祭りの街をあとに
ガヤガヤとうるさい教室。
黒板にはいくつかの案が出ているが、まだ出し足りないらしく話し合いをしている。
まあそんな教室は大抵数分後には単なる雑談場になるわけで。
「はいはーい、静かに。文化祭に関係のない話はしないでね。で、案は何か出た?」
「休憩所とかは? 絶対楽だぞ!」
「却下。というかそもそも生徒会がそれは禁止してる」
元気系男子が答えるも委員長の前には撃沈。
丸眼鏡を外せば美人との噂のある委員長の視線に睨まれた元気系男子は慎んで着席した。
「なあ湊。何か思い付いたか?」
「思い付いてる顔に見えるか?」
「見えないな」
俺と拓真も案なし。
去年と同じお化け屋敷で良いじゃないか、と思わなくもない。
だけど、それだと仮装が可愛くないと女子が騒ぐ。
「姫城ちゃんとこは?」
「まだ決まってないってさ。決まっていても当日まで秘密、って言われた」
「……知らないだろうと思って聞いたのに、その辺の話はちゃんとしてるんだな。ちくしょう」
後輩の子と文化祭について話しているのが悔しいらしい。
よくわからないけど、とりあえず精一杯のドヤ顔を返しておいた。
「ドヤるなニヤつくな!」
「こらそこー! 拓真君、何か案出しなさい!」
委員長の逆鱗に触れたらしい。
南無。
とりあえず手を合わせておいた。
◇ ◇ ◇
ダイブ特有の軽い浮遊感がゆっくりと終わっていく。
ベッドで横になっている体を起こした。
「さてさて、今日も攻略を始めますか」
「そうですね。今日は次の街に行くんでしたっけ?」
「そうだな。由梨菜より早く来たつもりだったのに負けたかー」
「サクサク課題が終わったので。そんなに差はありませんよ」
ならよかった。
俺も簡単にアイテム整理をするためにメニューを開く。
セーブをするためにベッドに寝転ぶ時にものすごく気になる装備品の着用は後回しにして、要らないものをピックアップしてまとめた。
今日はここラミュータをでて次の街に行く。
ここまでの街は、大きめだが単なる街だった。
だが、次の街は全然違う。
「次は、フローラズ王国ですね。今回のお買い得店はどこでしょうね」
「それを探すのが醍醐味じゃないか?」
「それもそうですね」
フローラズ王国。
街とは違い、それなりに高い石塀に囲まれた活気のある街だ。
商店通りがあり、攻略の度にお得な店が変わる楽しい所でもある。
それを探すためにも早く行かなければ。
俺と由梨菜はラミュータの宿屋を出た。
『出逢いの鈴』でユリナを呼ぶ。
いままで着けていた軽い鎧を前より重めの物にかえたため、見た目が少し新鮮だ。
「ユリナ、ラミュータは今日でおしまい。今から次の所に行くけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です! ポーションとかも買ってきました!」
よしよし、準備OK。
こうやって確認しないと、稀に装備品の耐久値がほとんどなかったりポーションなどの必需品を全然所持していないことがある。
AWLは変なところが凝っているから、知られていない仕様はまだまだありそうだ。
「次に行くのは、今までの街とは違ってかなり大きいからね。それに少し遠いから集中力を切らさないこと」
諸注意をし、ラミュータの門に向かう。
こっちの門は、来たときの門と違い年がら年中お祭り騒ぎをしている訳ではない。
門番もどこかお祭りを感じる色なだけで普通。
門が近づいてきた。
衛兵がこちらに気がつき、道中の注意と外に出る人へのお決まり文句を言ってきた。
「ここからフローラズ王国に向かうんだよな? 道は簡単だ、まっすぐ行くだけ。ラミュータの森と似たようなモンスターしかでないし、気をつけてさえいれば問題ないぞ」
「ありがとうございます」
「ラミュータに寄った記念にハチマキ買ってかねぇか?」
「お断りします」
装備効果、攻撃力と回復力の微上昇。
装備できるのは頭限定の紅白ハチマキだが、俺のアバターには合わないらしく由梨菜にやめておいた方がいいと言われたものだ。
せめて腕輪風にできるなら考えたんだけどね。
いい歳のおっさん衛兵がいじけているのを尻目に門を出て森に向かう。
ラミュータの性質をわずかに受け継いだのかひび割れもあるが、基本的に緑のきれいな森だ。
「すごく木が青々としてますね」
「まあ、AWLの中は外と季節を合わせてないからなぁ。行事事ではイベントが起きて季節が合う、なんて話も聞いたけどな」
リアルの季節はもう秋。
だが、目の前の森の葉は完全な緑。
季節感覚がおかしくなりそうだ。
しばらく歩いていると、ユリナが質問をしてきた。
「先輩、衛兵さんはラミュータの森と同じモンスターって言ってましたよねー?」
「そうだな。基本的には同じだよ」
「じゃあ、あそこにいるいかにもモンスターです! と言いたげなフォルムはなんでしょうか?」
指差す方向を見る。
身長は三メートルを越える長身。
毛皮のない上半身は筋骨隆々としている。
頭からはいかにも固そうに黒光りする角をはやしていて。
「あー、えっと。森が近いから似たようなモンスターがでるけど、やっぱり違いはあるんだよね」
ユリナはヤバそうな雰囲気を感じとり、そのモンスターをじっと見つめる。
既に知っている由梨菜はゆっくりと後退を始めた。
「あれはミノタウロス。今の俺とユリナではあっさり負けてしまう、この森のレアモンスターだよ」
「え、いま猛烈に走りながらこっちに来てますけど……?」
全員同時に後ろを向いてダッシュ開始。
今日中にフローラズ王国にたどりつけるのか不安になった。




