露店道にて、巻き込まれる。
「よし、ついたな」
「わー、おっきいですねー!」
ユリナが歓声をあげる。
木々の遮りが無くなり、大きな城が見えた。
モンスター用の防壁のせいで全容が見えるわけではないが今でも充分な存在感を見せている。
ここがフローラズ王国だ。
「センパイっ、はやく中も見たいです!」
「だな。よし、そろそろ入るか」
門の前にいる衛兵に近寄る。
確認その他を受けて城下町への門をくぐった。
途中にいたミノタウロスは由梨菜が即殺した。
雰囲気に合わせて全力疾走をしたはいいが、わりと早くに飽きた。
立ち止まって振り返り、突進してくるミノタウロスの額に由梨菜がファイアージェムという魔法を撃ち込んで終了。
とりあえず、ラミュータからフローラズ王国までの間に手に入れたモンスターのドロップ品を売りに行く。
「ミノタウロスの角はどうするんですか?」
「今のところ使う予定も無いし、売るかな」
三人とも武器はロングソード。
ミノタウロスの角は、できてもダガーが精一杯なため売り払うべきだろう。
買い取り所で売り払う物を見せていく。
まあ、ほとんどがラミュータの森と同じだから道中のドロップ品はほとんど売ることになるんだけど。
最後に見せたミノタウロスの角は良い値がついた。
いまから行く露店道での軍資金になるだろう。
買い取り所から街の中心部に向かう。
買い取り所があるように、休憩所や小物の露店は既にちらほら見えるが中心部はこれほど小さくない。
「やっぱり、出入り口近くにポーション屋とかはあるんですね。中心部にはどんなものがあるんですか?」
「すぐ着くからお楽しみに。もう少しいけば声も聞こえてくると思うよ」
馬車などの大型なものも通りやすいように幅広く造られた道を歩いていく。
だんだんと民家も見えるようになった頃、商人たちの声が聞こえた。
そして、角を曲がった所で目の前に露店道が始まった。
左右に店がならび、民間人も商人が入り交じってそれを見ている。
人に隠れて見えないが、ずっと奥までこの露店道は続いている。
「さてさて、行きますか」
「はい! どこから見るか迷います!」
そういいながらも、ユリナの目は手前の串カツ屋に張り付いていた。
腹が減った時のあの匂いは確かに魅惑的だ。
とりあえずはユリナの思う通りに動こうと思う。
この後は忙しくなるし、今は自由時間だ。
◇ ◇ ◇
「むー、これは難しいですね」
「まあ、そういう物だしなぁ」
露店道の中に、雑貨や小物をたくさん取り扱っている店があった。
そこで見つけた知恵の輪にユリナが挑んでいるのだが、一向に進んだ様子がない。
ちなみに今は小休止として露店道にある噴水の近くで休んでいる。
三人で並んで座っていて、俺が真ん中でユリナが右、由梨菜が左。
開始してものの五分も経たずに由梨菜はひとつ目をクリアしていたのはナイショだ。
……さて、周りが騒がしくなってきた。
この後の展開を俺と由梨菜は知っているだけに、少しばかりため息もでる。
普通の街人NPCがこちらを指差しながら何事か話していると、その人並みを割るようにして衛兵と思われる武装した人が二人出てきた。
同じようにこちらを見ながら話し合っている。
その頃には俺と由梨菜は知恵の輪を片付けて飲み物をチマチマ飲んでいるくらいだ。
そして、ついに衛兵二人が近寄ってくる。
「すまないが、少し良いだろうか。そこのお嬢さんの顔を拝見させていただきたい」
「何です、あなたたちは?」
知っているがそれでは話が進まないから通常通り進める。
俺が応対はしてるが二人の視線はユリナに釘付けだった。
「そのお嬢さんがこの国の第一王女に似ているという噂がたってな。大きな声では言えないが、今朝から第一王女のお姿が見られないらしい。だから少し確認させてもらえないだろうか」
「ストレートに言うのは良いですけど、何か証明できる物はあるんです?」
衛兵は二人とも懐から刻石衛士証を取り出した。
そこに刻まれた紋章はたしかにフローラズ王国の物だ。
つまり彼らは、国から認められた騎士団のメンバーの一人ということだ。
まあ、この流れは毎回しているし彼らがちゃんとした衛兵なのも知っている。
だが、AWLは"もしも"がないゲームじゃないしな。
「ありがたい。今から騎士団の本部にお連れします。団長まで通されると思います」
「了解。ほら二人とも、いくよ」
「す、少しだけ待ってください。もう少しで知恵の輪が解けそうです」
「……後でもできるから。とりあえず行こうか」
むむむっ、と知恵の輪とにらめっこしているユリナを促して連れていく。
ようやく今思い付いたのでは解けないとわかったのか、ユリナは悔しそうにしていた。
◇ ◇ ◇
「わー、おっきいですね」
「まあ、この王国全体にいる衛兵とかの本部だしなぁ。ラミュータよりは大きいだろ」
軽く市民体育館ほどの大きさのある建物。
その門の両脇と屋根の上には像がたっている。
鎧を纏い、大剣を構えた天使。
平和と正義の象徴、戦乙女の像だ。
「どうぞお入りください。既に団長はおります」
「はい」
案内役の騎士に連れられ建物の中をあるく。
そして、大きな扉の前で立ち止まった。
騎士が扉をノックすると、すぐに返事があった。
「ケウラスです。お連れいたしました」
「入ってくれ」
「どうぞ、中へ。私は入れませんので」
案内役の騎士さんことケウラスさんはそこで去っていった。
案内役を任されるくらいだし階級は上の方だと思うんだけど、この執務室には入れないのか。
そう思いつつ扉を開ける。
中には、銀髪で彫りの深い顔の男が待っていた。
「急に呼び出してしまってすまない。フローラズ王国騎士団長のロザノフだ。緊急の事があった、ということで急かせた事については許してくれ」
「はあ、それは良いですけど。なんで呼び出されたのです?」
「それはだな。そちらのお嬢さんの方に用があるんだ」
ロザノフはユリナを視線で示す。
もちろんその意味がわかっていないユリナは首をかしげた。
「聞いたかもしれんが、今朝から第一王女のお姿がみえない。そして、置き手紙が残っていたそうだ。内容は……"しばらくカルティアの王子様と遊んできます"と」
「隣国の王子ですか。……となると、気にさせないために置き手紙を残して第一王女様は逃走されたということですね?」
「そうだ。逃走というと少し違うな、お遊びに出掛けたのだ。少々おてんばで有名なのだが……今までに抜け出されたことは無かったから油断していた。大目玉をくらい、同時に全力で探しているのだが、尻尾すらつかめない」
もしかしたらロザノフさんの苦労性な感じの顔は、王女さまがおてんばだから、だったりするのだろうか。
逃げ出したのならそれを見つけるのは衛兵の役目で、それの統括をしているのがロザノフさんだからな。
その影響が既に色々とある、ということを告げられた。
そして、本題へと流れが移っていく。
「実は、ほんと数日後に第一王女様の出席なさる予定のイベントがあるんだが……今までの傾向からして、間に合うかが非常に不安なんだ。第一王女様の気分がすんで戻ってくるのが恐らく間に合わない」
そして、ロザノフさんが決定的な一言を告げる。
「──だから、第一王女の役としてパーティに出ていただけないだろうか? 第一王女様にとても似ているのだ、そこのお嬢さんは」




