食事の時に
ターコイズソーンを倒した後、俺たちは歩いて街に戻った。
討伐で疲れはしていたが、由梨菜のお陰で体力は満タンだった。
そのせいかシャルムさんが一旦休もうと言うこともなく、ドロップアイテムとしてその場に残った物を拾い上げたそのままの流れで歩く。
帰りにであったモンスターは軒並み由梨菜が即殺したとはいえ、足場の悪い道はとどめを刺しに来ている気さえする。
帰り道を歩きながら調べた情報では、ドロップアイテムのターコイズソーンの刺と蔦はなかなかに使えそうで良かった。
ひび割れた道を歩き、ようやく騎士の宿屋についた。
だが、もう少しだけイベントがあるのかシャルムさんの部屋に直行する流れになった。
「すまないな、三人とも。とても助かった」
「いえいえ。乗りかかった舟ですし」
「これで神隠しに怯える事も無くなる。見回りのポイントは増えることになるが、守るためなら苦労は厭わない」
変更すべきポイントも見つかったしな、と続ける。
最低でも二人一組で動くこと、危なくなったらすぐに知らせること。
練度が落ちているのかもしれん、叩き直す、と口端を歪めるシャルムさんをみて心の中で騎士達に合掌をした。
「そうだ、お礼をせねばならんな。何か欲しいものはあるか?」
「欲しいもの、ですか」
「あいにくと見ての通り殺風景な騎士の宿屋だ。何かを渡すには時間がかかってしまうが、できるだけの事はする」
何かしらないかと探そうとし、動きが止まる。
レベルが低いため、上級の装備を貰っても確実に持てあますだろう。
かといって消費アイテムをねだるのもなにか違う気がする。
思い浮かばず、三人とも悩んでいるとシャルムさんが助け船をだしてくれた。
「そこまで悩むのならば、一つ良いものがある」
引き出しから三つのアクセサリーをとりだした。
磨かれた親指ほどの宝石にシンプルな装飾をしただけの簡単な代物だ。
シャルムさんは、そのアクセサリーのうち一つを裏返し見せてきた。
「ここに私たちの騎士団の紋章があるだろう。これがあれば、私たちと提携している騎士団の施設に出入りすることができる。何か困ったことがあり騎士団の手を借りたくなった時は迷わず使うといい」
わかりやすく言えば、騎士団の通行パスなのだろう。
普通はもちろん騎士団関係の施設には入ることなどできはしない。
だが、これを見せればある程度の融通が効くようになる。
特別なアイテムということで、俺自身のなかでは答えが出た。
横目で確認をすると二人も問題はなさそうだった。
「じゃあ、お言葉に甘えてもよろしいですか?」
「よし。他の騎士団にも、大雑把な人相などを伝えておこう。下手なトラブルに巻き込まれる様なことがあれば私の名前をだしてくれたらいい」
それからは簡単な話だけをしてそれぞれの宿屋に帰った。
宿屋が近くになり、ユリナが別れる。
由梨菜と二人で宿屋に泊まり、セーブをしておいた。
「珍しいイベントだったな」
「そうですね。まさか騎士団の通行証が手に入るとは思ってもいませんでした」
「ターコイズソーンのドロップアイテムも優秀だったしな。なかなか良い寄り道だった」
気がつけば、リアルの時間が零時を回りかけていた。
遅くなったことを由梨菜に詫び、別にいいですよ、と返してくれた。
由梨菜がログアウトする。
その後、一人で宿屋のベッドに寝転びながらウインドウを眺めていた。
何となく気になってユリナの親密度ゲージを確認し、驚く事になるとは思っていなかったが。
◇ ◇ ◇
翌日の昼休み。
学校のフリースペースの様なところで由梨菜と合流して一緒に昼御飯を食べる。
今日はいつもとは違い、着いたときには普段使っている窓側の席が全て取られてしまっていた。
仕方なく四人がけの机に座る。
「……で、いつの間に二人は来た?」
「拓真先輩、湊先輩こんにちはです!」
「なんか勘が湊と食えと言ったんだ」
四人がけの席に、俺からみて右側に由梨菜。
左に拓真、そして向かいには安土加奈という由梨菜の友達が座っていた。
安土さんはテニス部の元気頭らしい威勢のよい挨拶だ。
「由梨菜、安土さんはなぜ来たんだ?」
「勘だそうです」
「そうか。もう何もいうまい」
拓真と安土さんはやはり抱き合わせで良いと思う。
それはさておき。
勝手に話始めた拓真と安土さんはもはや無視する方向で決め、由梨菜に昨夜の話をふる。
「昨日由梨菜がログアウトしてから一つあることに気がついたんだ」
「どうしました?」
「何となくユリナの好感度メーターを確認したら、今までこの段階では進んでない数値になっていた」
AWLでは、ウインドウから自分の攻略しているヒロインの好感度を見ることができる。
最高数値は百だが、ヒロイン毎に攻略に必要な数値が違うらしく数値のみで攻略可能かは一概に言えないらしい。
今までユリナを攻略した時にはこの時点ではまだ一桁台だった好感度が、昨夜確認したら既に十二。
いつ伸びたのかわからない。
「ふむふむ、どこで伸びたんでしょうね。あのイベントが関係あるのでしょうかね?」
「うーん、あれは騎士剣を拾ったから起きた突発イベントだと思うんだけどなぁ。でも、好感度が伸ばせるタイミングってあのイベント中しかないよな」
「そうなんですよね。とりあえず、どこかに記録しておくとよいかもしれませんね」
考えたくはないが、もう一度ループする可能性もある。
どのように動いたら発生したか、くらいは書いておくべきだろう。
話ながらも弁当が進む。
うーむ、何となく量が足らなさそう。
「イベントとかでどれくらい好感度が変化するかはわからないけど、できるだけ拾っていくべきかな」
「拾うべきかと。何か面白いアイテムが手に入る可能性も充分にありますから」
昨日のイベントで言えば、ターコイズソーンの蔦や騎士団の通行証だろう。
ターコイズソーンの蔦は、調べたところ割合でダメージを反射する防具になるらしい。
どのくらい役立つかはわからないけど有効ではある。
結論としては、今までよりさらにじっくりとプレイをするという事になった。
結局騎士のイベントも発生条件がわからなかったし、そういうものがこれからもあると思うと当然だろう。
「あの、先輩」
「ん?」
「昨日作ってほしいと言っていたので、唐揚げ作ってきました」
「おお! ありがとう!」
由梨菜が小さいタッパーを開けば、そこにはきつね色の唐揚げたち。
何気なく発したお願いだったけど、まさか即日叶うとは思っていなかった。
相変わらず、持ってくる時間があるはずなのに噛むたびにしっかりと旨味がでてくる。
しかも今回は特製のタレもかけてありまさしく絶品だった。
気がつけばタッパーの中は空になっている。
だが、ここまでの品を食べるとやはり更なる希望が出てしまうわけで。
「次は出来立てを食べてみたいなぁ。他の料理とかも是非」
「で、出来立てですか……?」
「あ、大丈夫。心の声が漏れただけだから」
「わかりました、考えておきます」
由梨菜が言いながら照れくさそうに席をたつ。
まさかOKしてくれるとは思わなかったので一瞬固まってしまった。
ここから階段まで一緒に行くのがいつものパターンだから、とすぐに追い付く。
思わず不安になりもう一度聞いてしまう。
「え、本当にいいのか? 手間だろう?」
「いいですよ。勉強会の時にでも作ります。その時はできたての唐揚げを楽しみにしていてください」
次のテストが待ち遠しくなるのは初めてだった。
階段の前につき、別れる。
「ではまた、放課後に」
「午後の授業寝そうだよ」
「夜にしっかり寝てくださいね。それでは失礼します」
由梨菜は階段を上って行った。
午後の授業も頑張れそうだ。
これでとりあえずの一段落。
次話はいまのところ番外編予定です。




