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VRMMOでリアル恋愛を模索してみる。  作者: 棗 御月
誰かの心を知るオレンジの国
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魔王の実力



 楽しそうに顔を歪めた魔王が、ゆっくりと剣を抜いて半身に構える。

 戦闘の騎士団員が盾を構えて迎撃態勢を整えた。その盾の隙間からは槍の穂先が覗いていて、一撃を受け止めてすぐに反撃をする準備は出来ていた。

 だが。


「ふっ!」


 魔王が強力な震脚と共に、あえて盾に当てた一撃だけで前衛の十数名が吹き飛ばされた。全員が各種ポーション類を飲んで、完全な防御態勢を取っていたにも関わらず。幸い吹き飛ばされた騎士たちは後衛に受け止めてもらえたことで無傷だったようだが、それでもこちらを驚かせ、また隙を作るには充分だった。

 魔王は、騎士団の動揺を楽しむ時間を取るほどの余裕を見せてからもう一度剣を振りかぶる。その凶刃が、前衛がはがされた事で露出した、盾を持たない槍兵たちに襲い掛かった。


「ぐっ!?」


 何とか間一髪でやるの防御が間に合ったからよかったものの、さらに前衛は剥がされてしまった。完璧に組まれていた陣形は中央に大穴を開けていて、もはや意味を為していない。早すぎる不測の事態だ。何とか側面の部隊がリカバリーをしようとしても、魔王の侵攻が的確かつ速いせいで全く追いついていない。

 これではズルズルと詰まされるだけだ。三度魔王が剣を振るおうとしたところで、何とかその間合いに踏み込んで止めることに成功した。


「ふむ、お前はやりがいがありそうだ」


「そういうお前は余裕そうだな……!」


 思い。あまりにも重すぎる。明らかに両手用の大剣を片手で使っているのにも関わらず、つばぜり合いの状況から一切動かせないのだ。こっちは必死に踏ん張っているのに、相手はまっすぐ立って飄々とした表情なのだから笑えない。まだこれが底ではないだろう、と言わんばかりの表情につい反骨精神が刺激される。

 もちろん、この時間も無為に剣を合わせているのではない。俺には今、頼れる相棒がいる。


「ホーリー・ロイズ!」


 聖魔力を固めて、頭ほどの大きさにして放つ魔法。当然発動したのはユリナだ。それも、俺のすぐ後ろからすき間を縫うようにして放たれた一撃。完全に魔王の隙をついたはずだった。


「聖属性か、でもこの程度なら、ね」


 そうつぶやく間に気が付けば鍔迫り合いは解かれ、体勢を崩されていた。驚いて対応が遅れた俺を尻目に、魔王はホーリー・ロイズを()()()()()()


「そんな……!?」


 不意打ちを避けるまでならまだ想定内だった。だけど、まさか弱点属性の攻撃を、蹴り飛ばすなどという方法で対処するとは思わなかったのだ。しかもホーリー・ロイズは聖属性の中でも中級で、その中では上位の威力を持っているのだ。掠めるだけでもダメージを負っているはず。

 だが、数メートル先でふわりと微笑む魔王には、毛ほどのダメージも通っているようには見えなかった。まるで痛痒もないというわけでは無いはずだが、それでもその余裕という牙城は崩れる予感を感じさせない。

 これが魔王。圧倒的な強さに、早くも膝を着きたくなってくる。

 だが、これで終わるわけにはいかない。最低限、後ろの騎士団が持ち直すまでは俺とユリナの二人だけでこの魔王を凌がなければならないのだ。

 剣を強く握りなおす。二人でなら超えられない壁はな無いのだから。

 そう決意を固め直したところで、魔王の姿を影が覆った。それも、魔王の力によるものではない影が。


「ふむ、少々遅参してしまったようですな」


「執事さん!」


 魔王の直上から、着地と共にサーベルで一撃を叩き込もうとしたのは老執事さんだ。その年齢に似合わないダイナミックさと俊敏さをもって魔王をその場にとどめることに成功している。

 きっと、二人でも魔王を抑えることは出来ただろう。だが、そこに老執事さんが加わることで盤石なものとなる。反撃さえ狙えるだろう。フローラズ王国での努力は、意味があるものだったと心から感じる。


「騎士団が、先ほどの一撃をもとに大体の力を把握しました。そのための時間を稼ぎとうございます。お二方でも持たせられるとは思ったのですが、それではあまりに不誠実。よければこの老骨をお使いくだされ」


「ありがとうございます!」


 老執事さんのおかげで、さっきまでよりも魔王の表情から余裕は消えている。避けることに専念しているようだ。素人目に見ても老執事さんの一撃一撃は重く、素早い。何てことない普通のサーベルであっても脅威を感じるというのは、今の俺達では真似のできない所業だ。

 老執事さんの攻撃の間隙に俺が剣で一撃を狙う。ユリナが二人に聖属性のエンチャントをすることで、万が一のクリーンヒットを発生させるだけで大ダメ―字を与えられるようにしつつ、聖属性の魔法で攻撃をする。

 そんな連携の中でも魔王は掠り傷程度しか負わず、しかも聖属性魔法は虫を払うような手つきで消し飛ばす。限界の集中力で戦線を持たせる中、俺は一つのことに気が付いていた。

 この魔王に有効打を与えるには、強力な聖属性魔法を撃ちこむ以外に手がない。この連携に騎士団は加われないし、加わったところでユリナのエンチャントがない彼らは攻撃をしてもダメージを与えられない。

 つまり、この魔王を討ち果たすには、ユリナの魔法が不可欠だということだ。


「はっ!」


 老執事さんの、気合の入った一閃。魔王の黒いケープを切り裂いて浅くわき腹を薙ぐ。攻め時と判断したのか、さっきまではそこで引いていたところをさらにもう一歩踏み込んだ。剣を持たない左手による、手甲を使った掌打。聖属性エンチャントが剣にしかないせいで直接的なダメージは無いものの、その姿勢を歪めさせることに成功した。そこでさらにもう一歩踏み込み、強い震脚と共にダイナミックな後ろ回し蹴りが叩き込まれる。


「ぬぅん!」


 柔和な表情からは想像できないアグレッシブな一撃に思わず手を止めてしまった。そんな俺とユリナには意も介さずに、老執事さんは告げる。


「失礼、少々優雅さに欠けるところをお見せしてしまいましたな。今が時かと思いまして」


「時、ですか?」


「ええ。我らが騎士団の立て直しが大体終わったようです。悔しいことに、ここにいる三名ではあの魔王の討滅は不可能と判断しました故、次の策に移ろうということでございます。既にわかっていると思われますが、あの魔王を倒すには強力な聖属性の魔法が必須。であれば、我らが騎士団がその時間を稼ぎます」


 こうして話している間に魔王は既に立ち上がっている。少し離れた先で、何を企むのも好きにせよ、と言わんばかりの表情でこっちを見ていた。騎士団も隊長格を先頭に列が直され、すぐに陣形を作れるようになっている。


「魔法を使うにはそれだけ時間がかかります。そして、魔王が辛うじて興味を持っているのがこの三人でしょう。俺とユリナが後衛まで下がると、そちらの陣形を飛び越えてでもこっちに来る可能性があると思うのですが」


「その点は安心してくだされ。先ほどは騎士団も魔王によって蹴散らされましたが、二度も同じような醜態を晒すような者達ではありません。この私も変わらず全力を尽くし、そちらには行かせないことを誓います」


 老執事さんと騎士団の面々の目は、確かな覚悟に満ちていた。


 魔王討伐が、ついに終局に向かう。



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