表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/68

クールな彼女の意外な弱点



「館内のモンスターのアクティブ化、ですか」


「みたいだね。この客間はどうやら安全地帯扱いみたいだけど」


 部屋を出たら即接敵というほどではないはず。だけど、客間からある程度以上離れればモンスターは湧き始めるはずだ。

 そして、ここでキーになるのは由梨菜──ハクアというフレンドを含む"プレイヤーの聖属性攻撃の禁止"だ。聖属性というのは基本的にゴースト系やアンデッドに効果の高い属性。ユリナのみ聖属性魔法が使える状況で魔女の館、つまり少なからずゴースト系のモンスターが出てくるはず。

 つまり、この魔女の館では即座の対応力とユリナとの連携が何より求められるということだ。


 というわけで、第一目標は童話『錆びた約束の輪』の続きを探し、第二目標はユリナと呼吸を合わせることだ。


「というわけで、たぶんユリナしかゴースト系のモンスターに対応できない。魔法は無限に撃てるわけじゃないから、ペース配分に気を付けてね」


「わかりました!」


 ギイィ、と音をたてて客間の扉を開ける。自分、ユリナ、由梨菜の順に部屋を出て歩き始めた。壁に松明(たいまつ)があるとはいえ、廊下はかなり暗いままだ。


「なんかこう、灯りはないものかな」


「あ、灯りでしたらさっきの客間に落ちてたので拾いました。センパイ、使いますか?」


 そういうと、ユリナは懐から小さな蝋燭の刺さった簡単な燭台二つを差し出してきた。俺とユリナの二人分ということだろう。ユリナから受け取り、とりあえずアイテムの内容を確認する。


 ・徘徊の燭台 耐久値:無限


 おそらく魔女の館専用の灯りアイテムだ。暗くて攻略が難しいといった旨の発言をするとユリナから渡される仕組みなのだろう。

 本来こういう松明などの灯りアイテムは耐久値が設定されている。いわゆる松明なら耐久値が切れたら消滅、ランプ系は燃料を追加することで耐久値の回復が可能、燭台系は蝋燭などのアイテムを継ぎ足すことで無限に使える。だが、これはお助けアイテムだからか、蝋燭の耐久値は無限設定らしい。

 壁にある松明を使って蝋燭に火をつける。が、さすが無限アイテムらしく灯りはとても儚げだ。


「まあ、手元足元を照らすには十分かな? 壁の松明もあるし、なんとかなると思う」


「むしろその燭台は本を読むときの為だと思いますよ」


 由梨菜の冷静な突っ込みで徘徊の燭台の本来の使い道を納得した。徘徊の、とついているわりには読書用なのか。それとも、『錆びた約束の輪』を探すには徘徊が必須というメッセージなのか。

 そんなことを考えながら歩いていると、広めの部屋に出た。ホラー映画なら黒ミサメンバーでも座っていそうな長机が置かれた部屋だ。


「なんかここ、すごく空気が寒いです……」


「だね。ほら、上の方にゴースト系モンスターだよ、ユリナ」


 オバケ、といったら真っ先に思い付く白いシーツを被ったような見た目のゴースト系モンスターが宙に二体、フワフワと浮かんでいる。名前はプリナム・キッドと言うらしい。そこまで確認したところで、こちらに気がついたプリナム・キッドが向かってきた。


「キッキッ、キュイイッ!」


「ユリナ、戦闘準備! たぶんホーリーアローで矢二本作って当てたら大丈夫!」


「わ、わかりましたっ!」


 プリナム・キッドはその場で跳ねるようにフワフワ動き、突貫してくる。分かりやすく剣を抜いてターゲットを軽く引き付けつつ、まるで「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」と言っているみたいだな、とふと思った。

 そんなことを考えているうちに、俺に一直線に向かってくるキッド達は背後のユリナの繰り出したホーリーアローで射抜かれて霧のように消えていった。


「うん、いいね。ありがとうユリナ」


「はい!」


 どうやらユリナはオバケは大丈夫なようだ。ホーリーアローはぶれることなく飛んでいたし、心配要らなさそうでよかった。

 大きな部屋の脇にある扉はほとんどに鍵が掛かっていた。一部入れるところもあったが、本がそもそもなかったり、スケルトンがいるだけだったりして収穫はなかった。


「と、なるとやっぱり一番キナ臭いのはあの一番奥の部屋だよね」


「ですね。あそこだけ周りの装飾とかの雰囲気が違います」


 大部屋の、入ってきた扉から見て一番奥。扉周りに意匠が施された扉があった。怪しいのは分かりきっていたので最後にとっておいたのだけど、どうやらやはりここのようだ。


 雰囲気や暗さにも慣れてきたらしいユリナが元気に扉に向けて歩きだす。ならび順はできるだけ崩さないように、とはしていたけど、俺とユリナは今ではほぼ隣だ。

 一歩二歩ほど遅れて後ろを歩いている由梨菜に目を向けて、こちらも大丈夫なのを確認し──あれ? 


「由梨菜──じゃなくてハクア、大丈夫? 足震えてない?」


「大丈夫です。少し寒いだけです」


「でも、顔色悪いよ?」


「ダイジョウブです!」


 そうは言うものの、沈みエフェクトさえ出そうなくらい真っ青な顔に震えの混じる声に不安定な足元。仕方ないとはいえ、最後尾で燭台なしという状況、ゴースト系への対策手段の聖属性が使えない探索とわかってからずっと硬めな様子。


 もしかして由梨菜って──オバケ苦手だったりする?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ