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VRMMOでリアル恋愛を模索してみる。  作者: 棗 御月
最終章 やがて二人は
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この気持ちが知りたくて



 四時間目が終わった後の一年生の廊下を、由梨菜と加奈は弁当片手に歩いていた。今日は、由梨菜は普段と違って屋上に向けて歩いている。

 と、いうのも。


「で、本当に湊先輩には断りいれたの?」


「三時間目が終わってから連絡したよ。ちゃんと了解って返事も来てる」


 そう、今日由梨菜は珍しく湊とは離れて昼を食べる。というのも、朝の時点で由梨菜が加奈に「話があるからお昼付き合ってほしい」と言ったからだ。加奈はすぐに了承したのだが、内心では少し驚いていたりする。半年近く続けてきた習慣を、わざわざ変えてまで相談したいと言ってきたことが今まで無かったからだ。

 歩くこと数分、二人はいつもの食堂ではなく、屋上にいた。

 屋上で弁当というのは高校生のロマンの一つではあるのだが、春は花粉、夏は日差しと虫、秋も残暑と虫、冬は寒い、と実は数回経験したら人がいなくなる場所である。なので、ここを利用するのは、今の二人のようなあまり人に聞かせたくない話のある人くらいだ。

 設置してあるベンチに座って、簡単に弁当を広げたところで加奈から話を切り出す。


「で、どうしたの?」


「えっと、加奈には私と先輩がゲームを一緒にやっているって話はしていたよね。それで、昨日ようやくそのゲームをクリアしたんだけど……」


「シミュレーションゲームだっけ。かなり苦戦してるって話だったけど、クリアできたんだ?」


 加奈はあまりゲームには詳しくない。だから、AWLが恋愛シミュレーションとRPGを組み合わせたようなゲームであること、それを湊としていること、そして行き詰まっていることだけを話してあった。しかし、だからこそ加奈は、クリアしたのに新しい深刻そうな問題ができていることに内心驚いている。

 なので、とりあえず続きを促してみる。


「それで、恋愛シミュレーションゲームだから当然ヒロインがいるんだけど。ゲームクリアの時に、先輩が告白しているのを見ちゃったんだ」


「……ぶっちゃけ、その行動自体がどうなのかなーと思わなくもないんだけどさ。でも、確かそういうゲームってその……告白とかしなきゃ終わらないんだよね?」


「うん。で、私はあくまでフレンドの立ち位置だから、そのシーンは本来見なくても良かったんだけど……どうしても気になって覗いたんだ。そうしたら、なんでかな……とっても苦しかった」


 あの日の感覚は、今でもよく覚えている。どうしようもなく痛くて、辛くて、どうにかしてしまいそうだった。そんな姿を先輩に見せたくないという一心だけでログアウトはして、その後は自分の感情に身を任せる。そして、気が付いた時には寝落ち、朝になっていた。

 一晩泣いても、モヤモヤは晴れなかった。むしろ強くなっている。


「だから今日は目元が腫れぼったくて顔全体がやつれてるのね。いつもほとんどしていないメイクまでしてるけど、ほとんど隠せてないよ」


「あはは……」


 指摘されて力なく笑う。今の顔が人にあまり見せたくないものなのは自分が一番知っているのだ。なにせ、起きて鏡を見た時に驚いたくらいなのだから。感情面の理由だけでなく、この顔のせいもあって今朝の先輩とはなかなか目を合わせられなかった。だいぶ不審というか、体調が悪いと思われたのかかなり心配されてしまったのを覚えている。

 もう、こんなことで悩む時間は減らしたい。でも、自分の気持ちが一番分からない。だから、由梨菜はストレートに目の前の頼れる親友に問いを投げかける。


「それで、私はどうしたらいいのかな」


「どうしたらいいか、ね」


 加奈の頭の中には、いくつか案が浮かんでいた。

 その感情の正体を教えてもいいし、自分で気が付かせてもいいと思う。相談を先輩にしたら、というのも悪くない案だろうし、まったく分からないと言ってしっかり考えてもらうのも有りだ。そして、加奈は専ら『自分で気が付いてもらう』派の人間だった。

 人にもらったアドバイスは素直に受け取れても、人に教えてもらった自分のことというのは大概受け入れにくい。だから、本人の気持ちに気が付きやすそうなことをアドバイスして、それがどういう感情なのかを自分自身で結論付ける。それが大切だと思うから。

 だけど、普段他の友達と話す時以上に、加奈はこの二人の関係を知っていた。人となり、関係がゆっくりと進展していく様を一番近くで見ていたのだから当然だ。

 本来湊がシミュレーションゲームなんかとは縁もなにもない人だったことを知っている。

 由梨菜のために色々なことを考えて、度々受ける告白に悩まされていることを知っていて、それでも気持ちが抑えきれないほど由梨菜のことが好きな人だということを。

 人の気持ちに敏感だからこそ受ける告白に毎度悩み、そのたびに湊に助けられる由梨菜を知っている。初めのころは何でもなかったはずなのに、気が付けば二人で支え合っていた。そんな、いかにもお似合いにしか見えない二人を誰よりも見てきたのだ。

 だから、今回だけは自分の派閥を無視した行動をとることにした。


「由梨菜は湊先輩がそのゲームの子と仲良くしているのを見ると辛くて、どうしようもなくなるんでしょ?」


「……うん」


「それって、好きって事じゃないの? 少なくとも私はそうおもうよ。だって、私も拓真先輩が女子マネと話しているところとか見ると同じ気持ちになるもん」


 瞬間、由梨菜の顔が真っ赤に染まる。まるで火が付いたような変化だ。顔の生気のなさが若干解消されるほどに血が沸騰したらしい。由梨菜は、そのまま恥ずかしそうに俯いてしまった。

 きっと、由梨菜自身の内心でも答えは僅かに出ていたのだろう。加奈はその後押しをしただけ。それで、このどうにももどかしい二人が進めばいい、と思う。

 そして、だいぶ長い間弁当にも手を付けないで固まっていた由梨菜が、ついに小さく声を漏らした。


「……そっか、私、先輩のこと好きなんだ」



やっとここまで来ました~!

あと少しだけ、この二人の物語にお付き合いください!

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