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VRMMOでリアル恋愛を模索してみる。  作者: 棗 御月
誰かの心を知るオレンジの国
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大鬼



 分かれ道から慎重に歩くこと約五分。

 ようやく塔の入り口にたどり着いて、その威容を見上げていた。常にじわじわと侵攻を続ける塔は、門番をつけられないのか、見張りはいない。おかげで中に入り込むのは簡単だった。

 そして、大きな螺旋階段を一段一段登っていく。まるで視界に溶け込むような闇色に染まった世界は、見ているだけでどこかに引き込まれてしまいそうだ。それでも気をしっかりと保って、しっかりと踏みしめていく。

 そして、塔の中腹まで登ったあたりで開けた場所に出た。壁際に配置された松明が部屋を照らしているからか、闇色はそこで途切れている。揺れる炎が作り出す影、精緻な模様や装飾の数々。

 派手な装いと、部屋の奥からこの階段の端まで伸びる影がその存在を強調していた。


「よぉ、ニンゲン。よっくもまぁ、俺様のところまで狂わずに登ってこれたな」


「生憎と慣れていてね。もっとも、君の様子が想定外というようには見えないけど」


 その影の主と言葉を交わす。

 慣れているというのはそのままの意味で、彼に挑んだ回数だけですでに三回。一回目と二回目の時、散々目を回して転げ落ちたおかげで三回目の時には自分なりの対処法が何となくだが確立できたのだ。攻略六回目というアドバンテージが変なところで生きている。

 影の主は、まだ抑えるように小さく笑った。たかが戦闘参加権をもらった程度で大きく出たただの人間に、笑いが隠し切れないのだろう。

 壁の松明が光度を爆発的に上げた。そして照らし出されるのは――身長五メートルは下らない、巨大な大鬼(オウガ)


「いいねェ。俺様の姿を見てびびらねェやつは久しぶりだ。しかも一人で来てるたぁ泣けるじゃねェか」


「あんな階段があるとわかっていて、人を厳選する余裕もないのに大量に連れてきたらそれこそいい餌食だろうが。それに、たとえ単身だとしても、お前を戦わせるというだけでも価値はある」


「ほう……」


 大鬼(オウガ)が目を細めた。

 戦わせるだけでも価値がある。それはなぜかというと、ここが幹部の塔だからだ。

 幹部の塔の侵攻は、他の誰でもない幹部自身の力を使って行われている。これだけのサイズのものを、形や効果を保ったまま移動させる。これにどれだけの負担がかかるかは計り知れない。事実、このボスも俺が来るまでは、尊大な態度に反して落ち着いた姿勢で固まっていたのだ。

 そんな塔の管理者自らが戦闘を強いられればどうなるか。少なくとも、侵攻はやめて塔の維持に力を回す必要が出てくるのだ。

 そんな情報を、突然現れた一人の人間が理解していた。その事実が、ボスに警戒心をようやく抱かせたのだ。


「やめだやめだ。小難しい詮索なんざ、俺様にゃあ似合わねェよ。障害は跳ねのけて、邪魔者は斬り捨てる。単純な話だ」


「そうだな。お前を倒して、魔王も倒す。それだけだ」


 お互い同時に抜剣。俺は中段に、大鬼はだらりと無造作でいながら隙の無いように。

 数秒のにらみ合い。互いの闘志を静かにぶつけ合う。

 そこでようやく、エネミーカーソルが敵の名前を示した。

 焔揺鬼(ホウラギ)。日本の流麗な角を生やした鬼が、猛り吠える。


「ぶつ切りにしてやんぜェ!」


 先に動いたのは焔揺鬼だった。階を揺らすほどの踏み込みとともに放たれた斬撃は、人ひとりの体を切り裂いてなお余りある一撃だろう。

 当然、受け止めるなんて選択肢はない。たとえ盾を構えていたとしても、防御ごと吹き飛ばされて壁に叩きつけられるのが関の山だ。であれば、回避するのみ。大振りであるがゆえに単調で避けやすいという利点を最大限生かす。

 渾身の一撃目を避けられ、がら空きになった胴体に数発の斬撃を叩きこむ。姿勢が戻り切るギリギリまで攻撃し、去り際に魔法まで撃ち込んでおいた。熟練度が高くないせいでほとんどダメージは無いだろう。それでも、積み上げれば大きな効果になる。


「オラッ!」


 次は上段の一撃から始まる三連撃。二回目までは避けれたけど、命中させることに重点を置いた攻撃をすべてやり過ごすのは難しい。最後の一撃だけ剣で受け止めようとして弾き飛ばされた。転がって勢いを殺そうとするが、なかなかうまくいかない。

 その間も当然、焔揺鬼は攻めの手を休めない。大上段からの攻撃を転がる勢いのまま避けたところに、震脚で動きを阻害された。当然その隙は見逃されない。左の肩口から大きく切り裂かれる。


「ぐっ……」


「なかなかいい動きをするが、まだまだ甘ェな。そら、まだ立てんだろ?」


 HPはこの一撃だけで二割も持っていかれた。クリティカルヒットをしていなくてこれでは、もし大きな一撃をもらえばどれほどのダメージになるか、わかったものではない。

 ただ、ここまでの攻防で焔揺鬼の攻撃の癖やパターンは少しわかった。AWLの定期アップデートのせいで多少攻撃パターンが変わっているものの、度肝を抜かれるほどではない。攻撃のモーションから、大体の位置や動きは予想できる。

 そう、このように。


「オラッ!」


 下段、引きずるような動きは切り上げと体を回転させてからの水平斬り。二連撃を完全に見切り、お返しの三撃を与える。再び距離をとると見せかけてから焔揺鬼の顔面に炎を撃ち、続けてわき腹に剣を深く突き刺す。そして、剣を持たない左手で使おうとしてくるのを避けつつ剣を引き抜き、股下をくぐって背後に逃げる。

 一連の連撃で、焔揺鬼は多くのダメージを受けていた。それも、小さな人間一人に手玉に取られて。

 炎をようやく振り払ったその顔には、強い憎悪が浮かんでいた。


「テメェ、なかなかしぶといな……。ウゼェ動きしやがって」


「お互い体力が減って、区切りがいいじゃないか。仕切り直しと行こうぜ」


「――殺す!」


 実際には、焔揺鬼が炎を振り払うまでの時間で買いためたポーションを飲んでいる。それによって俺の体力はジリジリと回復を始めていた。

 だが、頭に血が上った焔揺鬼はそれに気づかない。焔揺鬼が鬼故に怒りは攻撃性を底上げするが、戦闘の技能は向上しないからだ。判断力と引き換えに戦闘力を上げる。それが、鬼。

 そして、俺はそこに勝機を見出していた。頭に血が上った焔揺鬼は、さっきまでの雑多な喧嘩殺法から技と言えるだけのレベルの連撃を繰り出すようになる。だがそれは、技に近くなるがゆえに、パターンを知っている俺にとってはただの弱体化に過ぎない。

 剣を正眼に構える。


「もう、お前の攻撃は俺に通じない」


 この一言を皮切りに、焔揺鬼から言語が消える。迫る大剣を前に、それでも俺は笑みを浮かべるのだった。



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