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後夜祭、開始


 まだ少しだけざわめきの残る体育館。

 そこでは、つい先程まで文化祭の閉会式が行われていた。


 結局あの後四人で集まってからは、色々なクラスの出し物を見て回るだけ。たまに参加はしたし、昼御飯は屋台の所から買いはしたものの比較的ゆっくりと回った。

 俺と由梨菜に関しては昨日の午後も一緒に回っていたし、加奈ちゃんは加奈ちゃんで個人で見てもいたらしい。つまり一周してそこまで参加するものが無かったのだ。


 四人で一周した後は結局体育館の発表に落ち着いた。

 体育館の発表は日替わりだから飽きることも見たことがあるものに当たることもない。演劇やダンス、バンドはそれぞれ見応えがあって楽しかった。

 加奈ちゃんと拓真がロックバンドの趣味が同じらしく、バンドが演奏しているときは激ノリしていたのが印象深い。


『……では皆さん、各教室の片付けをしてください。委員会の人はそれぞれ仕事があるので前に集合してください。後夜祭に参加する方は、午後五時から校庭に集まってください』


 午後五時からと言ってはいるけど、キャンプファイアー自体が始まるのは実は五時半すぎくらい。

 やればわかるのだが、片付けはそんな簡単に終わらない。それこそ屋台やお化け屋敷をやっていたクラスは物の処理に追われることになる。教室中に張り巡らした弾ポールとか衝立の処理というのは大変なのだ。


 ちなみに男子の一部は強制的に肉体労働。椅子の片付けや屋台の骨組み運びに駆り出されているらしい。運動部は大抵そうなので、拓真ももれなく使われている。


「湊君、ちゃんと働いてるかしら?」

「持ってる段ボールの山が見えないかね、委員長」

「冗談よ、からかっただけ。その前の窓拭きとかもちゃんとやっているのは知っているわ」


 相変わらず流石の一言だ。何をどうしたら自分の作業をちゃんとやりながら他の人の動きを気にかけられるんだろう。しかもそれぞれに適切な指示までしている。真似できる気がしない。


「今日はずいぶんとそわそわしているのね」

「あー、まあな。この次は後夜祭だって思うとね」

「後夜祭だって去年経験しているじゃない。二回目だし、特に出番があるわけでもないのに」


 まあ、たしかにこれといって出番というものはない。

 せいぜいが先生たちによる出し物を見てわらうとか、生徒会の企画で毎年何人かが立候補制で参加したりする程度。そして、残りの時間がキャンプファイアーになる。

 キャンプじゃないのにキャンプファイアーというのはなんでなんだろうな。かがり火とかだと分かりにくいからだろうか。


「なに、キャンプファイアーのときのフォークダンスで誘いたい娘でもいるの?」

「……まあ、そういうことだ」


 おい委員長、なんでそこで意外そうに驚いた顔をする。

 キャラじゃないかもしれないけど、誘いたい娘がいるくらいいいじゃないか。去年は端のほうで友達と話していた男がやるのは多少意外だろうけどさ。


「驚いた。拓真君ならまだ分かるのだけど、まさか湊君がそういうことを言うなんてね」

「去年の自分だってこうなるとは思ってなかっただろうけどね。一年でわりと環境って変わるものだな」


 そこで委員長に声がかけられた。

 どうやらしつこい汚れがあるらしく、委員長にコツを聞こうとしている。


「まあ、相手に迷惑をかけない程度に頑張りなさいよ。ダメだったら、私がお相手してあげる」

「……え?」


 委員長の言葉に思わず疑問符が出た。

 キャンプファイアーのフォークダンスにおける男子の意識と女子の意識は大きく違う。そして、その女子側の話は当然委員長は知っているはず。

 だからこそ分からなかった。いくら俺がお誘いに失敗したとしても、「ダメだったら誘って」だなんて普通言えない。

 委員長が男子側の意識に合わせたのか、それとも単に優しいのか。その真意を確認する間もなく委員長は呼ばれた方に向かって歩いていこうとしている。


「なによ、不満?」

「すこしビックリしただけ。大丈夫、委員長は委員長の踊りたい人を誘ったらいいと思うよ」


 委員長はそのまま、ムッとした表情で去っていった。

 え、なにか悪いこと言っただろうか。優しいのは嬉しいけど、委員長だって踊りたい相手はいると思う。だから気にしないでいいよ、と言いたかったんだけど。


◇ ◇ ◇


 一時間近くにも及ぶ片付けが終わり、ポツポツと校庭に人が集まってきた。ある人は火の近くに座って暖をとり、ある人は友達と座って談笑している。

 片付け開始から四十分ほどして帰ってきた拓真に労いの言葉をかけてからちゃんと連れてきた。加奈ちゃんに睨まれたくはない。


『はーい、皆さん。そろそろ火を中心に集まってくださいねー』


 生徒会の人がメガホンを使って呼びかける。

 クラスや学年、性別の差なく火の周りを取り囲んで座っていく。この学校中が一体化するような不思議な感覚は、一度味わうとなかなか抜け出せない。


『だいぶ人数が揃ってきて、時間になったので後夜祭を始めたいと思います』


 初めての一年生はまだざわざわとしている。生徒会や先生もそれを注意するような事はしない。

 生徒会長が小さめの脚立を持ってきて登り、会員たちが支える。そして、一段高いところから開始の声が響いた。


『ただいまより後夜祭を始めます! まずは先生たちによる出し物です!』



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