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物語が示すもの



 文化祭の翌日。俺と由梨菜はAWLにログインしていた。


「とりあえずは断片探しの続きだね。そろそろこの暗いのにも飽きてきたし、頑張ろうか」

「そうですね。とは言っても当てはあるんですか?」

「あるよ。ここまで来るのに、たくさん食堂とかホールはあったけど個人の部屋とかテラスとかは見てないよね。だからそういう所からさがしていこうかなって」


 小部屋は見たけどどちらかというと物置とか見たいな使われ方をしていた。でも、これだけの広い建物を魔女一人で使っていたとは思えない。であるなら、まだまだ隠された部屋があるはず。

 メニューウィンドウを起動してマップを表示。同時にノートも起動して二人に外観や一階を見て回った時を思い出してもらって大体の形を書き加えていく。これでまだマッピングされていない場所がわかるはず。一階のマッピングも照らし合わせてわりと精巧な予想地図を描いていく。

 そうして出来上がったものを二人に見せる。


「おおー、すごいですね! これなら丸わかりです!」

「でも先輩、これを作ってどうするんですか?」

「当然しらみつぶしだよ?」


 二人の顔が引きつる。まあ、全然見ていない階層もあるわけで。で、地下もあるとなるとこれより範囲が広がる可能性も当然ある。これまでの勘に頼った探索でも結構歩いたり戦闘をしていることを考えると……ハードな展開が予想されるのは確か。


「あの、さすがに冗談ですよね?」

「まさか。探偵とRPGは足で稼ぐ、刑事とRPGは現場百遍。常識だよ」


 ちなみに異議は認める。脱出ゲームとかも現場百遍だと思うし。

 二人が揃って唖然としているのが少しだけ面白い。特に由梨菜は普段しっかりしているだけにギャップがある。ウィンドウでささっと二人の状態も確認しておいて立ち上がる。


「さあ、行くよ」



◇ ◇ ◇


 しらみつぶしに探し回る事一時間。二人の執念か、意外に早く断片集めは終わった。モンスターとの戦闘もわりと多めだったけど、今まで連携に重点を置いて戦ってきたおかげで比較的苦戦をすることなく探索できたのは良かった。

 ちなみに集めた断片の内容は、こんな感じだった。


『お姫様と少年の逢瀬はしばらく続きました。

 ある日はお姫様が今日教わったことを教えてあげたり、少年が訓練した剣舞を見せたり。とても幸せな時間です。

 二人の話はいつも時間ギリギリまで尽きることはありませんでした。二人の境遇はあまりにも違っていたからです。お姫様の知らないことを少年が、少年が知らないことをお姫様が知っていました。


「ねえ、あなたのお父様はどんな人なの?」

「騎士の隊長なんだって。えらいのかな」

「あら、ならとてもすごい人なのかもしれないわ。この国には隊長は十人しかいないんですもの」


「今日は訓練がきつかったんだ」

「だから傷だらけなのね。こっちきて、魔法で治してあげる」

「魔法はよくわからないけど、ありがとう」

「どういたしまして!」


「今日は女の子が男の子に贈り物をする日らしいわ。ほら、花冠よ」

「知っているよ、それ。バレンタインっていって、お菓子をあげるんだって」

「そうなの!? ……ならこの花冠はどうしようかしら」

「ちゃんともらうよ。お返し、頑張るから期待しててね」


 ──それはもう、幸せな時間でした。』


『そんな幸せな日々は、二人が三回お互いの誕生日を祝うまで続きました。

 侍従に囲まれて生活するお姫様と、同じ騎士を目指す仲間たちに囲まれる少年にとってお互いがほとんど唯一の異性で心を許せる相手ででした。


 出会った頃は子供らしさの多かった少年も少しだけ大人びて、頼もしさが見えるように。

 お姫様はおしゃれを覚え、その抜群の容姿を惹きたてられる美しい娘に。


 それを改めて感じてからお互いを意識するのに、時間はかかりませんでした。

 一目見れば胸が高鳴る。隣に並んで座ると安心する。話せなかった日はなぜか不安になる。そのくせ、指先が触れただけで顔が見れなくなる。


 その頃になれば、お互いの身分の差はわかっていました。

 お姫様と、貴族の子ですらない騎士を目指す少年。明日の命がわからない者が姫様の隣を歩けるはずがないと。

 それでも諦められない、と枕を濡らす夜もありました。


 そんな日々が続いたある朝、お姫様はいつも首からネックレスとして下げている指輪のことを思い出しました。


「この輪っかはね、今はなんの意味も持たない、透明なだけのリングさ。でもねぇ、持ち主が"この人"と決めた相手と共有することでその二人と一緒に成長するのさ」


 諦めかけていたお姫様たちにとってこの指輪は、一筋の希望でした。

 一緒に生涯を生きることは難しいかもしれない。でも、この平和が続く間は。そして、お互い離れ離れになってもこの指輪がある限り。


 そう、お姫様たちは信じていました。』



『それからさらに数年が経ち、二人はさらに成長しました。

 

 少年は誰からも頼られるような立派な青年に。実力も隊長たち全員のお墨付き、次代を担う希望に。

 お姫様はさらに魔法の特訓をして、修めるのが難しいとされる光魔法を若くしてマスター。その容姿と努力、抜群のカリスマをもって国中に名前を轟かせていました。

 

 その頃には青年は各地を飛び回っていてお姫様には公式の場で少し視線を交わすのみになっていました。ですが、二人の持つ指輪は輝きを増していきます。


 ──いつか、またあの頃のように話せるはずだから。

 ──いつか、またあなたの隣に立ってみせるから。


 そんな信頼の力で、指輪は美しくなっていきます。青年が遠征に行っても安否がわかるので、お姫様はいつも指輪を手放しませんでした。』



『そんなある日、魔族が国を攻めてきました。

 隊長まで昇進していた青年は、国を守るために戦いました。国を、民を、何よりお姫様を守るために獅子奮迅の戦いをする青年はいつしか英雄と呼ばれるようになりました。


 しかし、その力を脅威に感じた魔族によって猛攻をかけられ、青年は囚われてしまいました。

 それでもお姫様は諦めませんでした。指輪の光が弱くなっても、青年が生きているということを信じて。彼がしていたように民を導き、勇気づけ、そして魔族が去っていった方向へと進軍をしたのです。


 その頃には指輪は小さくヒビが入り、一部が黒く曇っていました。

 それでも、お姫様は信じていました。彼は無事だと。生きている、と。


 ですが、それは最悪の形で裏切られました。

 信じて送り出した斥候がようやく帰ってきて言った事は。


「報告します。英雄が、魔族の村で子を作り幸せそうに暮らしていました」


 指輪が、黒い光を溢れさせながら音を立てて砕けました。やけに響いたその音は、お姫様の心の音をそのまま表しているようでした。

 この情報が魔族の流した嘘だとわからなかったお姫様の心は、黒く染まっていました。


 光魔法は反転して暗黒魔法に。その姿を魔女に変えて、永久にさまようことになったのでした。』




 ……想像していたよりヘビーで、三人とも声が出せなかった。

 この物語が伝えたいのは、信頼した大切な人とは常に近くにいるべきだということ、そして信じ続けることの大変さだろう。近くにいないというのはそれだけで不安を生む。その隙が致命的な入れ違いや油断になる、ということだろう。

 重苦しい雰囲気になってしまったので、できるだけ軽い声を意識して二人に声をかける。


「とりあえず断片は集め終えたんだし、最初の部屋に戻ろっか」

「……ですね。あんまり暗くてジメジメしたところだと余計気が滅入ってしまいますもんね」


 今いる部屋を出て、最初に案内された部屋に向かうことにした。

 さて、今度は何が出てくるか、と不安に苛まれたのは言うまでもない。



こんな感じの雰囲気なのは今回くらいです(予定)

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