大魔王様とご対面
ギリギリ間に合ったと云っていい頃合に城門へと到着した。
まさに今、女性剣士が兵士に話しかけようと渡した書簡を取り出していた。
セーフ!
いや実際にはアウトだけど、間に合ったらセーフ!
馬を飛ばしてギリギリとはちょっとデートじゃない視察に力が入りすぎた。実際にはまだ見て回らないといけない場所も多いんだけど。
「ちょっと済まない予定より時間が掛かってね」
「先程の、いや構わない丁度私も今着いた所だ」
「じゃあ、一緒に行こうか」
兵士の方はフクちゃんに任せて女性剣士を先導し城内へと入っていく。
「いや、田舎の城と思っていたがこれは中々」
「そうだよね、まだ不便な所はあるけど風格もあるし、悪く無いものだと思う」
「ふむ、これなら私の出身国の館よりも守りやすく住み易いのやもしれぬ」
「それじゃ、暫くこの部屋で待っていてくれ、直に雇用主と話をつけてくる」
「うむ、よろしく頼むよ」
急いで自室に戻って着替えなきゃ!
おっとその前に。
「リオン、これを」
「有り難う御座います、皆大好きなんですよこの焼き菓子」
「それはよかった、是非皆で食べてくれ」
「お帰りなさいませ、あなた」
素晴らしい響きだ……ワンモアと言いたい所だが人を待たせて遊んでる場合じゃないな。
「フクとの外出で思わぬ拾い物ができたかもしれん」
「そうなのですか」
「なかなかの剣士だぞ、今から雇う為の交渉をしようと思ってな、同席するだろう」
「「勿論」」
ルルもヴィヴィも剣士と聞いては見過ごせないだろう。
「しかしお着替えされて尚そのローブでお顔を変えたまま行かれるのですか」
「ああ、ちょっとした悪戯にすぎないがな」
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
案内を伴った女性剣士は何故だか謁見の間に通されている。もしや大魔王様への不敬のせいかと悔やんだけれど紹介状を書いてまでくれた青年のあの剣技をみるかぎり姑息な手段をとるとは思えず、なんとかなるのだろうと寧ろ落ち着いた態度でその場に平伏していた。
「大魔王陛下、並びに魔王陛下、ヴィヴィ王女、御入室である」
普段はこの手の儀式的な入室を嫌う比呂斗だが今日に限ってはノリノリだった。
「さて、推薦を受けての剣士と云う事なのだが……」
「ハッ、この推薦状を頂ました、拙者、未だ修行の身なれど剣には多少の心得をもっておりますれば」
「ふむ、なかなかの腕らしいな」
「一手指南願いたいな」
剣士の血が騒ぐのだろうけど、ルルもヴィヴィも我慢をして欲しい。
「剣の腕は推薦があったが、ふむ、犬神一剣流だったな」
「犬神一剣流口伝継承、レオナ・アルノルトで御座います」
「陛下、まさか三剣の一人をお連れになっていたとは……」
「そうなのか、素晴らしい剣技だったのでな、レオナ、楽にしてくれ」
「ハッ、私生来の不調法者ですので……」
「大丈夫だ、顔を上げてくれれば判る」
「え?あれ?」
「そう云うことだ」
「なんだ、本当に大魔王様の前かと緊張したのだぞ」
「フフフ、成程、そう云うことですね」
「全くアナタも人が悪いですね、レオナさん、正真正銘目の前の方が大魔王様で間違い無いですよ」
「いやしかし、その大魔王様の風貌と似ても似つかないのではないか」
「これでどうだ」
「へ?」
魔術を解除すれば普段通りの黒髪に黒目、黒玉の埋まった額の姿となる。
「だ、だい、大魔王様!」
指差すのは良くないぞ、まあ驚かしたのは俺だから仕方ないし、周りはウンウンと頷いているけどな。
「大魔王ヒーロである、フゥッハッハッハッハ、どうだ驚いてくれたか、できればそのまま我に仕えてくれる約束は守って欲しいのだがな」
「その宜しいのですか?」
「何か問題でもあるのか」
「いえ、その随分と不敬な事を」
「気にするな、実際3人同時に娶る事になっているのは事実だしな、これだけの美女を嫁に貰うのだから多少の批判などあって当然、羨ましさから出る噂話など気にする必要もない、それに貴女程の剣士を在野に留め置くなど出来様筈がない」
「そう云う事で、御免なさいね、お忍び視察だったので正体は明かせなかったの」
フクちゃんも正装の姿に戻って登場したのだが声と姿が一致するまでに時間が掛かったようだ。
「ところでレオナの待遇だが何が相応しいか意見はないか」
「そうですね、本当なら護衛官の長でも任せたいですが流石に即時採用でそれは反対も生みますね」
「拙者その、何でも仕事は出来ますので、水汲みから洗濯まで!」
「三剣の一人にそんな仕事は任せれませんよ」
「宜しいですか」
「うむ」
「三剣の実力、実際に私が見ても素晴らしい物で御座いました、ここは剣術指南役を一旦お引き受け頂くのが宜しいかと」
大丈夫だろうか、ルルにヴィヴィに既にズタボロに成程俺は訓練を受けているし、実際に軍の訓練もルルとヴィヴィの特訓を受けている筈だが……まて4人で責められたら死ぬぞ!?
だが新たな剣技を習うのはちょっと楽しみだな。
だけど、なんだろう剣豪大魔王とかでも俺は目指したいのだろうか、というか目指すように仕向けられてないだろうか、剣豪○○なんて立て篭もって壮絶な最後を迎えるイメージなんだがな。
「うむ、では本日より騎士爵を与えよう、レオナ・フォン・アルノルトその剣技をもって我に仕えてくれ」
「ハッ、我が剣、我が命、我が忠誠は我が主の為に」
騎士爵となると位階では最下位ではあるが、吸血鬼王国で血族以外が爵位を貰う事こそが大事なのだ。実際レオナはその辺りに疎く、仕官先が見つかった事の喜びで全く気がついてなかった。
云うまでも無いけど、次の日からの特訓は鬼のような地獄でしたよ。
やっと3人相手に立ち回れるかと思ったのに4人は無いわー。




