委員長のお誘い
「初日の午前は終わりよ。シフトチェンジ、十五分後から再開ね。ほら急ぐ!」
十二時を少し過ぎ、午後のシフトのやつらが集まり始めたところで委員長が声を張り上げた。
予ての通り、俺のシフトはこれにて終了。
簡易な厨房の裏手で和装から制服に着替える。
シャツとズボンをはき、和服をたたみはじめたところで拓真が入ってきた。
「あ、湊。おつかれー」
「そっちも荷物運びおつかれー。……じゃなくて、加奈ちゃんが嘆いてたぞ。お前のシフト聞いたのに教えてもらえなかったって」
「あー、シフトか。聞かれた時はマジでわかってないときでさ。よーやくわかったときには委員長にぼろ雑巾にされてたんだよ。なくしたとおもってたらなんとか直前に見つけてな」
「日程くらい送ってあげろよ。俺はちゃんと由梨菜に教えてるぞ?」
「ええい、幸せ自慢か!」
なんか力ずくで追い出された。
そのせいで、幸せ自慢ってのはカップル同士だから成り立つ言い方だろ! という言い返しができないままだ。
それでも一応拓真のシフトを聞いておいた。
加奈ちゃんに刺されたくはないのだ。
あそこまで分かりやすく好意を持ってる娘がいるのに、拓真って鈍感だよな……。
そんな事を考えながら、朝もらったパンフレットを開いて最初に行くところを検討しはじめた。
とは言っても、明日と明後日は由梨菜と一緒に回る予定がある。
あんまり見すぎると一緒に回るときに時間が余ってしまうかもしれないな。
今見れるとしたら、体育館の発表くらいだな。
「湊君」
「ん、委員長か。なに?」
「どこに行こうか悩んでいるのかしら?」
「あー、そうなんだよ。明日と明後日は由梨菜と回るからあんまり教室のは見れないなって考えてたところ」
「そうなの。なら、一緒に体育館の発表を見に行かないかしら? 体育館の発表はそれぞれの団体一回限りよ」
ついでに、と委員長が体育館のスケジュールを渡してきた。
ちょうどあと十分後くらいに演劇部の発表が控えているようだ。
「教室の監督は良いのか?」
「私だって休みはいれてるわよ。他の人よりは少なくしてるけどね。それより、早くいきましょう。席が埋まってしまうわ」
「りょーかい」
珍しく委員長と行動することになった。
体育館に向かう最中にも色々と話を聞く。
「演劇部の中でも何軍かあって、全四軍のうちの二軍が今日の劇を演じるのよ」
「そんな風に実力わけってして大丈夫なのか?」
「演劇部の軍は実力わけじゃないのよ。一軍がラブコメ、二軍がミュージカル調、三軍が歌舞伎風、四軍が近代技術込みの西洋劇ね」
「よく知ってるな……」
「委員長ならばこれくらいは当然でしょう?」
委員長ってここまで万能なものなのかね。
他の出演団体についても色々知ってるんだろうな。
そんなことを話しているうちに体育館の入り口が近づいてきた。
入れ替わり中のドアから覗いた限りだと、どうやらまだ前列の方しか埋まっていないようだ。
「ほら、急ごうぜ」
「大丈夫よ。見やすいのにあんまり人がとらない席はいくつか調べてあるから」
◇ ◇ ◇
一年生の教室。
昼の入れ換え時間に、着替えながら由梨菜と加奈は話していた。
「由梨菜ー、その衣装とってー」
「これが加奈のだよね」
「そうだよー。由梨菜が安定の和風だから私は西洋風って安直すぎない?」
「決まったときはノリノリだった気がするけど?」
「湊先輩の所に行くときの由梨菜程じゃないよ」
あ、由梨菜固まった。
いっつも言ってるのにまだ自覚無いんだ。
由梨菜は見た目通り、生真面目でクール。
あんまり多く言葉を使うことはない。
なんだかんだ親友を私はしてるけど、ここまで話せるようになるのに結構かかったしね。
そんな由梨菜がよく喋るようになるのは決まって湊先輩の前。
生真面目さからの遠慮なのか普段言わない本心を、湊先輩の前ではわりと隠すことなく動いている。
だからなのかな、湊先輩の所に行くときの由梨菜の目はとっても楽しそうにしてる。
自覚は相変わらず無いみたいだけど。
「……そんなに違うの?」
「違う違う。初めて拓真先輩や湊先輩を混ぜてお昼したときに驚いたもん」
由梨菜は首をかしげている。
最初は、良さそうな先輩がいるってだけだった。
色々あって、告白されて。
由梨菜自身もよくわからない感情はあるみたいだなぁ。
……人の心配してる場合じゃないや。
私も頑張ろっと。
そう思い直した私は、湊先輩から送られてきた拓真先輩のシフト表とにらめっこを始めた。
そういえば、湊先輩のシフトは先輩のクラスの委員長さんが調節してくれたって言ってたっけ。
自分のシフトも考えてるんだろうな。随分としっかりしてる人らしいし。
休みはちゃんと作って、やりたいことをしっかりやってそうだよね。そういう人って。




