二つ目の断片
あのあと、何度か由梨菜に問いかけてはみたものの「大丈夫です!」の一点張りだった。仕方なく折れて、とりあえず縦列を変更して松明で足元を照らしてあげるようにした。
で、それを見たユリナが同じようにして欲しそうだったから、と位置を調整したところ綺麗に横列になった。全員が落ち着いたところで、改めて一番奥の扉に向かう。
「可能性としては、大きな書庫系か中ボス部屋だね」
「中ボスがいるとしても、少し早くないですか?」
まあ、確かに。今のところ出てきたゴースト系の敵は僅か数体だし、何より聖属性魔法の使用頻度に制限がある以上何度も当てなければならないボス戦が存在するのかすら怪しいところだ。
だとすれば、扉のさきにあるのは、一つ。
「書庫のほう、でしたね」
「骸骨あるし、フラスコから緑の液体滴ってたりする時点でまともな書庫ではなさそうだけどね……」
とりあえず部屋に備え付けの燭台に松明から火を移して灯りをつける。マップを開いて確認したところ、どうやらここは『司祭の部屋』というらしい。黒ミサホールの奥にあったし、納得はできる。
納得したところで辺りを見回し、視界に三百冊は映ったところで概算を出すのをやめた。ゲンナリしそうだ。
「ここから探すのって重労働じゃないか……?」
「何かやり方があるような気がしなくもないですね」
この量でまさかヒントなしのランダム配置ってことはないだろう。だが、燭台に灯をともすだけの照明しかない部屋で謎解き系トリックとかはまずないと見ていい。
つまり、既に得たアイテムが鍵。そして、魔女の館に来てから新しく得たアイテムは『錆びた約束の輪』の童話の断片と『徘徊の燭台』の二つ。
その二つをアイテム欄から選択、オブジェクト化。燭台で童話の断片を照らす。
「さて、続きはどこかな」
そう呟くと同時に、断片を照す光がうねり、部屋の床を這うようにして広がっていく。不気味なのにどこか美しいその光景が数秒続いて──部屋のある一画に光が集まった。
「見つかったね」
「どうしてやり方がわかったんですか?」
不思議そうな由梨菜に、簡単だよ、とだけ前置きして説明をする。
これまで得たアイテム二つで何かするにも、先に確認した通りまず謎解きはない。そして、断片に直接続きが書かれていないのであれば、残る可能性はファンタジーなものだろう、と当たりをつけた。
そして、お話というのは断片だけでは絶対完成しない。すべてが揃っていて完成形。完璧な状態になっていない本は、それが断片というのなら残りの部分を探そうとするだろう。
「つまり、この館を徘徊しているのはプレイヤーだけじゃなくて『錆びた約束の輪』という童話も、ということだね」
「なるほど……」
そこまで説明したところで、ユリナが本の山から発光元こと断片の続きを持ってきた。光は山から取り出した時点で消えてしまったようだ。なんか少し寂しい。
「読んでみましょう!」
「オッケー。ユリナは燭台をちゃんと持ってね」
ワクワクしながら急かしてくるユリナに押されるようにして断片のページを開いた。どうやら、ちゃんと前回の続きのようだ。
◇ ◇ ◇
『お姫様は、もう来なくなったお婆さんをたまに思い出して悲しく思います。でも、そんなときは言われた通り紐を通してネックレスにした指輪をみてお婆さんを思い出しました。
今日もお姫様はお庭で遊びます。弟を連れ出したり、珍しくお休みのお父さんとかけっこをしたり。
でも、ほとんどのときお姫様は一人で遊んでいました。お父さんは忙しいし、弟も勉強が大変なのです。
一人でお庭を走り回るうちに、広いお庭はすっかりお姫様のもの。知らないところはありませんでした。
だから、ある日、茂みで男の子を見つけたときは驚きました。
ボロボロに傷ついて、目元に涙を浮かべながらも、必死に耐えているその子に優しいお姫様は声をかけました。
「どうして泣いているの?」
「泣いていない。僕は"騎士"になるから、泣かない」
「キシ? ……よくわからない」
「そうかもね。そういうキミはだれ?」
「私は、お姫様!」
お姫様は胸を張って言いました。そして踞る男の子に手を出して、こう言いました。
「ねぇ、そこにいてもつまらないよ! 一緒にあそぼ!」
──こうして、二人は出会いました。
お姫様からすれば、一人の寂しさを無くしてくれる人として。
男の子からしたら、厳しい訓練の後の息抜きの相手として。
初めの頃は、それだけの関係でした。
つづく。』
◇ ◇ ◇
新しい断片は、読み終えると同時に光になってアイテム欄に消えた。恐らく元々あった断片とくっついたのだろう。
それを見てから、三人で顔を見合わせる。
「えっと、今回は出会いのお話、ってことかな?」
「みたいですね。まだ断定しないほうがいいと思いますけど、たぶんこの二人がメインキャラでしょう」
「なんだか、少しだけワクワクしました。二人がどうなるか楽しみです!」
二人の意見に同意だ。
お姫様の無邪気さが、傷ついた男の子にとってどう見えたのかがまだよくわからない。でも、少なくとも悪印象はないはず。ユリナと同じく、二人の先が楽しみに思える。
ただ、それと同時に、こういう物語が必ずしもハッピーエンドじゃないことを知っている。AWLのなかでも、特にユリナルートはバッドエンドが多いのだから。
それを思いだし、気を引き閉め直す。
「じゃあ、次にいこうか」
「行きましょう!」
「目星はついてるんですか?」
「……ついてません」
たぶん、断片にこれ以上の情報は隠されていない。
よってRPGらしく歩き回って探すしかない。冒険者は足で稼ぐんだ。一階は、あと見ていないのは少しだけのはず。装飾されていていかにもそれっぽい扉とかもあったけど、鍵が掛かっているのか開かなかった。
「一階がほぼ終わったってことは、次からは難易度が上がるはず。注意していこう」
「はいっ!」
うん、ユリナ良い返事。由梨菜は呆れた顔しない。




