帰り道、とりあえず予約はできたみたい
「わ、私にですか?」
「ああそうだ。頼みたいと思っているのだが、何か不都合あるかね?」
ユリナの最初の言葉は困惑。
まあ、確かにものすごく似てはいるけど。
戸惑うユリナに、ロザノフさんが話を続ける。
「お願いしたいのはたったの三日間だ。三日間、この王国では恒例の国をあげての式典が開かれる。その間をぜひお願いしたい」
完全に困り、俺のほうを見てくるユリナにアイコンタクトで伝える。
ユリナのしたいようにやってみな、と。
そしてユリナは少し考え、結論を出した。
「わかりました! お姫様やってみます!」
「おお、ありがたい。そういえば聞き忘れていましたな、お名前はなんと?」
「ユリナです」
「了解しました。ユリナ嬢、よろしくお願いします。隣にいる方も、」
ロザノフさんが俺の方を向く。
そして、心底楽しそうに続けた。
「ユリナ嬢の近衛をぜひ」
「俺も巻き込まれるのか!? しかも近衛、いまいち偉くない!」
執務室に少し笑いが漏れる。
まあ、そんな流れでしばらく城で厄介になるようです。
由梨菜の部屋も用意してもらえるらしい。
「お姫様かー……楽しみです」
「公務だからあまり楽じゃないと思うけど、頑張れ」
「そういうこと言わないでくださいよセンパイ!?」
まあ、実際問題公務をユリナはするんだよね。
内務なら代役の人いるけど、公務だと人そのものの代替えはできない。
よって、ユリナが任されるのは公務。
顔が似ているからこそできることといえば、必然的にそうなる。
毎回大筋は似ていても公務の内容は変わるので、それが面白いところだ。
今回は色々な貴族の集まるダンスパーティーが三日後にあるらしい。
「ではユリナさん、ダンスレッスン頑張りましょうね?」
「はいっ!」
金髪をアップでまとめたダンスの講師がユリナに告げた。
元々それなりの貴族の出のユリナなら、そこまで苦労せずに覚えられるだろう。
「頑張れよ、ユリナ」
「ああ、近衛もですからね?」
「えっ? なぜです?」
「娘や息子を見せつけあって品評したり、他の家と顔を繋いだり、近衛の優雅さと逞しさを見せつけるのがダンスパーティーの目的ですから。階級が下の家ならば近衛は控えているだけでもいいのですが、それでも誘われれば踊らなければなりません。ましてや姫の近衛ですから……」
というわけで。
近衛らしく、礼儀鎧を着たまま踊るはめになったのだが。
……まさか、猛烈なダンスレッスンが始まると思っていなかった。
しかも、ダンスに関するスキルを覚えると指導が四割増しくらいで厳しくなる。
私は隠蔽スキル鍛えてますね、と由梨菜はそそくさといなくなった。
まあ、由梨菜は由梨菜でなぜかああいう踊りもできるんだけどさ。
◇ ◇ ◇
昼飯を終え、眠くなる午後。
教室は騒がしさに溢れていた。
「と、いうわけで。今年の出し物は茶店になりました」
委員長の言葉でクラスに拍手がまき起こる。
そう、俺のクラスの文化祭の出し物が決まったのだ。
拓真が怒られたり、先生が退屈すぎて寝たり、と色々ありはしたが。
結局、クラスに珍しく五人もいた茶道部の面々の推しにより茶店になった。
簡単な和菓子を作ったり、お茶を出したりする。
材料は、茶道部の中にいた和菓子屋の子によって集められる。
そのお金はクラス費から出るらしい。
メインの応対は茶道部メンバー、教えるなかで上手な子が担当する。
あとは当日の裏方、しこみ、呼び込みだ。
よって、遊べる時間は長そうだ。
本来一緒にまわる予定だった拓真は、委員長を怒らせたため資材運びに忙殺されるのが決定。
南無。
……そういえば、由梨菜のクラスは何になったのだろう?
当日まで秘密、と言われたからわからないけど。
部活が終わり、駅に向かう。
「先輩のクラスは何になりました?」
「茶店。俺は裏方か呼び込みじゃないかな。時間はありそうだし、いろいろまわれそう」
「そうですか。シフトまではさすがに決まってませんよね?」
「まあ、さすがにまだ決まってないな。そっちは?」
「……こちらも、何にするかは決まりました。シフトはわかりません」
まあ大方予想通り。
なぜか由梨菜はため息をついているが、どうしたのだろうか。
「あの、先輩。シフト決まったら教えてほしいです」
「ん、いいけど来るの? 裏方かも知れないぞ」
「裏方なら裏方で良いので。シフトが決まったら知りたいです」
由梨菜がここまでお願いをしてくるのは珍しい。
でもまあ、シフト教えるくらいならいいんじゃないかと思う。
「由梨菜も決まったら教えてくれる?」
「く、来るんですか?」
「当日まで秘密って言われたから気になるし。あと、できたら一緒にまわりませんか」
「どうして先輩が敬語になるんです。……良いですよ。こっちもシフトわかったら言うので」
言い方が悪いけど、予約はできた。
あとはシフトが合うのを願うだけ。
「合うと、いいですね」
「そうだな。まあこればっかりは運次第だからなー」
そうこう話しているうちに駅についた。
AWLにログインする時間を相談して別れる。
「それでは先輩、また後で」
「おう。気を付けてなー」




