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私の心まで何マイル?



「ふう、なんとか終わったな……」


 私は部屋で、息をこぼしながらそう呟いた。

 目の前の机の上には、今日の文化祭の感想を書く用紙と明後日提出の課題。英語の長文を訳して問題を解くというものだ。文章には容赦なく新出単語もあるし、熟語もある。それらをすべて調べながらなので、遅くまでかかってしまった。

 視線横にずらせば、置時計が二十三時を指している。

 もう歯は磨いたし、お風呂は出たあとでやっている。もう電気を消せば寝られる状況なのだけど。


「もう寝たかな……?」


 机の上を簡単に片付けて、棚から大きい猫のぬいぐるみを持ってきてベットに座る。……なんとなく座りが悪いから体育座りにしようかな。

 近くの台の上に置いていたスマホをとって、着歴から一番新しい人を探して電話を掛ける。


『もしもしー?』

「あ、加奈。今大丈夫?」

『私は大丈夫。むしろ由梨菜は普段この時間くらいまで先輩とゲームやってなかったっけ?』

「今日はおやすみ。文化祭疲れたでしょ、ってことで」


 三コールで加奈はでた。

 そこまでなってから、どうして電話を掛けたのかがわからなくなって思考が緩くなる。

 あれ、本当になんでかけたんだろ?


「えーっと、加奈は文化祭どうだった?」

『楽しかったよー。魔女コスプレなんて普通しないしから新鮮だったし、なにより拓真先輩と踊れたからね』

「お化け屋敷もはしゃいでたもんね」

『いやぁ、拓真先輩わりと手が震えててさ。それがなんか可愛いというか、笑えてくるというかって感じでさ』


 拓真先輩との思い出を加奈は矢継ぎ早に話していく。

 ロシアンたこ焼きで辛そうにしている先輩が面白かった。射的で絶妙に的に当てられない先輩の目の前で一発で当てたらしょんぼりしていた。さりげなく飲み物をおごってくれたのが嬉しかった。

 とても楽しそうで、不意に羨ましいとさえ思うほどに話す。


『ダンスもさー、できないくせにめっちゃ格好つけようとしてるからさ……ってごめん、要件なんだったっけ?』

「あ、気がついたら電話してただけだから気にしないで。聞いてて面白いから大丈夫だよ」

『へんなの。まあいいや。そういえば由梨菜の方はどうだったの? 私拓真先輩と踊ってたからどうなったのか知らなくってさ』


 特に関係が進展したとか、そういうことはない。それでも、何かが変わった気はする。

 加奈なら、このモヤモヤがわかったりするかな。


「あのね、色々な人にダンス誘われて困ってたときに先輩に助けてもらったんだけどね」

『うんうん』

「その、口から自然に先輩と踊りたいって言ってた。先輩以外と踊りたくなかった。でもその理由がわからなくて……モヤモヤする」


 加奈は、ほーう、と一息。

 少し考える時間が過ぎていく。


『んー、じゃあ由梨菜のなかで湊先輩ってどんな立ち位置なのさ?』

「わかんない。でも、他の男の人と比べたらずっと信頼できる……かな? いい先輩ではあるよ」

『ジンクスとか抜きにして、自然に"先輩だけ"ってなるくらいの人でもあるんでしょ?』


 そう、そこがわからない。

 先輩と初めて会ったときは、ただのいい先輩だったのだから。そしてその立ち位置はまだ少ししか変わってなかったはずなのに。

 なのに、なんで先輩としか踊りたくないのかな。


「私は告白の返事を待ってもらってるんだし、早く返答を出したいの。でも、こんな曖昧な状況じゃ答え出せない……」

『別に、それでいいんじゃない?』


 え?


『それが好きだったら、いつか絶対にわかる時がくる。そうじゃなかったとしても、それはそれでわかる時がある。だから、気にしすぎない方がいいと思うよ』

「でも、これ以上先輩を待たせるのは……」


『じゃあ、期限をきったらいいと思う。そうだね、例えば……今年一杯、とか?』


 あと二ヶ月で、今年が終わる。 

 そしてこの今から、先輩のことを考えて過ごす二ヶ月が始まる。


 私は無意識に、ぬいぐるみを一際強く抱き締めていた。



これにて文化祭編終了です。

どうだったでしょうか……?

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