表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/68

幕間 きっと私が一番苦労性♯1

久しぶりの加奈ちゃん回。最後前の息抜きの幕間です。



「はあ~」


 文化祭が終わってから数日後の金曜の夜。私、安土加奈はとても深いため息を吐いていた。原因は私の親友、姫城由梨菜からのメッセージだ。間接的に同じ用件で、由梨菜の先輩の湊先輩も原因なのだけど。

 誰も見ていないのをいいことにベッドの上で姿勢を崩しながら、由梨菜から送られてきたメッセージを眺めていた。


『先輩にテスト勉強やらないかって誘われたんだけど、どうしよう?』


 普通の時、普通の友達からこれが送られてきたなら「やってみたら?」と返して終わりだろう。とりあえず認めてあげる、というのは女子の処世術なわけだ。

 だけど、これが由梨菜からとなると話が変わってくる。自分で言うのもなんだけど、私は由梨菜の親友を自称し、また本人も思ってくれているだろうという自信がある。そして、その親友としての見地からすれば由梨菜がいきなりこんな本人で何とかできる案件をこんな時間に送ってはこない。

 つまり、いきなりの事態にかなり動揺して送ってきたということだ。

 なので、とりあえず詳細を知るべく返信をした。


「やほー。したらいいんじゃないの? それともなんかあった?」


『何かあったというか、まだ何も起きていないといいますか』


 返信はすぐに来た。いまいち要領を得ない、画面の向こうでわちゃわちゃしているのがわかる文面。ふむ、このままメッセージでのやり取りだと埒が明かなそう。

 そうおもったのですぐにトークアプリの受話器マークをタップ、由梨菜に電話を掛けた。


「もしもしー」


『も、もしもし姫城です』


 だいぶ重症みたい。なんでそんな丁寧な受け答えなのやら。思わず笑いかけちゃった。


「で、なにがあったの?」


『先輩とさっきまで一緒にゲームしてて、今終わってすぐにメッセージが来たんだけどね』


「うんうん」


『その、一緒にテスト勉強しないかって言われて』


 ここまではいつも通り。前回の定期試験の時は湊先輩に誘われて、拓真先輩と私も付け足して四人でテスト勉強をした。わからないときに教えてくれる先輩がいるのはよいものだと実感したし、何より楽しかった。


「ん、したらいいんじゃないの? 何か気にすることあったっけ?」


『それが、その……二人でやらないかって誘われた』


「うん」


『で、なんでかわからないけどなんか緊張しちゃって。そのせいでまだ既読すらつけれてないの』


 一瞬、付き合いたての初心なカップルかナチュラル惚気ですかおりゃああと叫びたくなったのは仕方ないと思う。私だってまだ拓真先輩とまだ数回しかメッセージのやり取りできていないのに。

 というか、散々並んで投稿するとか二人でお昼を食べるとか一緒に帰るとかしているのにそれで緊張するのか。いや、由梨菜が少しずつ変わっているのは間違いないだろうし、いい傾向だとも思う。親友のそういう姿は嬉しいからおざなりにもしないし、ちゃんと考えるつもりはあるのだけど。

 同時に、親友に置いていかれているような気がする──という拗ねの感情が入るのはさすがに止められない。


『えっと、そんな感じで悩んでいまして。どうしたらいいと思う?』


「んー、そうだなぁ」


 ポン、と新たにメッセージが来た音がした。何となく予感がしたから、通話は維持したままそのメッセージを確認する。案の定、湊先輩だった。内容も予想通り。


『由梨菜に二人でテスト勉強しない?と送ってから既読すらつかないんだけどどうしたらいいかな』


 普段からゲームが終わるたびにメッセージのやり取りをしているのだろう。それが今日に限って既読すらつかないから不安になったらしい。何とも通じ合った二人というか、通じ合っていないというべきか。思わずため息がこぼれた。


「由梨菜」


『うん』


「とりあえず、やるのが明日すぐというわけじゃないんだったら、少し待ってくださいでいいから何か返信したらいいと思うよ」


 というか、この二人なら一度会話が始まってしまえば勝手に話が転がっていくだろう。由梨菜が緊張してしまったから、その最初がなかっただけだ。

 既にメッセージを送り始めたのだろう、電話の向こうの由梨菜は静かになった。これでたぶん大丈夫だろう。おやすみ、とだけ言って電話を切る。


 そこまでしてようやく、お風呂から出て以来ずっとそのままにしていた髪を縛る。簡単な身の回りの片付けや手入れをしたところでまたポンという音がした。あのまじめな二人のことだ、相談へのお礼のメッセージだろう。湊先輩には特に何もしていないけど、由梨菜の反応で私が手助けしたことはわかったと思う。

 完全に話は終わったと思っていた。軽い気持ちでスマホを手に取ったし、また深くため息をつく羽目になるとは思わなかった。


『なんかやっぱり緊張しちゃいそうだから、また拓真先輩も誘って四人で勉強会しない?』

『最初から二人はやっぱりなんか気にしちゃいそうだから、拓真も誘って四人でまた勉強会したいと思うんだけど、どう?』


 由梨菜も、湊先輩も、少々不器用すぎる。拓真先輩が絡むから、私に異論はないけど。

 とりあえず湊先輩には「絶対に拓真先輩を連れてきてくださいね」とだけ送っておいた。自然に二人きりになれるように協力するくらいの気は私にもある。だけど、いざ離脱するときに一人は嫌なのだ。


「ほんっと、不器用」


 癖にならないといいなぁと思いつつ、またため息を吐くのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ