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番外編 後ろの二人



 ただ今、四時間目の授業中。

 俺こと篠沢拓真は、現在眠気と奮闘中。

 数学教師の声は子守唄にしかならねえな……。


 暇に思い、何とはなしに隣の席を見る。

 そこには、教師に隠れてスマホをいじる湊の姿があった。

 今日は一日中どこか暇があると何かを調べている。

 気になって聞いてみたところ、こいつがやっているVR恋愛シミュレーションゲームのAWLとやらで気になることがあったらしい。


 AWLといえば、と湊経由で一人の後輩の顔を思い出した。

 姫城由梨菜。

 綺麗な黒髪を肩甲骨の下辺りまで伸ばしている、そこいらのモデルでは到底敵わない美少女だ。


 可愛い後輩に慕われるなんて羨ましい。

 ちくしょう、俺も誰かいねぇかな……と思いながら、腕枕に頭を下ろす。


「んじゃ、次の問題は……よし、そこで寝ている篠沢だな」


 せめて寝かせてくれ。

 大学入試問題なんか解けるわけないだろこのヤロー。


 すみません分かりません、と答えてから説明を聞いて順番に解いていく。

 その時にふと思った。


 湊はいつも姫城ちゃんと昼飯をとる。

 なら、二人っきりの空間に割り込んで邪魔してやる。


 まあ、邪魔と言っても二人きりにさせないようにするだけだがな。

 悪い笑みが出たのがわかった。



◇ ◇ ◇



 四時間目に思い付いた通り、昼になると同時に財布を持って湊を追う。

 だが、湊は弁当派だから席に直行だ。

 俺も弁当はある。

 でも、朝練とかのせいで腹が減り早弁によって消える。

 購買で適当な食べ物を見繕いにむかう。


 いつも通りカレーパンかな、これは。


「あれ? 拓真先輩?」


「ん? ああ、加奈ちゃんか。そっちも購買?」


 安土加奈。

 湊、姫城ちゃん経由で知り合った後輩だ。

 元気なショートヘアーが今日も少しはねている。


「そうなんですよ~。いやあ、恥ずかしいことに早弁してしまいまして。弁当がとっくにお腹の中なのです」


「俺もその口だよ。まあ、俺の場合は毎日そうなんだがな!」


 流れで加奈と一緒にお昼を選ぶことになった。

 案の定争奪戦が行われた牛丼はとっくに完売していて、これは今年度も食べられないかな、と思う。


「そっちは何食べるんだ?」


「んー、このスタミナカレーパンというのが気になりますね」


「スタミナカレーパン? 何だそれ」


 購買に通い続けて一年半。

 早弁を耐えたのはわずか半年という記録のもと、現在も延び続けている記録の中でもそのパンは見たことがなかった。

 普通のカレーパンより色が濃く、袋越しに匂いが漂ってきそうだ。

 量も三倍近くあるように見える。


「なんかそれ凄そうだな」


「ですね。よっし、これにします」


「え、食べきれるのか?」


「たぶんキツいですね。なので一緒に食べませんか?」


 色合いといい、このスタミナカレーパンには惹かれる。

 だが、今日は湊達を邪魔しに行きたい。


「オーケー。代わりに、食べるところは湊たちの所にしよう」


「いいっすね。カレーの匂いで攻撃っす」


 加奈はすぐに意図を察した。

 ニヤリと笑っている。俺も似た顔をしているだろう。


 俺がスタミナカレーパンを買い、先に二人の席にむかう。

 代わりに加奈には飲み物を頼んだ。


 俺が座り、加奈が追い付いて座ると同時に湊が声を漏らす。


「……で、いつの間に二人は来た?」


「拓真先輩、湊先輩こんにちはです!」


「なんか勘が湊と食えと言ったんだ」


 湊が呆れた表情だ。

 加奈にも同じ質問をし、加奈が俺の返答を真似した。



 その後は、結局スタミナカレーパンの匂いに動じず二人は話し始めた。

 思ったより効果がなかったと言うよりは、全く効果がない様子だ。

 悔しいので加奈と二人でスタミナカレーパンを綺麗に半分こし食べる。


 だが、やはり通常の三倍は二人で分けても多かったらしい。

 俺と加奈が食べ終わる前に湊と姫城ちゃんは戻っていった。


「拓真先輩、あの二人って仲良いですよね」


「そうだな。思わず湊の顔面殴りたくなるくらいに仲良しだな」


「登校は一緒にしてる、部活も同じ。いつも二人でお昼ご飯。しかも、由梨菜ちゃんは湊先輩に唐揚げ作ってきてました」


「なあ、あの二人って本当に付き合ってねぇの? ものすごく疑わしいんだけど」


「湊先輩が由梨菜ちゃんの返事を待っている状況ですね。付き合ってはいないです」


 もちろんの事、姫城ちゃんを狙う上級生も同級生もいたらしい。

 事実としてこの半年の前半に姫城ちゃんは多数告白されている。


 だが、毎日毎日一緒に登校してお昼ご飯を二人で食べるようになってから、それが止まっているのを湊は知っているのだろうか。


「はあー、湊のやつは後輩と登校してるのに俺は早すぎる朝練に毎日眠い。この差はなんなんだ」


「あ、拓真先輩が眠そうにしてるのって朝練が早いからなんです?」


「そーだよ。朝っぱらから一人電車にのって部活に行き、むさ苦しい男どもと汗だくだ」


 せめて、マネージャーでもいたら男率が減るのに。

 朝見るのが男百パーセントとか、萎えるのも無理はないだろう。


 加奈は、何か思案するように目を伏せている。


「あの、拓真先輩」


「ん?」


「朝、一緒に登校しませんか?」



◇ ◇ ◇



「あ、おはようございます拓真先輩っ」


「おはよ加奈ちゃん。朝から元気だな~」


 朝早くの電車の中。

 早すぎて他に誰も乗っていない車両で、他人がいないのはこれ幸いと普通の声で話す。


「まあ、初めてこの時間の電車に乗るので。毎日続くと思うと、さすがに辛いですよね」


「俺、朝練ふくめ日曜日以外オフ日ないよ? 一緒に登校はやっぱりキツくないか」


「まあ、早く着いたのなら部室で予習でもしてます。あの二人の勉強会に乗り込むのに、ずっと由梨菜ちゃんに教わってばかりじゃ申し訳ないですから」


 ふんす、とやる気を見せる。

 そのやる気がいつまで続くやらと無遠慮に考えながら電車に揺られた。

 加奈のくせ毛が揺れに合わせてぴょこぴょこ跳ねるのが面白い。


「先輩、朝練はどんなことをするんです?」


「柔軟とか、基礎トレだな。寝ている体を起こせと走らされることも多々あるけどな」


「朝から走り込みですかー。女子テニスのモットーは楽しくやろうなので、そういうことは全くないですよ」


「相変わらず緩いなぁ。テニスコートの近くにいくといつも話声が聞こえるもんな」


 そんな他愛のない話が続き、学校の最寄り駅に到着した。

 改札をでて、ゆるゆると歩いて学校に向かう。


 普段なら、半分寝ながら歩いている道が今日は短く感じた。

 この様子なら朝から走り込みをやらされる事も無さそうだ。


「拓真先輩」


「ん?」


「たしか、放課後の部活が終わるのも似たような時間でしたよね? その、一緒に帰りませんか?」


「お、良いな。あーでも待ち合わせはどうする?」


「連絡とれないと面倒ですよね。連絡先交換しましょうか」


 邪魔にならないように、道路の端によってお互いのスマホを向けあう。

 赤外線で連絡先を交換し、ついでに通話・連絡アプリの方も交換しておいた。


「では、終わった方は正門前で合流でどうでしょうか? お互いの具合はその都度連絡取り合いましょう」


「オーケー。んじゃ、部活頑張れよー」


「私は予習ですよ。先輩こそガンバです!」


 それぞれの部室に向かう。


 拓真はこの日、しっかりと目が覚めた状態で体を動かせたため先生に誉められたという。


 そして、加奈は部室につくと同時にスマホを見つめたまま固まっていた。


「加奈~、ナニにやにやしてるの~?」


「し、してないよっ! ってか早いんだね」


「何いってるの? いつも通りの時間だよ?」


 あ、もうそんな時間になってたのか……。

 全然気がつかなかった……。


 急いで着替えてコートに向かう。

 帰りが待ち遠しいな、と思いながら。




次回からまたいつもの二人です。

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