大魔王様剣術に挑む
――アメラ連邦王国――
「報告が参りました」
「ふむ、よこせ」
報告書を受け取ったのは先日即位したばかりのフランク一世である。父よりも聡明で優れていた為に、自ら王宮ではなく領地経営していたという変わり者である。
「おい、これでもまだ戦争したいのか」
「聖戦で御座いますれば」
「やるならば教会だけでせよ、
この報告書を見ても考えが変わらぬ馬鹿共と心中はせんぞ」
「国王陛下、お言葉が過ぎますぞ」
「ではモルセ大司教よ、貴様に問おう。
山を10個も吹き飛ばす相手を貴君らはどう倒すのだ」
ちょうどスイペン王国からの密偵によって報告された内容は衝撃的なものだった。
たった数日で地形が大幅に変化したと報告にあったのである。しかも実物は確認していないが大魔王が降臨したとまで言われている。
「その報告書、貴様も読んだのであろう」
「陛下、このような話はまやかしで御座います」
「ふむ、ならばまやかし相手であれば教会だけで事足りよう」
「ぐ…」
「なにユイキス教に手助けしたい貴族まで止めぬさ。
存分に戦われるが良い、土地も我等が起こす戦争では無い、其方で分けるが良いだろう、話は以上だ、解散」
このフランク一世、なかなかに強かな男である、
貴族の強い連邦国家ではあるが国王フランクの支配が及ぶ兵は動かないのだ。
となれば必然として反国王派、独立派などが教会と共に戦うだろう。
魔族が強ければ粛清に繋がり、勝ったとしても税は取れるのである。
しかも報告を信じるかぎり現在のスイペンは強いのだ。
「くそ、王位の選定を誤ったか…」
それまで一応ユイキス教会へと寄付もしていたフランクを見誤ったかと大司祭は毒づいた。
聖戦をしなくては、そして我等の力を増やさねばならぬ!
ユイキス教からの檄文が送られたのは会見の次の日からであった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「フランク、貴方は父上の仇を取らぬのですか」
「母上、仇と申されても父上が騙されての事です。
そもそも魔界へ侵攻する意味がありません」
「ユイキス様への信仰は魔族を滅ぼす事ではないですか」
皇后となったカトリーヌは、息子が父親の仇を討つために兵を挙げると考えていたのである。
しかしながら息子からの返答は冷めた物だった。
「母上、ユイキス教の司祭から何か言われませんでしたか」
「何かとは…」
「そうですね、例えば魔族が原因で死亡した。
魔族がいれば国が滅びる。
まあ、そのような事ですよ」
「確かに、司祭からはそのように報告を受けました」
「私の調べた結果とは違いますね。
必要の無い勇者召還魔術を失敗し、
魔方陣が爆発したと報告をされましたが」
「それでは妾が騙されていると」
「ええ、部下に命じて私はその場に居た術師を尋問させました」
「じゃが……あの人は死んだのじゃぞ」
「罪は必要のない戦争を起こそうと企む教会にこそ御座います」
「兄上は必要ないとお考えですか」
「うむ、必要ないな、ヴィヴィはどう思ってるんだい」
「私は強き者がおれば立ち会いたいとは思いますが…
戦争は多くの者を失いますから反対です。
しなくても良いならばそれに越した事は無いでしょう」
「ならばヴィヴィに頼みがある」
「私にですか」
「そうだ、第3王女としてね」
「第一騎士団の将ではなく、王女としてですか…」
「まあ、ヴィヴィだからこそ頼める無茶な話だけど、
恐らく教会は止まらないだろう。
魔界のスイペンは強い国では無い。
だが報告から気になる事もあるんだ。
だからこの国の王族として使者に赴いてくれ。
それも内密にね、第一騎士団は演習に行かせるといいよ」
「フフフ、演習中に騎士団長の私が数人と共に向かうのが、
スイペン王宮という訳ですか」
「理解が早くて助かるよ」
「フランク、ヴィヴィまで巻き込むのですか」
「母上、ヴィヴィは我が妹、そして騎士団長ですよ。
なによりこの子以上に強い者はこの国にいません。
心配はあるでしょうが、これも王族の勤め」
「お母様、心配しなくてもいいわ。
不埒な者など切り捨てますし、
私も王族として務めを果たしてきます」
三日後、ヴィヴィアンは第一騎士団を率いて演習へと向かった。
副団長へと命令を出しての王都周辺での警戒任務である。
男装の戦姫と言われるヴィヴィアンは僅か三名の供を連れて、密書を携えスイペンへと向かった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
――スイペン王宮――
普通の大学生だったのに、気が付いたら大魔王になっていたのだ。
そして今日まで俺としては頑張っていたのでは無いだろうか。
攻撃魔法は諦めた。
小出しに出来ないのだからしょうがないじゃないよね。
最終手段として使えばSSSクラスの大技なのだ。
凄い様に思えるだろ?
だが標的の大小を問わず勝手に発動する、大規模災害魔法を使う事になるのは不味いだろう。
火の玉で攻撃だ!
しまった小さな太陽で攻撃しちゃった、テヘでは済まないだろう。
幸いな事に付与魔法は可能だし、肉体強化もできたからね、最低限は戦えるはず…
そう思った時期が俺には在ったんだよ。
「ぐっはああああ」
「まだまだで御座います、
まずは魔法で強化しない状態で剣術を覚えて下さい」
現在特訓を受けているのだが、日替わり講師の教えは凄かった。
俺は勿論剣術なんてやったことないし、剣道は学校の体育の時だけだ。
「最低限、私達の攻撃を防ぐだけの技術は身につけて頂きます」
そんな事をしたら俺は死ぬんじゃないだろうか。
「う、うむ、余も頑張ろうとは思うぞ、だがな」
「流石で御座います、では次行きます」
「うぐあ」
ルルは訓練となると手を抜かない。
フクちゃん事フークーもだ。
「「「大魔王様ファイトー」」」
ヴァンパイア一族の親衛隊が応援してくれる。
手を振らなければなるまい、なにせ大魔王なんだ。
「フフフ、流石大魔王様、余裕があるならもう一本」
「まて、今のは空元気だ」
「せい!」
「なんのぉ、ぐほぉ」
なんか俺は選択を間違えてるのではないか。
「大魔王様、ルシール様は魔界三剣の一人と言われてますから」
「そうです、諦めないで」
「耐えるだけでも凄いですよ」
「「「ファイト~」」」
聞いてないよ!
もう、駄目です。連日の特訓を自分から言ったけど無理だよ。
「ヒーロ様大丈夫ですか」
「ああ、問題ない!」
「では、もう一本」
「え?」
終日この遣り取りは続けられる。
果たして大魔王ヒーロは剣豪になれるのだろうか。




