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委員長は恐ろしい



 フローラズ王国でのあれこれが一段落した翌日。

 湊の教室は着せかえショーが行われていた。

 なぜか着せかえショーかというと、茶道部の女子たちが「茶店なら和服でしょ! 和服が似合う人に対応をしてもらうわ!」と強行したからだ。

 女子は即座に別室に移動、向こうは向こうで着せかえが行われているらしい。

 目の前には、やっとの思いで慣れない和服に着替えて厳しい批評をされてる男子達がいた。


「ダメね。和服に着られてる感が強いわ。それに、どちらかというと洋風な顔つきだから似合ってない。次!」


 顔と合うかどうかくらい着せる前に察してあげろよと思わなくもないが、鼻息の荒い女子を前にしてなにも言えなくなっている。

 一度こうなると女子は止められないことを男子はよく知っているのでなにも言わない。

 それに、今のはまだ軽いほうだったりする。

 拓真の批評は、それはもう酷いものだった。


「拓真君、出直して」

「壊滅的に和服が似合わない」

「顔がむさ苦しい。サッカー部らしい暑苦しさしかない。爽やかさどこに捨ててきたの?」

「荷物運びまだ?」


 最後に至ってはもはや批評すらしていない。

 委員長を怒らせるとこうなるのか、とクラスの男子は震えた。

 ちなみに湊は拓真と正反対だった。

 普段から弓道部で胴着とか着てるだけあるね、とのこと。


 それからも、男子が着せかえられること三十分。

 結局男子のなかで選ばれたのは湊を入れて三人だけだった。


「というわけで、合格した三人には当日接客や客の目の前でお茶をたてたりしてもらいます」


「それはわかったけど、俺たち当然のごとくお茶のたてかたとかわからないぞ?」


「覚えて。ノウハウ叩き込むから全力で覚えて」


 茶道部面々のやる気が恐ろしいことになっていた。

 部活が、という言い訳は黙殺されたようだ。

 残りの男子はもれなく設営の手伝いその他雑用に決定、それぞれ三々五々に散っていく。

 その中、委員長が音もなく近寄ってきて耳元で聞いてきた。


「湊君、当日は当然このクラスに由梨菜ちゃんは来るのよね?」


「ん? シフト次第って事になってるな。お互いのシフトが決まらないとどうしようもないからな。決まり次第予定をたてるつもり」


「わかったわ。手は回しておくから必ず当日連れてくること。……チッ、予想はしてたけど本当にそんな約束をしてるなんて。まだ文化祭準備期間にも入ってないのに。リア充爆ぜろ」


「手を回しとくってどういうことだ? というか後半小声のつもりかもしれないけどバッチリ聞こえてるんですが」


「湊君が気にしなくて良いことよ爆ぜろ。それと、小声の一人言を聞くなんてマナーがなってないわね爆ぜろ」


 そのまま委員長は笑顔で去っていった。

 委員長を怒らせてはいけないと再確認できて良かった、というべきだろうか?

 それに俺はリア充じゃないんだけどな。


 その日の帰り際。

 どこかとしきりに電話をしていた委員長が俺の机にシフト表を置いていった。

 常に誰かに指示を出していたのにシフト表を作っていた委員長にはさすがと言う他ないだろう。



◇ ◇ ◇



 部活終了後の帰り道。

 俺と由梨菜は今日も二人で帰っている。


「先輩、なぜそんな明らかに危険そうな物を食べようとしているんです?」


「ん? いやさ、コンビニに新商品ってあって気になったから買ったんだよ」


 激辛四川肉まんなるものを俺は手にしている。

 さっき由梨菜とよったコンビニで見つけたのだが、なんか惹かれて気がつけば買っていた。


「物は試しって言うしな。いただきます」


 大きく口を開けてかぶりつく。

 一口目では予想通り外側しか食べられなかったが、見えるようになった具は赤と黒が混ざったどぎつい色だ。

 良い具合のピリ辛に気を良くした俺は二口目を食べる。


「大丈夫なんですか?」


「大丈夫もなにも、ピリ辛だぞ。結構美味しい。一口いるか?」


 由梨菜に肉まんを差し出す。

 だが、やはり見た目のインパクトが強いのか食べるのを躊躇しているようだ。

 少し迷っていたようだが、意を決して由梨菜がかぶりついた。


「~~っ!?」


 由梨菜は口を押さえて立ち止まってしまった。

 フリーズはつかの間、復帰した由梨菜は自分の鞄から水筒を取り出して勢い良く飲みはじめた。

 すこしむせてしまったようだが、話せるくらいには復活。


「あの、これ辛すぎるんですけど……」


「そうか?」


「わかりました、今度先輩に何か作るときは結構辛くします。それくらいでちょうど良いと思います」


「辛くするのか……。由梨菜の手料理は美味しいから普通のが食べたいな。俺は別に辛党じゃないし」


「なぜ辛味方面にだけ鈍感なんですか。先輩の舌がよくわからないです」


 雑談をしているうちに駅に到着。

 電車を待つ間も話は続き、文化祭の話へと変わった。


「先輩のクラスはどのくらいまで文化祭の準備進んでますか?」


「内装が決まったくらいだな。決まっただけで本格的に作るのには入ってない。ああでも、シフトは決まったぞ。帰りに紙を渡された」


「私も今日の帰りにシフト表渡されました。どんな感じです?」


 その場でシフト表を取り出して確認。

 全三日中、初日はどちらかが働いているときにもう片方は休み。

 それ以外の日は同じ時間が休み、と完璧に噛み合っていた。


「これなら初日はお互いのクラスに行けるな」


「それ以外の日はどこかで待ち合わせて一緒に、でいいですか?」


「そうするか。んじゃ、当日また連絡取り合うで間に合いそうだな」


「そうですね」


 文化祭の日の立ち回りは決定。

 問題なく回れそうで良かった。

 二人ともがシフト表を鞄にしまい直した所で電車が到着、乗り込んでからも会話は続いた。


 しばらく電車に揺られ、湊が降りる駅が近づく。


「それでは先輩、また後で」


「何時頃ににダイブするかはまた連絡するよ。んじゃ、気を付けてな」


 今日はフローラズ王国を出る事になるだろう。

 次はどうするか、思考を巡らせながら帰り道をあるいた。



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