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幽霊の招く手


 お化け屋敷の中に入ってすぐにランタンをつける。

 このクラスはわりと徹底されているらしく、窓からの光の漏れがない。つまり、ランタンの光だけで進むということだ。だが、懐中電灯のように前を照らす事に特化しているわけでないランタンは、ほんの二メートル先が見える程度の光しか出してくれない。


「えっと、ランタンはどっちが持つ?」

「先輩お願いします……!」


 AWLの時のように横に並ぶ。ランタンは一応左手にもって、二人の真ん中から周りを照らすようにした。道が狭くて自然と至近距離で並ぶことになる。AWLの時は気にならないのに、この距離感が気になって仕方ない。何とか平静を装えているけど、正直すごいどきどきしている。

 でも、それは由梨菜も同じだったようで。


「なんか、AWLの時とはまた違った感じの不安がありますよね。別種の怖さといいますか……」

「こういうお化けもやっぱり苦手?」

「VRにせよお化け屋敷にせよ、こういうホラー系は総じて苦手です。まあ、こういうお化け屋敷は怖がらせてくるより驚かせてくることが多いですけど」


 その通り。

 いかに凝ったところで学生仕事、ストーリーをつけてもそこまで怖さというのはでない。というか、怖がらせるには教室ではどうしてもスペースがたりない。というわけで、文化祭のドッキリは大抵いかに驚かせるかが重要になる。

 そして、昨年さんざん色々なお化け屋敷で驚かされた経験からするとそろそろくるはず。


「ひゃっ!?」


 予想通りのタイミングで通路の隣の障子が破られて無数の手が。由梨菜が反射的に驚いた声をあげる。そして腕に思わず抱きついてきた。

 え?


「あっ! ご、ごめんなさい……」

「大丈夫。障子を破るなんて思わないし仕方ないよ」


 タイミングを予想していても、物は壊さない方向性で来ると思っていただけに障子からきたのは驚いた。毎回取り替えているのだろうか。

 しかも、よく見れば飛び出た腕はすべてが白塗りされている。不気味なまでに白い手は正直恐怖でしかない。


 それでも先に進まなければ終わらない。入る前の事前説明では、この先のお堂からお札をとって出口に持っていく必要があるはず。

 だけど、そこからも当然仕掛けは強化されていく。

 あるところでは、提灯にいきなり火が点いてしかも破れ、そこが口になって襲いかかってきた。すきま風の音は常に聞こえるし、どこからかうなり声も聞こえる。

 すごい手が込んでるな……。


「まだ終わらないんですか……?」

「あと半分ないくらいだと思うよ。教室の大きさ的に、お堂とか作ろうと思うともう後半のはず」


 幽霊の招く手、という名前に恥じないくらいに幽霊要素は沢山出てきた。

 度々手は飛び出てくるし、すすり泣くような声も聞こえる。お化け屋敷としてはクオリティが高めといえるだろう。


「ほら、お堂発見」

「お堂というか、寂れた小人用の小屋ですね」


 まさしく由梨菜の言う通り。

 お堂というにはらしさ( 、 、 、)が足らない。お堂をお手軽サイズにしたというよりは、出入り口が一段下がった小屋。

 そしてその上には、明らかにそれとわかるお札が置かれていた。


「えっと、お札を回収して出口に持っていくんでしたよね」

「そうそう。出口の外の係員に見せたら良いはず」


 由梨菜が恐る恐るお堂に近づいてお札をとる。

 お札は意外としっかりとしたつくりで、手触りの良い和紙でできていた。スマホ程度の大きさで、真ん中には達筆な行書体で『(きよ)めのお札』と書かれている。

 それを持って、出入り口の方へ。


 だけど、そこでお化け屋敷が終わるはずもなく。


「札……」


「先輩、今なにか言いました?」

「いや、言ってないけど……」


 どちらかというと後ろから聞こえた。

 ただし、掠れるような声だった。聞き間違いかもしれない。


「札を……とったな……」


「ひっ……」

「今回は完全に聞こえたな……」


 由梨菜の口から漏れた声に反応するように、後ろを向いてしまった。

 そこには、白装束を身に纏った長い黒髪の女がいた。片方だけ見える目がこちらを睨んでいる。恐らくあれが、幽霊。


「札を、とったなァァァア!」


「きゃぁぁぁぁあ!」

「うわぁぁぁぁあ!」


 かなりのスピードで幽霊が追いかけてくる。弾かれるようにして由梨菜と一緒に走りだした。

 追い討ちをかけるように横の障子からさらに無数の手がのびてくる。全て白塗りの不気味な手が唯一届かない道の中心を一思いに駆け抜けていく。


 そして、なんとか扉を開けて係員にお札を渡したところでようやく一息つけた。


「……なんだか、ものすごく疲れました」

「同感。幽霊めっちゃ怖かった」


 最初ゆっくりしているところからの急加速がものすごく怖かった。緩急があるだけでも効果が強いのに、だめ押しの障子からのびる手で完全に止めを刺された感じだ。

 

 驚かすだけ、とか言ってたけど本当に恐ろしかった。


「拓真と加奈ちゃんは大丈夫かな」

「拓真先輩はどうか知りませんが、加奈はたぶん笑いながら通っているんじゃないかと」

「笑いながらなんだ」

「お腹抱えて指差して笑いながらだと思います」


 その様子だと確実に目尻に涙まであることだろう。

 たぶん、最後追いかけてきた幽霊は演劇部。恐ろしい演技をしつつ、絶妙に追い付かないスピードを保っているのだろう。そんな人を見て加奈ちゃんがどんな反応をするのか……少し見てみたい気もする。

 よし、ようやく落ち着いてきた。


「飲み物いかがですかー! 百円ぴったりで安いですよー!」


 ペットボトル一本百円、種類多め。

 由梨菜と二人で同時に「買います!」と手をあげたのは言うまでもない。



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