までを埋めて、そんなことを言うのだ。

 ……当然のように、お互いに顔を真っ赤にして俯くことになったのだが。たっぷり十数秒沈黙して、お互いにどうしたものかと頭の中がヒートアップする。

 結局、近くを店員さんが通りかかるまでそんな微妙な感じになっていた。


「こ、こっちのほう見てきますね!」


「おっけー、それじゃ少し後に!」


 そんな感じで、少し離れて良さそうなものを探し始めた。

 うーむ、由梨菜にあうセーターか。こうしてみてみると、一口にセーターと言っても色々あるんだな。

 首元から指の先まで、いわゆる萌え袖とやらという形態で覆うモフモフなもの。そこまでがっちり装備ではないものの、編み込み模様の入った王道なもの。模様があまりなくてシンプル、かつ割と薄手なもの。そしてその中で色から細かい模様やらが分かれているのだ。うーむ、これは難易度が高い。

 由梨菜は黒髪ロングだし、白系がいいだろうか。いや、それだとシンプルすぎるからカーキ色とかにしてワンポイントがあるものにしてもいいかもしれない。あのコートと併用するならモコモコな姿を見てみたいような気もするし……。それとも、黒系のセーターは少ないからそこで差別化を図ってもらうのもいいかも。すらっとして見えそうだし。ああでも……。

 いかん、思考が混迷してきた。


「あー、どうしたらいいんだ……」


 ふと、普段よく見る由梨菜の姿を思い浮かべる。学校指定のブレザーの下に着ているセーターは、薄くて紺色系。であれば、何となくそれに似たものは避けたい。よって濃い色の者はナシ。というわけで、直感で白の使いやすそうなもの、ベージュのお洒落そうなやつ、そして白地ではあるものの編み模様の一部に黒のワンポイントがついたものを選んだ。

 その三着を持って由梨菜の方に歩いていくと、ちょうど向こうも二着を持ってこっちに来るところだった。手には、シンプルであるものの自然にお洒落さを感じるものを選んでいる。


「ほとんど直感で選んできたんだけど、この辺がいいかなって」


「ありがとうございます! 早速合わせてみましょうか」


 近くの衣装立てに選んできたものを掛けて、一着ずつ鏡の前で合わせていく。その時に、それぞれ小さくポーズをしているのが可愛かった。実際に試着しているわけじゃないからそこまで大きくキメたポーズは出来ないものの、会うものを見極めるには重要なのだろう。

 色々と回していきながら、最終的に二つに絞ったようだ。二つで悩んでいる間に残りを戻してくると、まだ悩んでいる。


「……これ、どっちの方がいいと思います?」


 そう言って見せてきたのは、由梨菜が持ってきたものが一着と、俺が選んだ物が一着。薄いカーキのお洒落なものが一着、編み模様にワンポイントのものが残っている。さて、どっちにしようか。

 由梨菜が順番に体の前にあてて見せてくる。


「このカーキはどんな感じですか?」


「そうだな……なんか大人な感じ? 締まって見えるよ」


 そして、次はワンポイントの方を。


「こっちの方はどうです?」


「んー、ふわっとしてて良いと思う。今日着てきてたコートにも合うと思うよ」


 シンプルかつ、持っている服と合わせやすそうな感じだ。個人的には、カーキの方よりも首元と袖の丈が長くて可愛らしいと思います。こういう言い方はあまりよくないかもだけど、由梨菜の顔は美人というよりは可愛い系なのだ。大人風もいいけど、若干の背伸びしている感がある……気がする。

 そんな感じの思いが顔と視線に出ていたのか、由梨菜はクスっと笑ってカーキの方を戻しに行った。


「そっちで良かったの?」


「先輩がこっちの方が良さそうにしたいたのでこっちにしました。それとも、違いましたか?」


「違わないけどさ」


 なんか、見透かされていたのが少しだけ悔しい。籠に黙ってセーターを入れる。

 由梨菜は辺りを見回して、ざっと見まわした。


「えっと、少し見ていきたいものがあるんで、少し待っていてもらってもいいですか?」


「はいよ。適当に時間潰してるわ」


 そういうと、由梨菜は洋服店の中でも特に男子が入りにくいゾーン辺りに歩いて行った。なるほど、あそこは確かに一緒に回るのは難しいに違いない。俺も居心地の悪さに数分もしないうちに逃げ出してしまうだろう。

 というわけで、適当に小物コーナーをぶらついていると、店員さんが話しかけてきた。恐らく大学生の、身のこなしからお洒落な感じの人だ。


「可愛らしい彼女さんですね。高校生ですか?」


「あ、はい高校生です。あと、彼女じゃないです」


 まだ、と付けたいけど、昨夜散々悩まされた思考がぶり返してきそうだからやめた。今でも気を抜くと不安で手が震えるのだ。

 そして、その返答に驚いたのか、店員さんは目をわずかに見開いていた。


「では、ここでクリスマスプレゼントでも買っていかれますか?」


 クリスマスプレゼント。そういえば、行くルートや時間にばかり気が行って完全に失念していた。

 ぼんやりと見ていた目にしっかりと意識を入れて、コーナー全体を見回す。そうすると、一つの髪留めが目に留まった。


「お、目が高いですね。それは有名な小物店から取り寄せたやつなんですよ~」


 青と紫の、蝶を模した髪留め。本音を言えば、由梨菜がつけると派手な気もする。けど、それ以上に似合う気もするのだ。もちろん学校に着けてくることはできない。それでも、何となくこれを着けてほしいと思った。


「これ、お願いします」


「わかりました~。包装もしておきますね!」


 一応店内を見渡してみると、由梨菜はまだ遠くにいる。ばれていないか、喜んでもらえるのか、それ以前にちゃんと渡せるのか。さらに増えた不安に、少しだけの期待を込めて、綺麗にラッピングされた小箱を受け取る。


 デートはまだ、始まったばかり。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ