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絶品ハンバーグと後ろの視線



 所変わり、フローラズ王国の客室。

 何時もよりかなり早い二十時半という時間に湊はダイブしていた。


 普段なら風呂にでも入っている時間なのだが、今日は違う。

 珍しく親が小旅行に出掛けている。

 毎年この時期になると、親は無理矢理にでも休みをつくって結婚記念日祝いに旅行に出掛けるからだ。

 湊は別に置いていかれた訳ではなく、親二人が「夫婦水入らずに邪魔するのか!」と面倒くさくなるのが嫌で行かないだけ。


 由梨菜にこれを伝えると、驚いたことに由梨菜は旅行肯定派だった。

 ちゃんと夫婦の時間を大事にしていること、お互いがお互いを考えて行動していることが良かったようだ。


 何はともあれ。

 普段よりかなり早い時間にダイブした湊は、もう少しあとにダイブしてくる由梨菜を待っている状態だった。


「アイテム整理をしようにも、城でずっといたせいでアイテムというアイテム手に入ってないんだよな」


 ランダムで落ちているアイテムはあるが、どれも些細な物だし整理など一瞬で終わる。

 足りないものをメモるだけだな、とアイテム欄を開いて湊の指は止まった。


 アイテム欄の一番上、新しく入手した物の一覧の中に見たことのないアイテムがある。

 存在として知ってはいるけど入手したのは初めてというべきか。

 アイテム名は魔法の痕石。

 何かしらの魔法を受けたとき、超低確率でドロップするアイテムだ。

 蒼く透き通った、粗くカットされた形。

 アイテム名をタップして詳細を見ると知らない魔法が籠められていた。


「月影……? 演出魔法ってなんだ?」


 曰く、この痕石を砕くか使用すると使用した地点から一定の範囲から見える景色が美しくなるというものだ。

 いつ受けたのかも使いどころもわからない代物だ。

 AWLは元から景色も綺麗なことを売りにしているだけに本当に使い道がわからない。

 湊からしてみれば、レア物だし取っておこうくらいの感覚だ。


「他には特に何もなし。……暇になったな」


 あと最低でも十五分は由梨菜は来ない。

 どうしようかなー、と考えていると唐突にノックされた。


「あの、センパイ。入っても良いですか?」


「ん、ユリナか。どうぞ」


「失礼します」


 入ってきたユリナの姿は城で支給されたラフなもの。

 ワンピースタイプの白い服にカーディガンのようなものを羽織っている。


「どうした?」


「あの、ご飯持ってきてもらったので一緒に食べませんか?」


「ご飯か、いいよ。何がでるんだろう?」


「ミーム牛のハンバーグらしいです」


 ミーム牛は、この王国近辺にいる牛のなかでは上位に位置する肉牛だ。

 やわらかさと肉汁がすごく出ることで有名らしい。

 リアルにある大型チェーン店と提携したとかしていないとか。

 本店の店長がビリーさんで子供好きだからってブランコビリーはどうなの、と言われている店だ。


 ユリナと使用人の人がテキパキと机にミーム牛ハンバーグを並べていく。

 デミグラスソースの匂いだけでお腹が減ってくる。

 リアルでご飯を食べたばかり、ということさえ忘れるくらい食欲が刺激される。


「では、食べましょうか?」


「そうだな」


「「いただきます」」


 しっかりと手を合わせてから食べ始める。

 和洋折衷を世界観のモットーにしているけど、この動作はどのキャラもするらしい。


 ナイフで小さく切り、口に運んだ瞬間に味が口のなかで弾けた。

 驚いたときには既に口の中から消えている。

 それくらいに美味しいハンバーグだ。


「これ、すごい美味しいな」


「口のなかで溶けます!」


 ユリナもロングの黒髪を揺らして震えている。

 わかるぞ、確かにこれは思わず体を揺らしてしまうくらいのレベルだもんな。


 気がつけば、皿の上の上は空。

 俺とユリナはソースの残りすら許さず食べきった。


「満足でした~!」


「そうだな~」


 最後にあったかいお茶を飲んで終了。

 そして、コップを置くと同時にいつの間にかいた使用人の方々が片付けをしてくれた。

 瞬く間に運ばれていく。

 そして、使用人の人達に着いていくようにユリナも立ち上がった。


「センパイ、片付けのお手伝いしてきますんで二人で待っててください」


「了解ー……ん? 二人?」


「後ろにいるじゃないですか」


 そう言われ、振り向いた先にはベッド。

 正確には由梨菜が使っているベッドだ。

 いつの間にかその上には使用主が。


「お、来たか。こんばんは」


「こんばんはです、先輩」


 視界の隅のデジタル時計には二十時五十七分と表示されている。

 ミーム牛のハンバーグに舌鼓をうっている間に来ていたようだ。


「その、お待たせしましたか?」


「いや、全然。珍しい物食べれたしな」


 恐らく、一定時間経過とゲーム内時間が上手くマッチすると起きるイベントなのだろう。

 夜営中に起きるとは思わないし、これだけ美味しいものを食べられたのは城にまだいたからだろう。


 残った匂いだけでも美味しそうなのがわかるからか由梨菜は視線を合わせてくれない。


「……随分と、良かったみたいですね。それと楽しくもあったみたいです」


「確かに良かったな。夕食も普通に食べたのに食べれると思わなかった」


 良かったのは味もそうだけど思わぬ副産物もあった。

 料理によって、ごく稀に良いバフが掛かることがある。

 今回かかったのは、三十分間の五秒につきHP総数の1%のリジェネ。

 瀕死に近くなっても約十分で全回復できる、かなりハイレベルなバフだ。

 見たところユリナにもかかっていたし、ミーム牛のハンバーグは確定でバフがかかったりするのかも。


「夕食といえば、先輩の家今日一人でしたよね? ちゃんと自炊したんですか?」


「しようと思ってはいたんだけど、面倒くさくなってインスタントにした」


「体に悪いですよ。ちゃんとしてください」


「とは言ってもなあ。男子高校生が一人で家でってなったら大抵簡単な物になると思うぞ」


「それでもダメなものはダメです。次回一人で家で食べる時は言ってください。何か作りに行きますから」


「え、でも手数になるだろ?」


「一人分くらい大した時間かかりませんよ」


 ……その後。

 手間より健康の方が気になる、と押しきられ次回は由梨菜を家に呼ぶことになった。

 その帰りはユリナを家まで送ることを条件につけるのを忘れないでよかった。




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