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VRMMOでリアル恋愛を模索してみる。  作者: 棗 御月
最終章 やがて二人は
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策略と笑顔



 由梨菜が加奈に相談してから、実に二週間後。二人の関係は、まったく変わらずどこか寒々しい風が吹いていた。

 ぎこちなさが不安を呼び、不安が疑念や緊張を生み、そしてさらに不安になる。朝はお互いにまともに目を合わせるのも難しくなり、気が付けば別れて登校するようになっていた。AWLが一度終わったことでお互いのスマホのアプリはめっきり相手のメッセージの通知を送ってこなくなり、二週間前以上前で途切れたログを見返すばかりだ。

 ここ数日は、恒例だったはずの昼食さえ一緒に取らなくなった。

 お互いがお互いに、何もないはずなのに緊張した無言の空間に耐えられなくなっていたのだ。


「はあ~」


 そんな状況でも学校や世間は待ってはくれない。今年も終わりが近づき、テレビでは早くも正月の話が始まっている。そう、今机に額をつけて盛大にため息を漏らした湊もその例外じゃない。テストは一週間後に迫り、先生たちも追い込みに入っている。タイミングよくAWLも終わったというのに、このままでは勉強に集中できそうにない。

 実際、湊は直前の授業で当てられた問題に答えられなかった。普段通りの勉強をしていれば、最低限の回答は出せておかしくない問題だったのに。しどろもどろになって隣の席の人に助けてもらうなんていつ以来だろうか。

 この二週間、なんとか勇気を出して話したところ、由梨菜は毎日加奈ちゃんとお昼を食べているらしい。加奈ちゃんいわく、その姿が目撃されたせいか、一年生の間では「ついに姫城さんがあの先輩と別れた」と話題になっているんだとか。ついにってなんだ、そもそも別れるどころか付き合えてすらいないんだよ……。

 そう思考が迷走すればするほど、ため息は深く重くなっていく。

 そんな風に項垂れていると、スマホがメッセージの着信を告げた。


「加奈ちゃん……?」


 今、まさに由梨菜と話したり一緒にご飯を食べているであろう人だ。どうしたんだろうか、とノロノロとした手つきでメッセージを開く。そこには、こんなことが書かれていた。


『今日のお昼、屋上にこれませんか? あ、拓真先輩は食堂に置いて一人で来ていただけると嬉しいんですが』


 加奈ちゃんからの呼び出しだった。それこそ由梨菜と食べなくなって以来固定の用事と言える用事は無いから行くことに問題はない。その内容は何時もの通り拓真関係のことだろう。お弁当でも作ってきたのだろうか、食堂に拓真を固定したうえで俺からアドバイスをもらう気のはずだ。

 すぐ近くにいた拓真に今日の昼に用事がないか聞くと、問題ないとのこと。食堂に固定はどうにかできそうだ。問題は、お昼の前の授業が体育だという事。


『直前が体育だから少し遅れるけど大丈夫?』


『むしろ都合がいいです!』


 その返答に少しだけ首を捻りながら、昼休みが始まってから五分後という約束を取り付けた。つぎの授業の準備をしていると、拓真に今度遊びに行こうと誘われた。

 どうやら俺の気分転換のつもりのようだ。これにはありがたく乗っておくとしよう。



◇ ◇ ◇



 お昼開始から二分が過ぎたころ。屋上では、二人の女子がベンチに陣取って座っていた。

 方や激戦の牛丼のどんぶりを、方や手作りらしい二人前の弁当を持っている。そして、そのうち弁当を持っている方の少女は絶賛困惑中だった。


「えっと、加奈……? 今日は手作り弁当が食べたいって言ってたよね?」


「ん、言ったね。でも私牛丼も食べたかったんだ~。どうよ、あの激しすぎる争奪戦を制したんだよ?」


「そういう事じゃなくてね……」


 なぜ購買の牛丼が人気なのかと言えば、そのコスパだろう。学校内の購買というだけあってお手軽な値段設定な上に、いわゆる普通の牛丼の二倍近い量。それも有名な牛丼の全国チェーン店とのコラボ商品となれば、学生たちに買わない手はない。毎日食に餓えた運動部が我先に狙うため、競争率も完売までの時間も並外れた商品である。

 そんなのをゲットできたのは素直にすごいと思うけど、でも前日の夕方にわざわざ「由梨菜の手作りお昼が食べたい」と電話をしてきた翌日にそんな頑張らなくてもいいのに。というか、私の分含めて二人前あるんだけどどうしたらいいんだろう。

 普段はこんなことしないのにどうしたのかな、と思っていると、加奈はなんともいやらしいニヤニヤした表情で私を見ていた。


「どうしたの?」


「いや~、そろそろ来るかなって。とか言ってたら、来た来た!」


 確かに屋上に続く階段を上ってくる足音が聞こえる。どうやら加奈はその足音の主を知っているようだ。

 ギィ、と音を立てて扉が開く。そして、そこから出てきたのは。


「来たぞ、加奈ちゃん。ちゃんと拓真は食堂に……って、え?」


「せ、先輩……?」


 私を見て驚いた表情をしているのは、湊先輩だった。まさかここにいるとは思っていなかったらしい。きっと私も似たような表情をしているだろう。

 この現状のすべてを知っているはずの加奈に視線を向けると、まるで悪戯が大成功した子供の様に笑っていた。そして、私と先輩で二人分の視線を受けてひとしきり笑った後、口を開く。


「そろそろ二人ともウジウジするのやめてぶつかってみてよ。二人が沈んでると、やりにくくてしょうがないもん」


 そう言い残すと、加奈は先輩の隣をすり抜けてさっさと降りて行ってしまった。そして、その扉が閉まった直後。

 ガチャリ。


 ……え?


「ちょっ、加奈ちゃん!?」


 鍵を閉められたことに思わず叫んだ先輩の声も聞かず、足音は遠ざかっていく。どうやら本当に二人っきりで締めだされたらしい。

 手元で着信メッセージに震えるスマホを立ち上げると、そこには『昼休みが終わる五分前には助けに来るからね~』と何とも軽いメッセージが。先輩もスマホを見ながら震えているところからするに、同じようなメッセージが届いているに違いない。

 そして、同時に加奈が弁当を作らせた理由もわかった。なぜなら、先輩の手には何もお昼ご飯が握られていなかったから。

 だから、私と先輩の間でらしくない、とは思いつつ気合と勇気を出して声をかけるのだった。


「あ、あの……とりあえず、弁当も余っているんで……一緒に食べませんか?」


 先輩が困ったように笑う。

 その自然な表情は、随分と久しぶりに見たような気がして、どこか嬉しくなった。




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